福田正博 フットボール原論

■J1は第9節まで終了し、徐々に調子のいいチーム、悪いチームが見えてきた。なかでも不振が目立つのが、川崎フロンターレと鹿島アントラーズという、開幕前優勝候補と見られていた2チームだ。福田正博氏が両チームの現状を分析した。


川崎フロンターレは第9節で浦和レッズと1−1の引き分け。現在15位

【川崎が痛いのは勝負を決められる選手を欠くところ】

 Jリーグが開幕してから約2カ月が経った。スタートダッシュを決めたチーム、奮闘するチームがある一方、川崎フロンターレと鹿島アントラーズは予想だにしなかった成績に喘いでいる。

 川崎は9試合を終えた時点で、2勝3分け4敗の勝ち点9で15位。鬼木達監督の体制になってからの7シーズンでもっとも苦しい状況にある。この要因は、故障者続出で選手がいないことに尽きるだろう。

 毎シーズンのように主力選手が海外移籍で抜ける一方、新たに獲得した選手がなかなか思うようにチームにフィットできなかった。それでも過去6年間では優勝4度、準優勝1回と抜群の成績を残してきたが、さすがに今季は故障者が続出していることで苦戦している。

 川崎にとって痛いのは、勝負を決めるポジションのフォワードとセンターバックを、猫の目のように変えざるを得ないことだ。やっぱり勝負を決められる選手を欠く影響は大きい。

 試合を通じて自分たちらしさを発揮できる時間帯はあるものの、そこでのクオリティを欠くためにピンチを招き、勝ち星を積み上げられない。

 これが仮に川崎のスタイルが堅守速攻ならば、故障者がこれほど増えてもここまで苦しまなかったはずだ。だが、川崎のサッカーは人とボールが流動的に動くスタイル。メンバーを固定できなければ、積み上げてきたものは断片的にしか表現できなくなるのも当然だろう。

 現状は優勝争いへの分岐点にいると言っていい。このまま故障者が戻らずに戦力が整わなければ、低調なシーズンで終始する可能性はある。逆に、故障者が戦線に戻ってきて、もともと持つ高い地力をフルに発揮できれば、優勝争いに加わることも不可能ではない。

 ただし、そのためには主力が戻るまでにいかに負け数を減らせるか。これが大事だ。シーズン34試合で争われるJ1では、優勝争いに限ればシーズンの負け試合数は8試合がデッドラインだろう。

 たとえば今シーズンが混戦になって勝ち点70で優勝できるとした場合、単純に勝ち点を勝ち負けだけで考えれば、10試合の負けは許容範囲。ただし、実際は引き分けも絡んでくるため、多くても負け数は8試合ほどだ。

 これを踏まえれば、現状で4敗の川崎は土俵際一歩手前にいると言える。故障中の主力選手がしっかりとピッチに戻る日まで、敗戦数を増やさずにしのげるか。そこがポイントになる。

【鹿島はほかのクラブが持ち得ない強みまで手放す必要はない】

 負け数で言えば、川崎よりひとつ多いだけだが、チーム状況でもっと苦しいところにいるのが鹿島だ。

 昨季の課題だったセンターバック陣に昌子源と植田直通が復帰し、攻撃的なポジションも補強したことで開幕前は優勝候補の一角と見ていた。しかし、蓋を開けてみれば期待を裏切られる結果になっている。

 鹿島の難しさは、故障者続出で戦力の整わない川崎とは違い、選手が揃っているのに結果につながっていない点にある。チームとして規律正しくアグレッシブに戦っているものの、結果につながっていない。

 今季の鹿島を象徴した一戦と感じたのが、4月19日にあったルヴァンカップでのアビスパ福岡戦だ。ミッドウィークに行なわれるルヴァンカップでは、リーグ戦でベンチを温める選手をスタメン起用するケースが少なくない。この試合の鹿島もスタメンにはリーグ戦のベンチ組が多く名を連ねた。

 試合は前半14分に福岡に先制されたが、前半31分にアルトゥール・カイキのゴールで振り出しに戻したものの、後半48分に福岡に決勝ゴールを決められた。気になるのは、試合終了間際の勝負強さこそが鹿島の伝統だったはずなのに、それが見られないばかりか、相手に勝ち越しを許したことだ。

 なにも1試合の結果だけを取り上げて言いたいのではなく、ここまでのリーグ戦を含めて、勝利に対する鹿島らしさは見られない。Jクラブの多くがスタイル転換を模索する潮流にあって、鹿島も変えつつあるが、変化を優先するあまり自分たちが築いてきた伝統やアイデンティティーを見失っているように感じられるのだ。

 サッカーのスタイルを時代に合わせて変えるのは悪いことではない。だが、ほかのクラブが持ち得ない強みまで手放す必要はないはずだ。

 鹿島が常勝クラブになれたのは、勝利に対して柔軟で貪欲な姿勢があったからだと思っている。主導権を握れば相手を焦らすようにノラリクラリと戦ってみたり、試合内容で相手に押されっぱなしでも粘り強く戦って、終わってみたら勝利は鹿島が手にしていた。

 こうしたジーコによって植えつけられ、Jリーグ30年のなかで培ってきた強みは、鹿島しか持っていないもの。ほかのクラブが望んでも手にできないものだけに、どういうサッカーを志向しようとも、鹿島らしさは大事にしてもらいたいと思う。

【優勝の目がなくなるとさらに厳しくなる】

 福岡戦でもうひとつ気になったのは、試合途中から鈴木優磨や知念慶といったリーグ戦の主力組をピッチに送り出したことだ。岩政大樹監督が彼らを起用した意図を想像すれば、この福岡戦の直前のリーグ戦(第8節・4月15日)でヴィッセル神戸に喫した1−5の大敗を払拭したかったのではないか。神戸戦に敗れてリーグ戦は4連敗。重苦しい状況を変えたくて、ルヴァンカップの福岡戦は途中から主力組を出して勝利を目指したと思うが、それは裏目に出た。

 そうしたなかで迎えたリーグの4月23日のアウェーでのアルビレックス新潟戦は、負ければチームが崩壊しても不思議ではなかったなかで2−0で勝利した。悪い流れを断ち切れたのは大きい。勝利に優る良薬はないだけに、いいキッカケにしてもらいたい。

 ただ、今季の鹿島は上位進出が目標のチームではない。優勝争いに加わるために戦力を整えているチームが、優勝争いに加わっていくために許される負け数のリミットまで、あと3試合しかない。しかも、これは混戦になって勝ち点70以下での優勝争いになった場合のことで、優勝への勝ち点が高まれば鹿島が優勝争いに加わる芽はついえてしまう。

 それだけに鹿島には、今後もチームマネジメントの難しさがつねにつきまとうことになる。優勝争いをするために準備してきたチームが早々に脱落した場合、「目標を切り替えて上位進出」と言葉にするほど簡単ではないからだ。

 目標を失えば監督の求心力が低下し、坂を転げ落ちるように負けがこむことは往々にしてある。優勝争いは首の皮一枚つながったような状況の鹿島が、ここからどうなるかは注視していきたい。

福田正博 
ふくだ・まさひろ/1966年12月27日生まれ。神奈川県出身。中央大学卒業後、1989年に三菱(現浦和レッズ)に入団。Jリーグスタート時から浦和の中心選手として活躍した「ミスター・レッズ」。1995年に50試合で32ゴールを挙げ、日本人初のJリーグ得点王。Jリーグ通算228試合、93得点。日本代表では、45試合で9ゴールを記録。2002年に現役引退後、解説者として各種メディアで活動。2008〜10年は浦和のコーチも務めている。