チャンピオンズリーグ(CL)準々決勝第2戦──ナポリvsミランのイタリア勢対決。ホームでの第1戦を1-0で勝利していたミランだったが、それでもこの大一番を乗り越えてベスト4に到達することは、そう簡単なことではなかった。

 対戦相手のナポリは、目下セリエAで首位を独走中。第30節終了時点で4位ミランとの勝ち点差は実に22ポイントもあり、ルチアーノ・スパレッティ監督が浸透させたその攻撃サッカーはCLでも"ダークホース"と高く評価されるなど、戦前の予想でも大方がナポリ優位だった。


本田圭佑のイタリア着にミランの空港が大騒ぎとなった2014年

 実際、開始早々から圧倒的にゲームを支配したのは、ホームのナポリだった。対するミランは自陣で守る時間が続くなか、21分にFWラファエル・レオンが得たPKのチャンスでキッカーを務めたFWオリヴィエ・ジルーが痛恨のミス。おそらく熱狂的なミラニスタでも、その時点でミランの勝ち上がりを想像した者は少なかったに違いない。

 ところが34分、ナポリはFWマッテオ・ポリターノとSBマリオ・ルイのふたりが同時に負傷交代。累積警告でCBキム・ミンジェとMFアンドレ=フランク・ザンボ・アンギサの主軸ふたりを欠いていたナポリが想定外の事態に見舞われたことで、勝敗の行方は混沌とした。

 そして43分、ナポリのMFタンギ・エンドンベレのミスパスを自陣でラファエル・レオンがカットすると、自慢の高速ドリブルで一気に敵陣ボックス内に進入。ラファエル・レオンのクロスをジルーが決めたミランは、ナポリの反撃を後半アディショナルタイムの1点だけに抑え、2試合合計2-1で勝利を収めることに成功した。

 ボール支配率は、ナポリの63%に対してミランは37%。シュート数でもナポリの23本(枠内4本)に対し、ミランは6本(4本)のみ。CLの決勝トーナメントには魔物が住むと言われるが、ミランにとってはまさに薄氷を踏む勝利だった。

【ピルロ、カカ、インザーギ...】

 いずれにしても、これでミランは準決勝に進出。通算7度の欧州制覇を誇る名門クラブにとっては、最後に優勝した2006-07シーズン以来の出来事となった。まだ名門復活と言うのは早計だが、ミラニスタの喜びもひとしおだろう。

 今から16年前──決勝の舞台でミランがリバプールを破ってビッグイヤーを掲げた当時のメンバーは、パオロ・マルディーニとアレッサンドロ・ネスタのCBコンビが最終ラインに構え、中盤はアンドレア・ピルロを中心に、ジェンナーロ・ガットゥーゾ、クラレンス・セードルフ、マッシモ・アンブロジーニで構成。前線にはプレーメーカーのカカと点取り屋のフィリッポ・インザーギが君臨するという、欧州屈指の豪華メンバーを揃えていた。

 しかも指揮を執っていたのは、現在ディフェンディング・チャンピオンのレアル・マドリードを率いるカルロ・アンチェロッティ監督だ。2001年から8シーズンにわたってミランを率いた名将は、その間、CLでは初年度のベスト4を皮切りに、優勝、ベスト8、準優勝、ベスト4、優勝、ベスト16と、無類の強さを誇っていた(最後の2008-09シーズンのみUEFAカップに出場)。

 そんな栄光の時代が暗転し始めたのは、現ユベントス監督のマッシミリアーノ・アッレグリ時代にセリエAで8位に沈んだ2013-14シーズン。とりわけ2013年11月に勃発したフロントの内紛劇が「暗黒時代幕開け」の予兆となった。

 それまで長きにわたって黄金期を支えた元会長で、当時オーナーだったシルヴィオ・ベルルスコーニの娘バルバラが経営の全権を掌握するアドリアーノ・ガッリアーニ副会長を痛烈に批判し、クーデターを画策。結局、オーナーの仲裁で内紛の当事者ふたりによるトロイカ体制という形で決着したが、以降もアッレグリ監督の解任、セードルフ新監督の招聘と、現場の混乱が続いたことで、ついに15シーズン継続していたヨーロッパカップ出場権を失う事態となった。

 ちなみに、そのシーズンの冬の移籍マーケットで迎え入れた新戦力のひとりが、日本の本田圭佑だった。

【ベルルスコーニ帝国の崩壊】

 新人監督のフィリッポ・インザーギに改革を託した翌2014-15シーズンはさらに10位に順位を落とすと、シーズン終了後にはベルルスコーニが株式の48%をタイ人の実業家ビー・テチャウボン氏に売却。会長ひとりの財力だけではビッグクラブを維持できなくなったという時代背景があったにせよ、いよいよベルルスコーニ帝国は崩壊目前となった。

 その時期からクラブのメイントピックは、ピッチではなく株式売却問題へとシフトチェンジ。さまざまな憶測が広がるなか、ようやく経営権の譲渡先が決まったのは2016-17シーズンの終盤のことだった。新オーナーとなったのは、投資家のリー・ヨンホン氏。当時ヨーロッパを席巻し始めていた中国資本だ。

 その間、シニシャ・ミハイロヴィッチ監督が率いた2015-16シーズンは7位で終わるも、ヴィンチェンツォ・モンテッラ監督を招聘した翌2016-17シーズンは6位にまで復活して、ヨーロッパリーグ(EL)出場権を獲得。残念ながら出場機会を減らした本田は、そのシーズンを最後に契約満了で退団した。

 久しぶりにヨーロッパの舞台に戻った2017-18シーズンは、新オーナーが約2億ユーロを投じて大型補強を断行。ユベントスからDFレオナルド・ボヌッチを引き抜くなどスクデットを狙える陣容を整えたが、そんな矢先、中国資本がわずか1年で債務不履行に陥ってしまい、米ヘッジファンド「エリオット・マネジメント」に株式を没収されるという、まさかの事態に。

 再びクラブに激震が走ったが、現場ではシーズン途中から指揮を執ったジェンナロ・ガットゥーゾ新監督の下でEL出場圏内の6位をキープ。財政規律違反でEL出場権を剥奪されるところだったが、エリオットが救世主となって最悪の事態は免れた。

 そういう意味で、ミランが復活への道を歩み始めたきっかけは、オーナーがエリオットになってからと言っていいだろう。特に2019-20シーズン、強化責任者のマルディーニの下、財政再建と未来を見据えた若手中心のチーム編成に切り替えたことが大きかった。

【CL決勝で再会を果たせるか?】

 そのシーズンに獲得した伸び盛りの若手が、DFテオ・エルナンデス(レアル・マドリード→/フランス代表/25歳)、MFイスマエル・ベナセル(エンポリ→/アルジェリア代表/25歳)、MFラデ・クルニッチ(エンポリ→/ボスニア・ヘルツェゴビナ代表/29歳)、FWラファエル・レオン(リール→/ポルトガル代表/23歳)。

 翌2020-21シーズンの新戦力が、DFピエール・カルル(リヨンB→/U-21フランス代表/22歳)、MFサンドロ・トナーリ(ブレシア→/イタリア代表/22歳)、MFブライム・ディアス(レアル・マドリード→/スペイン代表/23歳)。そして昨シーズンには新守護神マイク・メニャン(リール→/フランス代表/27歳)が加わって、現チームの骨格が完成した。

 ステファノ・ピオリ現監督の下、11年ぶりに手にした昨シーズンのスクデットも、16年ぶりに到達した今回のCLベスト4の快進撃も、名門復活の明るい兆しだ。今シーズン、新たにアメリカの投資会社「レッドバード・キャピタル・パートナーズ」がクラブを買収したが、その財力を考えれば、以前のようなフロントのドタバタ劇は起こらないだろう。

 果たして、宿敵インテルとのミラノ・ダービーとなったCL準決勝は、いかなる結果が待ち受けているのか。ミラニスタにとっての理想は、ファイナルの舞台でアンチェロッティ監督と再会することだ。