いちい信用金庫尾西支店にオープンした「おもしろ自販機スーパー」(筆者撮影)

金融機関でズラリと並んでいるものといえば、ATM。しかし、昨年12月、愛知県一宮市の尾西地区にオープンした「いちい信用金庫」尾西支店のATMは1台。その代わりに16台もの自販機がズラリ。全国信用金庫協会によると、信用金庫内にこの数の自販機を設置するのは全国的に珍しいという。

もともとは三菱UFJ銀行尾西支店だった

コロナ禍の非接触需要が追い風となって、飲料や食品のみならず、ありとあらゆるものが自動販売機で売られるようになり、今や街のいたるところで見かける。なぜ、信用金庫の中に自販機が設置されたのかは後ほど説明するとして、いちい信用金庫とここ、尾西支店について触れておこう。

愛知県一宮市に本店を置くいちい信用金庫は2003年、一宮信用金庫と愛北信用金庫、津島信用金庫が合併して発足。現在、愛知県内に48の店舗がある。営業エリアは愛知県の尾張地区と名古屋市内全域、岐阜県南部、三重県北部と広範囲にわたる。

「もともとこの場所には三菱UFJ銀行尾西支店がありました。2020年に尾西支店が一宮支店に統合されることになり、当金庫に土地と建物の購入について打診があり、ご縁があって取得できたものなんです。この建物は尾西地区の中心地にあり、お客様にとっても大変利便性の良い場所なんです」と話すのは、いちい信用金庫総合企画部の白瀧智彦さんだ。


いちい信用金庫尾西支店の外観(筆者撮影)

もともと銀行として使っていた建物であれば、信用金庫にとっては居抜き物件のようなもの。建物を壊して更地から店を建てるよりも格段にコストが安くなることもあり、いちい信用金庫は三菱UFJ銀行の申し出を承諾し、尾西支店開設を決めた。

三菱UFJ銀行尾西支店には、入口近くに8台のATMが設置された70平方メートルの広いスペースがあった。尾西支店の開設にあたり、その有効活用について話し合われた。

「尾西支店に足を運ばれるお客様に喜んでいただくにはどうすればよいのか、様々なアイデアが出ました。例えば、喫茶コーナーを設置してはどうかという案も出ましたね」(白瀧さん)

他には病院とタイアップした健康相談コーナーや、取引先の店や企業の商品を販売するアンテナショップを出店するという案もあったという。

ネットが使えない高齢者も気軽に購入できる

「どの案も人手が必要となり、人手不足の中小・零細企業にとっては負担が大きいのではないかと考えました。そこで当金庫の川口敏男理事長から、『自販機を置いてみてはどうか』というアイデアが出されました。自販機であれば、人手は要らないですし、取引先の売り上げ支援にもなりますからね」(白瀧さん)

いちい信用金庫の取引先に自販機を扱う会社があったため、話をもちかけ、いちい信用金庫が場所を提供し、自販機業者が運営を担う形で営業することに。昨年12月12日の尾西支店オープンに合わせて商品を揃えることとなり、販売対象となったのは、いちい信用金庫の営業エリア内にある取引先。その中から自販機向けの商品がありそうな店や自動販売機に興味がある企業を絞り込み、営業店の職員が出店を呼びかけた。

「それがかなり大変な作業で、2カ月くらいかかりました。自販機で売れそうと思っても、サイズが大きすぎて自販機に入らず、パッケージの端を折り曲げて、小さくした商品もありました」(白瀧さん)


地元で製造されている衣料品も人気(筆者撮影)

中には新しい商品を作ったものの、ネット販売以外の販路がなくて困っていたところに自販機での出店の話があって、大変喜ばれたということも。自販機であればネットが使えない高齢者も気軽に購入できるのも大きなメリットだろう。

いちい信用金庫は、この自販機コーナーを「おもしろ自販機スーパー」と名付け、買い物かごやカートも用意した。営業時間は平日が8時45分〜19時、土・日・祝は9時〜19時。出店する企業は70社前後で、食料品のみならず文房具や衣類、日用雑貨など多岐にわたり、全部で約200アイテムにものぼるという。価格も100円台から5000円台までと幅広く、商品を眺めているだけで楽しい。実際、この日、尾西支店を訪れた客の大半はおもしろ自販機スーパーに立ち寄り、買い物を楽しんでいた。

「売り切れになってしまうのは、一宮市内にある養鶏場から届く生みたての卵です。1パック300円で販売されています。変わったところでは、婦人用のセーターですね。メーカー希望小売価格5500円が3000円で購入できます。当金庫の本店がある一宮市は昔から繊維業が盛んなので、衣料品も人気ですね」(白瀧さん)

16台ある自販機のうち、約半分は冷凍食品。カルビや塩タン、ホルモンなど焼肉の材料や、参鶏湯やタッカンマリ、キンパなどの韓国料理、ラーメン、和洋スイーツと、かなりの品揃え。昼食や夕食のおかずに買っていく客も多いという。

いちばんの人気商品は地元チェーンの餃子

特筆すべきは街中に設置された自販機でもよく見かける冷凍餃子。全部で7種類もあり、個数や価格、こだわりのポイントはさまざま。中でも一宮市に本社があり、東海地方を中心にチェーン展開している「岐阜タンメン」のにんにく餃子がいちばんの人気商品とか。

岐阜タンメンのにんにく餃子といえば、直営の無人販売所の他、岐阜県内のスーパーの一部でしか購入することができないことと、やはり地元におけるネームバリューの高さだろう。「岐阜タンメン」を運営する岐阜タンメンBBCに話を聞いてみた。


いちばん人気の「岐阜タンメンのにんにく餃子」(筆者撮影)

「昨年、いちい信用金庫一宮支店様から『地域の店や企業の活性化のために協力してほしい』と、自販機への出店依頼をいただきました。弊社も無人の物品販売に可能性を感じていたので快諾しました。にんにく餃子は、店舗で提供している餃子をベースに、にんにくを約3倍に増量しています。パンチのきいた味わいが好評で、おもしろ自販機スーパーでは月に40袋ほど売れています」(岐阜タンメンBBC・広報)とか。

自販機の商品は定期的に入れ替えるそうだが、エリアごとの名物や特産品を一堂に集めて自販機による物産展を開催したり、特定の商品、例えば餃子の自販機だけを集めたイベントを開催したりとアイデアはどんどん広がる。また、出店している店や企業がコラボで新たな商品が生まれる可能性もあるだろう。


商品のチラシやサンプルが置かれたラック(筆者撮影)

「実際のスーパーとは違って、自販機は商品を手にとって見ることができません。そこでラックを設置してチラシやサンプルを置いていますが、まだまだ改善の余地はあると思っています。おもしろ自販機スーパーは手探りの中ではじめたばかりですが、今後も取引先の販路拡大に尽力してまいりたいと思っています」(白瀧さん)

取引先、ひいては地域の活性化のために頑張ってほしいと願うばかりである。

(永谷 正樹 : フードライター、フォトグラファー)