三笘薫と久保建英の進化を風間八宏が解説 今後の課題は「マークされてもボールを受ける」「相手の視野から消える動き」
独自の技術論で、サッカー界に大きな影響を与えている風間八宏氏。今回は欧州のサッカーシーンで、毎週のプレーが注目されている三笘薫と久保建英を分析してもらった。今季活躍できている理由、そして今後さらに飛躍するには、どんなポイントがあるのだろうか。
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三笘薫(左)と久保建英(右)の今季の進化と今後の課題を、風間八宏が解説した
ヨーロッパでプレーする日本代表選手のなかで、特に注目を集めているのが三笘薫と久保建英の2人だ。どちらもカタールW杯の舞台に立ち、今シーズンから新天地に活躍の場を移したという共通点もある。
果たして、今シーズンの2人はどのような成長を遂げているのか。独自の視点を持つ風間八宏氏が、2人の進化について解説してくれた。
ひとり目は、今シーズンからプレミアリーグ(イングランド)で好調を維持するブライトンでプレーする三笘だ。とりわけカタールW杯後の活躍ぶりは目を見張るものがあり、今ではチームに欠かせない中心選手としてゴールとアシストを量産している。
そんな三笘の成長を、風間氏はどのように見ているのか。まずは三笘の特徴について、改めて聞いてみた。
「もちろん最大の武器はドリブルになりますが、彼のドリブルは自分の体とボールが一緒に動くという特徴があります。しかも、前に出ると見せかけながら、ヒザでタメを作っておいて、相手が来る瞬間にそのままの体勢で前に出て行くことができます。逆に、同じ体勢でも前に行かない場合もあるので、相手にとっては次に何をするのかがとてもわかりにくいドリブルです。
加えて、ボールを運んでいる時のスピードもあって、相手に捕まりにくい。相手との間合いや自分が立つ場所によってボールの置き場所を変えるので、相手は足を出したくてもなかなか出せないと思います。
これは彼特有のドリブルテクニックで、ほかの人がやろうと思ってもなかなかできません。ヒザや足首が柔らかく、ボールの衝撃を和らげることができるからこそ、こういった技術を身につけられたのでしょう」
【三笘の今後の課題はマークにつかれてもボールを受けられるか】ドリブルは三笘の代名詞でもあるが、ブライトンに移籍してからの三笘のプレーを見ると、そこにはある変化が生まれていると、風間氏は指摘する。
「ひとつは、最近はゴールに近い場所でプレーすることが増えているという点です。先日の日本代表戦(コロンビア戦)のヘディングによるゴールがその象徴で、今シーズンのリーグ戦でもゴール前で決定的な仕事をする機会が増えました。
また、ドリブルが相手に警戒されている場合は、一度味方を使ってから自分が違う場所に入ってボールを受け直すこともあり、相手の背後をとってボールを受ける動きもするようになりました。
おそらく監督からも指示されているのでしょうが、サイドだけでなく、内側でもプレーするようになったことが、ペナルティーエリアの中でプレーする回数を増やしている要因になっていると思います」
目に見える進化を見せている三笘について、風間氏はさらなるレベルアップを期待して、今後の課題についても言及してくれた。
「現在の三笘は、空いている場所を探してボールを受けていますが、これからはマークにつかれている状態、あるいは空いていない場所でもフリーになってボールを受けられるかどうか、ですね。要するに、狭い場所でも相手を外すことができるようになると、もうワンランク上の選手に成長できると思います。
強豪と言われるチームでは、狭い場所やマークされている状況のなかでボールを受けるところから、プレーを始められないといけません。それができるようになると、自然とドリブルの回数は減ると思いますが、逆に決定的な仕事をする回数は増えるはずです。もっと言えば、それができるようになれば、彼の武器であるドリブルがもっとゴールに直結するようになるのではないでしょうか」
【久保の飛躍のポイントは相手の視野から消える動きを覚えること】では、今シーズンからレアル・ソシエダでプレーする久保は、どのような変化を見せているのか。プレーの特徴も含めて、風間氏が解説してくれた。
「まず、久保には相手を翻弄するための技術があります。ボールを体から離さないドリブルが特徴のひとつで、同じ体勢から精度の高いパスも供給できます。そういう意味では、チャンスメイクの部分で自分の能力を最大限に発揮できる選手です。
さらに、今シーズンからレアル・ソシエダに移籍して、それまでに見られなかった成長を見せていると思います。それは、シュートやゴールが増えていることです。
特に今シーズンの前半戦は前線(2トップ)を任されていたこともあって、以前よりもゴールに近い場所でプレーするようになりました。それが、ペナルティーエリア内でプレーする回数が増加した最大の理由です。
もちろん、最近はサイドや2列目など、任されるポジションが少し変わったことによって、ペナルティーエリア内でプレーする回数は減少しています。それによってゴールやアシストがそこまで増えていません。ただ、久保自身が相手にとって危険な場所でプレーできるようになった点に変わりはないので、選手としてひとつ成長したのは間違いありません」
スペインに活躍の場を移して4シーズン目を迎え、ようやくひと皮むけた印象を受ける久保だが、風間氏は「久保がボールを持った時に周りの選手が動いてくれる。逆に、久保の動いたところにも周りからパスが出てくる」と、新天地レアル・ソシエダと久保の相性のよさも、成長の要因になったと分析する。
では、このまま久保がさらにスケールアップするためには、何が必要なのか。敢えて風間氏に質問をぶつけてみた。
「今のところ、久保はボールを持ってからプレーする選手なので、なるべく試合中にたくさんボールに触れないと、彼のよさが半減してしまう傾向があります。そういう意味では、ボールを受ける、相手を外す、という技術をもっと覚えていくと、さらにレベルアップできると思います。
たとえば、現在の久保は相手の前でプレーしていることが多い印象を受けます。よく相手に倒されてファールをもらうシーンを見ますが、それは相手の前でプレーする回数が多いからです。もちろんそれも彼の特徴のひとつだと思いますが、もっとゴールやアシストといった決定機に絡むためには、相手の背後でプレーする回数を増やす必要があります。
わかりやすく言えば、相手の視野から消える動きを覚えることです。そうすれば、前線の狭い場所でもっとボールを受けられるようになりますし、相手を外すことができるようになると思います。その技術を磨けば、あれだけの技術とセンスを持っている選手なので、もっと相手の脅威になれるはずです。
逆に言えば、それを覚えていかないと、いくら自分が高い技術を持っていても、相手の嫌がる場所でその技術を発揮できないということになります」
三笘も久保も、ここまでは順調に日本を代表するアタッカーへと成長することができた。ここからさらに成長を続け、世界を代表するアタッカーへと進化していけるのか。今後も、三笘と久保のプレーから目が離せない。
風間八宏
かざま・やひろ/1961年10月16日生まれ。静岡県出身。清水市立商業(当時)、筑波大学と進み、ドイツで5シーズンプレーしたのち、帰国後はマツダSC(サンフレッチェ広島の前身)に入り、Jリーグでは1994年サントリーシリーズの優勝に中心選手として貢献した。引退後は桐蔭横浜大学、筑波大学、川崎フロンターレ、名古屋グランパスの監督を歴任。各チームで技術力にあふれたサッカーを展開する。現在はセレッソ大阪アカデミーの技術委員長を務めつつ、全国でサッカー選手指導、サッカーコーチの指導に携わっている。