マンチェスター・シティ、遅攻の理想が凝縮されたサッカーでバイエルンに大勝 CL初制覇が見えてきた
マンチェスター・シティ対バイエルン・ミュンヘン。ブックメーカー各社の予想によれば、チャンピオンズリーグ(CL)のベスト8に名乗りを挙げたチームのなかで、1番人気と2番人気のチームだった。
組み合わせ抽選の結果、その両チームが準々決勝でいきなり対戦することになった。事実上の決勝戦とはよく使われる言い回しだが、実際の戦いが、高い位置からプレスの網がよく掛かった今日的な試合になるのは当然だった。大一番にふさわしい、緊張感漂う重厚な試合となった。戦術的にはカタールW杯決勝よりハイレベルな戦いに見えたほどだ。
マンチェスター・シティにはCL優勝の経験がない。金満クラブになって十数年が経過するが、2020−21シーズンの準優勝が最高位だ。その時は同じく金満系クラブのチェルシーに、前評判では上回りながら敗れている。毎シーズン、決勝トーナメントの大一番で足もとをすくわれるような敗戦をマンチェスター・シティは繰り返してきた。その遅攻メインのサッカーに、どこか甘さを感じたものだった。
対するバイエルンには、過去6回の優勝経験がある。しかし、敗れる時は間の悪いプレーが絡んでいた。試合の波に乗ることができず、まさかの敗戦を喫してきた。マンチェスター・シティの現監督、ジュゼップ・グアルディオラが監督を務めていた時代(2013−14〜2015−16)から引きずっている傾向でもある。10シーズン連続でブンデスリーガを制している絶対王者。言い換えればふだん、無風区を戦うビッグクラブの悲しい性を、欧州のトップレベルの舞台でしばしば露呈させてきた。
それぞれが内包する悪い癖を曝すのはどちらか。
パッと見、マンチェスター・シティのサッカーはいつになく厳しそうに映った。開始直後の雰囲気にピンとくるものを感じた。バイエルンとの違いを具体的に挙げるならば、両ウイングのウイングプレーだ。4−3−3のマンチェスター・シティと4−2−3−1のバイエルン。布陣は微妙に異なるが、両サイドにサイドアタッカーを各2枚配置する、攻撃的サッカー系であることに変わりはない。
【遅攻の充実度で上回ったマンチェスター・シティ】
そのサイド攻撃がより充実していたのは、ジャック・グリーリッシュ(左)と、ベルナルド・シウバ(右)を左右に置くマンチェスター・シティだった。ウインガーにしては内寄りに構えたレロイ・サネ(左)、縦へのスピードを追求したキングスレイ・コマン(右)というバイエルンの両ウイングとは、趣を異にした。
バイエルン戦で2点目を決めたベルナルド・シウバ(マンチェスター・シティ)
サイドの深い位置にボールがスッポリと収まるサッカーのメリットを見せられた試合。この一戦の印象をひと言でいえばそうなる。ベルナルド・シウバとグリーリッシュにボールが渡れば、そこは攻撃の拠点となった。両翼いっぱいに開いて構える両者のキープ力が、マンチェスター・シティの遅攻を安定化させた。遅攻の充実度という点で両者には大きな違いがあった。
得点に直結したのは前半27分。グリーリッシュを経由したボールが逆サイドで構えるベルナルド・シウバにボールが収まる。ポルトガル代表の左利きの技巧派は、後方で構えるジョン・ストーンズとパス交換を交えつつ、中央の様子をうかがいながらさらにボールをキープした。
そして、バイエルンの右守備的MFレオン・ゴレツカが右寄りにポジションを取る動きを見計らうと、密度が薄くなった中央に横パスを返した。そこに現れたのがアンカーのロドリで、慌ててマークに駆け寄ったジャマル・ムシアラを深々とした切り返しでかわすと、左足のインフロントでバイエルンゴール左上に円やかな弧を描く鮮やかなシュートを蹴り込んだ。
90分×2本。ホーム&アウェーで行われる準々決勝において、この先制点は通常の試合よりは重みがない。しかもアウェー戦だ。焦らなくてもいいはずだが、ブンデスリーガで10年間、優勝し続けている、苦戦に慣れていないバイエルンは慌てた。
後半25分、バイエルンの右センターバック(CB)、ダヨ・ウパメカノは、左CBマタイス・デ・リフトからボールを受けると、動きがおぼつかなくなり、グリーリッシュにボールを奪われてしまう。それを受けたアーリング・ハーラントが、逆サイドにマイナスのセンタリングを柔らかく送り込むと、そこにはどフリーでベルナルド・シウバが構えていた。マンチェスター・シティに追加点が生まれた瞬間である。
【効いていたシティの両ウイング】
バイエルンが敗れるパターンをそこに見た気がした。
その6分後にもハーラントのゴールで、マンチェスター・シティは、事実上の決勝戦と言われたこの大一番を3−0で折り返すことになった。ベスト4進出を8〜9割、手中に収めたと言っても言い過ぎではない。
利いていたのはやはり両ウイングで、マン・オブ・ザ・マッチはベルナルド・シウバになる。もし両翼の深い位置でボールを奪われても、自軍ゴールまでは遠い。真ん中で奪われた場合より逆モーションに陥らず、反転速攻を受けにくい。マンチェスター・シティの遅攻には安定感があった。
パスを引っかけられ逆襲を食らう。ショートカウンターを浴びる。これこそがマンチェスター・シティの負けパターンだと踏んでいたが、そうしたシーンはほぼゼロだった。
真ん中で奪われるシーンは、バイエルンのほうが目立った。ロドリが挙げた先制点のシーンがそれだ。攻撃の始点はバイエルンの左ウイング、サネが中央に入り込み、四方を囲まれた瞬間だった。
サネは先述のとおり、中央寄りにポジションを取った。サイドで構えていては孤立するからだ。左サイドバック(SB)、アルフォンソ・デイヴィスが、ベルナルド・シウバのウイングプレーに翻弄され、高い位置を取れなくなっていたこととそれは深い関係がある。
サネは終盤2度、マンチェスター・シティゴールに鋭いシュートを飛ばしている。GKエデルソンの好守が光ったシーンでもあったが、正面からいまにもシュートを放ちそうな体勢から放たれた一撃だったので、守りやすいシュートであったことも事実だ。目線が振られる格好になるマンチェスター・シティの、両サイドを使った立体感のある攻撃とは一線を画していた。
カウンターを浴びにくい遅攻。この日のマンチェスター・シティは、まさしく遅攻の理想が凝縮されたサッカーを展開した。これを最後まで続けることができればCL初優勝の可能性は高い。次戦以降が楽しみになってきた。