質の良い睡眠をとる方法を睡眠専門医が解説!【快眠・熟睡】
眠りが浅く夜中に目が覚めてしまったり、翌朝も疲れが残っていたりなど、睡眠の質が低いと日々の生活に大きな影響を及ぼしてしまいます。
質の良い睡眠がとれていれば、翌朝すっきりと起きることができ、昼間の活動に支障をきたすこともありません。
そこで今回、内科と睡眠障害の専門医である阪野クリニックの阪野勝久院長に、睡眠の質を高めるために大切なことと、セルフケアのヒントを教えていただきました。
日本睡眠学会専門医、医学博士
阪野クリニック 院長
https://banno-clinic.biz/
愛知医科大学大学院修了後、マニトバ州立大学医学部に留学。睡眠医学の権威であるクリーガー教授の指導を受けた。内科、循環器内科、抗加齢医学の専門医も取得し、睡眠医学との融合を念頭においた診察を行っている。米国内科学会上級会員(FACP)に昇格。現在は、名鉄岐阜駅近くで、睡眠障害の診療を続けながら、メディアでの睡眠の啓蒙活動をしている。
睡眠の質のポイントは「少ない中途覚醒」と「深いノンレム睡眠」
質の良い睡眠をとるためには、中途覚醒が少なく、眠りの深いノンレム睡眠とレム睡眠がきちんととれていることが大切です。
中途覚醒とは、睡眠の途中で目が覚めてしまう状態です。目を開けていなくても、無意識のうちに脳が目覚めてしまっている状態になることもあります。
中途覚醒により睡眠は断片化してしまうため、できるだけ覚醒が少ないほうが睡眠の質が良くなります。
私たちは眠りについた後、約90分ほどの周期で、脳を休息させるノンレム睡眠と、身体を休ませるレム睡眠を繰り返しています。
ノンレム睡眠は3段階に分かれており、N1・N2・N3の順に眠りが深くなります。このうち、睡眠時間の前半に表れるノンレム睡眠のN3(深い眠り)が十分にとれると、睡眠の質が良いと言えます。
質の良い睡眠をとるためには、以下のような生活習慣や環境の改善がポイントになります。
<十分な睡眠時間を確保する>
成人の場合、7時間程度が1つの目安となります。
日中の眠気がなく、活動しているときに集中を保つことができる睡眠時間を探してみてください。個人差はありますが、年齢の上昇に伴い、必要となる睡眠時間は短くなります。
<睡眠サイクルが保たれている>
前述したように、睡眠中はノンレム睡眠とレム睡眠を繰り返しています。このサイクルがしっかりと保たれていることが大切です。
<就寝と起床時刻を一定にする>
日々の睡眠リズムを一定に保つ効果があるため、休日であっても平日と同じ時刻に起床・就寝することが大切です。
<中途覚醒を少なくする>
中途覚醒により睡眠が断片化すると、睡眠サイクルが乱れてしまいます。
無意識であっても、かゆみや痛みにより覚醒してしまうことがあります。また、睡眠時無呼吸症候群やレストレスレッグス症候群などの睡眠障害も中途覚醒の原因となります。
そのほか、温度や湿度、光や騒音も中途覚醒の原因となることがあるため、寝室の環境を整えることも大切です。
睡眠の質を高める方法
睡眠の質を高めるために、日常生活に取り入れると良いことをご紹介します。
適度な運動
適度に体を動かすことで、眠りの質を高めることができます。有酸素運動や筋トレ、ヨガなどがおすすめです。
就寝前に激しい運動をしてしまうと、身体が興奮状態になり、眠りにつきにくくなってしまうので気を付けましょう。
まずは週3回程度、1回あたり30~60分を目安に行ってみてください。
<有酸素運動>
ジョギングや早歩き、水泳やサイクリングなど、30~60分を目安に行いましょう。眠りの質の改善や、不眠症状の軽減に効果的です。
有酸素運動を行う場合は、就寝時間の2~3時間前までに終了するようにしましょう。
運動することで体温が上昇し、30~90分経過すると徐々に体温が低下していきます。このときの体温低下も入眠を助けます。
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<筋トレ>
骨格筋を鍛えるための運動も睡眠に効果があります。寝つきを良くしたり、中途覚醒の回数を減らしたりする効果が期待できます。
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<ヨガ>
腹式呼吸や瞑想、ストレッチなど、ヨガはリラックス効果があり、入眠を助けます。不眠の改善にも効果が期待できます。
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睡眠に役立つ栄養素をとる
眠りに良いと考えられる栄養素として、グリシンやGABA、トリプトファンなどがあります。
<グリシン>
中枢神経系に作用して深部体温を下げる効果があるため、寝つきを助けると考えられています。夜に摂取するのがおすすめです。
グリシンは、カジキマグロ、牛スジ、鶏軟骨、豚足、エビ、ホタテ、カニなどに含まれています。
<GABA>
GABAは中枢神経の興奮を抑える物質として知られていますが、GABAを食べ物から摂取しても、脳内に直接入ることはできません。
しかし、血液中に取り込まれたGABAは、末梢の自律神経系に作用し、交感神経を抑えて副交感神経が優位になるため、入眠を助けると考えられています。
GABAは、チョコレート、発芽玄米、キムチ、納豆、じゃがいも、トマトやケール、パプリカ、ブドウ、メロンなどに含まれています。
<トリプトファン>
トリプトファンは、セロトニンと呼ばれる神経伝達物質の材料となります。
セロトニンは日中に分泌され、覚醒させたり、ストレスを和らげたりする働きがあり、夜間になると、睡眠ホルモンと呼ばれるメラトニンに変換されます。
そのため、適量のトリプトファンを摂取することで、眠りを促進させる働きのあるメラトニンの生成に役立つと考えられています。朝に摂取するのがおすすめです。
トリプトファンは、大豆製品(納豆・豆腐・みそ)、乳製品(チーズ・牛乳・ヨーグルト)、卵、サーモン、牛肉、豚肉、バナナ、米、小麦、ナッツなどに多く含まれています。
トリプトファンは、糖質とビタミンB6と一緒に摂取すると効果的です。炭水化物(米やパンなどの穀類)などの糖質と一緒に摂取することで、トリプトファンが脳へ移行しやすくなります。
ビタミンB6は、セロトニンの合成を助ける効果があります。ビタミンB6は、マグロ、かつお、赤身肉、バナナ、ピスタチオ、にんにく、焼き海苔などに多く含まれています。
トリプトファンを余分に摂取しても、メラトニンがたくさん生成されるわけではありません。
厚生労働省の食事摂取基準によると、成人のトリプトファンの必要量は「4.0mg/kg/日」です。例えば、体重50kgであれば、200mgが目安となります。
質の良い睡眠のために気を付けること
質の良い睡眠をとるために、気を付けたいことをご紹介します。
アルコールの摂取
アルコールには入眠作用がありますが、眠りが浅くなってしまいます。また、利尿作用もあるため、中途覚醒の原因となります。
成人男性の場合、日本酒1合(180ml)を代謝するのに3~4時間かかるため、アルコールを飲む場合は就寝する4時間前までに飲むと良いでしょう。
喫煙
タバコの煙に含まれるニコチンは、血液を介して全身に広がり、血圧と心拍数を上昇させます。これにより脳が覚醒し、眠りにつきにくくなったり、眠りが浅くなったりします。
また、タバコの煙の中に含まれる有害物質が、喉の粘膜に炎症を引き起こし、鼻や口蓋垂(こうがいすい)、咽頭粘膜が腫れるので、気道が狭くなります。
その結果、いびきをかきやすくなり、中途覚醒の原因にもなります。
カフェインの摂取
カフェインは、睡眠をもたらす脳内物質「アデノシン」の働きをブロックし、覚醒を促します。
また、利尿作用もあるのでカフェインを夜に摂取すると、睡眠中にトイレに起きてしまうこともあります。カフェインを摂るのは朝がおすすめです。
ブルーライトを浴びない
ブルーライトは、人の目に見える可視光線に含まれている青色光のことで、可視光線のなかで最も波長が短く高いエネルギーを持っています。
太陽光から放射されているほか、パソコン、スマートフォン、テレビなど、バックライトにLEDが使われている液晶画面からも発せられています。
夜遅い時間にブルーライトを浴びると、体が昼間の環境であると判断し、メラトニンの分泌が抑制されてしまうため、眠れなくなってしまいます。
昼寝
睡眠不足や疲れているとき、短時間の仮眠で疲労や眠気を解消することができます。
しかし、長時間仮眠をとってしまうと、夜眠れなくなる原因にもなります。昼寝をする場合は、午後3時までの時間帯で、20~30分を目安に行いましょう。
騒音
騒音によって入眠が困難になったり、中途覚醒が起きたりすることで、眠りの質が低下してしまいます。騒音が気になる場合は、耳栓を活用するなどの対策をしましょう。
ストレス
ストレスがあると、眠っている間も緊張状態で交感神経が刺激されるため、眠りが浅くなります。休息を十分にとったり、気分転換をしたりするなど、自身に合った方法でストレスを発散しましょう。
鉄分不足
鉄分が不足することでドーパミンの働きが低下し、「足がムズムズする」「ふくらはぎの辺りに、ソワソワした感じがする」「足をじっとしていられない」といった下肢の違和感が表れることがあります。
これにより睡眠が浅くなり、途中で目が覚めてしまうなど、睡眠の質が低下します。また、目が覚めていなくても、足が動くことで脳が覚醒してしまいます。
「レストレスレッグス症候群」や「周期性四肢運動障害」を発症している場合もあるため、気になる場合は病院を受診しましょう。
不調の原因は睡眠不足かも
睡眠不足により疲労感が続くと、免疫力が低下し、感染症にかかりやすくなります。
また、生活習慣病の発症リスクが高まったり、精神状態にも変化をきたしたりもします。もし不調が続いている場合は、睡眠を見直すことをおすすめします。
今回ご紹介した睡眠の質を高めるためのヒントをもとに、できることから実践してみてください。