ロシアのウクライナ侵攻で出た「ドローン万能論」と「戦車不要論」。これらは財務省が作成した防衛予算に関するレジュメにも登場するほどでした。ただ、そのような極端な思考は、戦争を客観視できていない証ともいえそうです。

「ゲームチェンジャー」なる言葉だけ独り歩き

 2022年2月24日に開始されたロシアによるウクライナ侵攻。いまだに終わる気配がなく、ロシア軍はさらなる攻勢に出ようとしているとも一部では報道されています。

 このロシアとウクライナの戦いは、正規軍同士の真正面からの衝突ということで数多くの戦訓を各国の軍事関係者に与えましたが、その一方で間違った考え方も普及しました。それが「ドローン万能論」と「戦車不要論」です。


戦車と戦うには戦車が最適。攻撃力、防御力、機動力に高次元で優れるほか敵の注目も集めることができるため、様々な運用方法が存在している。写真は陸上自衛隊の10式戦車(武若雅哉撮影)。

 特に小型ドローンに関しては、個人所有のドローンからもたらされた映像を、ウクライナ政府がSNSを通じて世界中に配信するよう要請していたともいわれています。それらの映像がインターネット上で広く拡散されたため、ドローンが極めて有効であるかのように捉えられたのも事実です。結果、「ドローン万能論」という極端な考え方も出現したといえるでしょう。ただ、それはウクライナ侵攻初期の状況を、1年後の今なお語り続けているだけ、とも言えます。

 開戦当初こそ、ロシア軍の防空網が脆弱だったためにウクライナ軍側は自由にドローンを飛行させることができました。しかし、開戦から1年経った今では、ロシア軍が防空網を構築したことで、多くのウクライナ側ドローンが無力化もしくは撃墜されている模様です。一方で、強固な防空網を構築できていないウクライナ軍にとって、逆にロシア軍のドローンが脅威になっているとする分析もあります。

 また、戦車に関していえば、開戦当初はウクライナ軍による「ジャベリン」などの対戦車ミサイルを用いた攻撃が盛んに行われました。これらの攻撃によって、多くのロシア軍戦車が撃破され、さらには泥濘地でスタックする多数のロシア軍戦車の姿も戦車不要論に拍車を掛けました。

 しかし、ドローンはいまだに「ゲームチェンジャー」にはなりえず、また戦車に関しても相手が戦車を持っている以上はこちらも保有する必要があるというのがわかったのも、今回のウクライナ侵攻の特徴だと言えます。

「ジャベリン」も“神” ではなかった

 まず小型ドローンですが、民間のドローンは軍用ドローンと比較して安価であるものの飛行時間が短く、電波の到達距離も数kmから長くても十数km程度となります。そのため、ドローンのオペレーターはロシア軍が活動する場所の近くまで接近する必要があります。なおかつ、コントローラーから発する電波の影響によって、その居場所が露呈してしまう危険性と常に隣り合わせです。

 とはいえ、ドローンも使い方次第と言えるでしょう。たとえば、野戦砲と呼ばれる大砲部隊などが発射する砲弾の誘導では、非常に大きな存在感を示しています。


ウクライナ軍が使用し、一躍有名になった対戦車ミサイルFGM-148「ジャベリン」(武若雅哉撮影)。

 通常、野戦砲を射撃する際には、観測員と呼ばれる兵士が発射された砲弾の着弾位置を確認して、その射撃の有効性をチェックし、着弾位置を修正する必要があるなら、そのための座標情報を知らせます。そうやって野戦砲部隊は敵に効果的なダメージを与えられるよう、正確な射撃を行います。

 ただ、この観測員が担う役割をドローンで代替することができれば、人的損害を減らしつつもっと効率よく戦場および射撃目標をとらえることができるようになります。ドローンの場合、ある程度の高さから俯瞰で地上の状況を見るため、平坦な土地が多いウクライナでは重宝されているといえるでしょう。

 つまり、ドローンは戦場の全域では万能ではないものの、限定された局所的な使用方法であれば十分な効果を発揮するのです。

 一方、戦車ですが、それ自体の進化が、敵戦車を圧倒できるよう攻撃力と防御力、機動力の性能を高める形で、発展してきた経緯を持っています。つまり、戦うべき相手が戦車を揃えている以上、こちらも同等かそれ以上の性能を持つ戦車を用意する必要があったと言えます。

 もちろん、「ジャベリン」を始めとした対戦車ミサイルなども併用して相手の戦車に対して攻撃を加えるのですが、いくら強力な対戦車火器弾があっても、扱う兵士は生身であるため、万が一外してしまえば身の安全は保障できません。また、仮に一発のミサイルで敵戦車を1両撃破できたとしても、戦車は通常2両から4両のチームで動いているため、目標にしなかった他の戦車や、随伴している歩兵などから今度は自分たちが攻撃を受けることになります。

ゼロか百かの二元論で語るなかれ

 実際、今回のロシアとウクライナの戦いにしても、ウクライナ側は自軍が返り討ちに合う映像をほとんど公開していません。不利な状況や悲惨な映像は流さないという趣旨かもしれないものの、ミサイルが外れた後がどうなっているか不明である以上、対戦車ミサイルや対戦車ロケットに頼った戦車との戦いには限界があるのです。


「災害用ドローン」として陸上自衛隊の各部隊に広く配備されている小型ドローン。近年では訓練展示での活用も目立ってきた。(武若雅哉撮影)。

 21世紀の大規模な戦争として注目されているウクライナ侵攻ですが、基本的な戦い方は旧世代と大きく変わることはないということも、この1年で判明しました。ただ、そのなかでドローンが多用されるようになったことで、これまで明かされることのなかったリアルタイムでの戦場の様相も見えるようになり、加えてSNSの発達によって数千km離れた異国にいても、現地から出る多くの情報に触れることができるようになったのも、もうひとつの特徴だといえるでしょう。

 それはまた、ウクライナとロシア双方に関するフェイクニュース、そしてSNSを使った情報戦などが広く行われ、意図的に世論を操作する認知戦という戦闘領域が改めて意識さるようになったとも言えます。

 そう捉えると、従来どおりの戦闘を象徴するのが「戦車」であり、新たな戦争の幕開けを告げる代表例が「ドローン」だとも形容できるかもしれません。「不要」や「万能」といった、ある意味ゼロか百かの二元論ではなく、「双方とも必要」「双方に備えるべき」として、今回のロシアとウクライナの戦いを筆者(武若雅哉:軍事フォトライター)は捉えています。