先制ゴールを決め、ガッツポーズを見せた三笘薫【写真:Getty Images】

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【英国発コラム】レスター戦の衝撃弾を現地記者らが大絶賛

 イングランド1部ブライトンに所属する三笘薫。

 彼は一体どこまでの高みを目指しているのだろう――。現地時間1月21日に行われたプレミアリーグ第21節レスター・シティ戦で見せた先制弾はまさに、“スーパースター”の証明だった。

 このスーパーゴールの舞台となったレスターの本拠地「キングパワー・スタジアム」は、筆者にとってある意味で“ホーム”のようなもの。元日本代表FW岡崎慎司(シント=トロイデン)が同クラブに在籍した4年間、このスタジアムには足しげく通っていたのだ。そんなこともあり、試合後には顔見知りの親しい現地記者たちから次々と声をかけられた。

 まずは、英公共放送「BBCレスター」で試合実況を担当するイアン・ストリンガー氏。筆者を見つけると、「(三笘は)なんて選手だ。文句なしのマン・オブ・ザ・マッチ(MOM)だよ。今日の試合で1人だけ突出していたね。すごいテクニックだ。そしてあのゴール。まさに『ワオッ!』の一言だよ」と、ラジオで聞く名調子そのままに一気にまくし立てた。

 地元紙「レスター・マーキュリー」の番記者のロブ・ターナー氏も、三笘に魅了された1人だ。“ミラクル・レスター”に迫った大ヒット作「5000-1 The Leicester City Story: How We Beat the Odds to Become Premier League Champions」を出版するなど、作家としてもイングランドのサッカーシーンを長く見てきたターナー氏は、「あのゴールを決められる選手は必ず大成する。今のプレミアでもトップクラスのクオリティーだ」と語り、舌を巻いた。

 さらに、レスターのブレンダン・ロジャース監督を広報官として支えるアントニー・ヘイリー氏。元日本代表MFの阿部勇樹氏が在籍していた2011年に広報官に就任した同氏は、今や監督だけでなく会長や強化部長とも連携して業務に当たる、まさにクラブの中枢を知る人物でもある。

 そんなヘイリー氏は試合前の記者室で筆者を見かけると、相好を崩して歩み寄り「久しぶり!」とばかりにハイタッチを求めてきた。そして、ブライトン戦に現れた筆者にこう尋ねてきたのだ。

「今追っているのは三笘(薫)だろ。カタール(・ワールドカップ)でも目立っていたね。どんな選手だい?」

「アジア人としてソン・フンミンと同様のインパクトをプレミアに残す可能性がある素材だ」と答えると、一瞬瞳をくるりと動かし「まさか」といった表情を見せるヘイリー氏。一方で「マサ(筆者)がそれほど言うのか。よし、今日は三笘に注目して試合を見ることにするよ」と言い残し、その場を去った。

 ヘイリー氏は試合後、ロジャース監督の背後を影のように歩きながらミックスゾーンを通り過ぎようとした瞬間、日本代表MFを囲んでいた筆者に向かって左目でウインクを飛ばしてきた。まるで「君の言っていた通りだ」とでも言うように。

 さらに驚いたことに、ロジャース監督が三笘の肩をぽんぽんと2度叩いてその場を通り過ぎた。そう、三笘のスーパーゴールは敵将まで感嘆させたのだ。

「前までは力が入っていたんですけど、今回は逆にリラックスできた」

 三笘がレスター戦で見せたスーパーミドル弾は、1人で創造したと言っても過言ではないだろう。前半27分に左サイドで味方DFのペルビス・エストゥピニャンからボールを受けると、ベルギー代表DFティモシー・カスターニュ相手にカットインを仕掛け、ペナルティーエリア(PA)手前左から右足を一閃。鮮やかな軌道のボールは、ゴール右上隅に吸い込まれた。

 左サイドで受けたらカットインしてシュートを打つ。これは現地時間1月14日の前節リバプール戦(3-0)後に「精度を上げていきたい」と話していたプレーだ。そこで、課題をわずか1週間で形にしたことについて話を振ってみた。

「結構深さ(ゴールまでの距離)を取っていたので、余裕がありましたね。力が抜けたというか、逆に深くなりすぎた分、リラックスできました。横に運ぶ(中央にカットインする)時、前までは力が入っていたんですけど、今回は逆にリラックスできたという感じです」

 なるほど、シュートを打つには少し距離があるようには思えたが、逆に自然体でボールを蹴るにはちょうど良い状況だったということか。とはいえ、対角線上の隅に強いボールをコントロールしてネットに突き刺させる能力がある選手はそう多くない。近年のプレミアでこうした形のゴールを頻繁に見せていた選手は、元イングランド代表FWのウェイン・ルーニー氏やリバプール時代の元ブラジル代表MFフィリペ・コウチーニョ(アストン・ビラ)が思い浮ぶ。

攻撃時は厳しいマーク、守備時は数的不利に苦しんだレスター戦

 プレミアの偉大な選手たちを彷彿とさせるゴールを決めたことで、さぞや自信を付けただろう。そんな思いを抱きつつ、カスターニュにマンツーマンでマークされたことについてトピックを移すと、三笘の口調は急に厳しいものへと変わった。

「(今日の試合は)ちょっと難しかったですね。エストゥピニャンとの関係も今までになく悪くて。なかなか前を向いて良い形で運べなかった。(センターバックのルイス・)ダンクからのパスはありましたけど、そこしかない(ロングボールしかない)くらいで……。もうちょっと工夫が必要だと思いました」

 守備に関しても難しさを強いられていたようだ。

「相手は攻撃時に3枚、こっちのサイド(左サイド)に人数かけてきたので、そこでちょっと後手に回っていた。そこを早く修正しなければならなかった。まあ正直、失点にはどっちも絡んではいるんで、そこをなくせば勝てた試合だったと思います」

 際立った活躍を続けて注目されるなか、今後は敵の対応が厳しさを増すだろう。そのことについては、どう考えているのだろうか。

「僕の立ち位置を修正すればいい話。もう1列後ろに下がるか、逆に中に入って相手のマークの受け渡しを分かりにくくするという対策は考えています。(今日は)ちょっと裏に走ることを意識しすぎて、相手と近くなることが多かった。そういうところは毎試合変えていく必要があります」

 そうした相手のマークを幻惑するためのポジションチェンジを行うには、トップ下やボランチ、またはセンターフォワードの役割も臨機応変にこなす必要性が生まれてくるだろう。しかし、自身のさらなる成長を見据える三笘の中では、すでに折り込み済の課題だったようだ。

「左サイドのプレーだけじゃなくて、中に入ってプレーすること。ビルドアップへの参加や、守備もどんどんやって、改善していかなければならないと思う」

 豊富な運動量でピッチを支配し、ボールのオン・オフにかかわらず常にチームの勝利に貢献できる選手――。三笘本人が思い描くイメージの完成形を代弁するとしたら、こんなところだろうか。

 三笘がプレミアで「今日は全てが本当に良かった」と言い切る試合を観られる日はいつ訪れるのか。追い求める理想が高いだけに、一朝一夕とはいかないだろう。しかしだからこそ、この日本代表MFからますます目が離せなくなってしまうのだ。(森 昌利 / Masatoshi Mori)