『SPY×FAMILY』『FILM RED』ほか2022年を盛り上げたアニメ×音楽の斬新なコラボ
今年も多くのアニメが放送され、アニメの数に呼応するかのように多くのアニメソングがリリースされた。本記事ではそんな数あるアニメ作品の中から、アニメとアニメソングの関係性が特徴的だった作品をチョイスして紹介していきたいと思う。
アニメソングとアニメの関係は実に多様だ。作品のメッセージを楽曲に歌い込んだもの、作品の世界観を音楽で表現したものなど、アプローチの方法は枚挙にいとまがない。そして、今年のアニメにはこのアプローチに新しい風を感じたものが多かったように思う。今回の記事が読者の新しいアニメ、そしてアニメソングの楽しみ方を見つける一助になったら幸いだ。
◎著名アーティストが異なる視点から一つの作品を描写する『SPY×FAMILY』『チェンソーマン』◎
今年の4月に放送されたアニメ『SPY×FAMILY』第一期。本作の主題歌布陣に驚かされたという人も多いだろう。
本作のオープニングを歌ったのはOfficial髭男dism、そしてエンディングを担当したのは星野源。この二組のアーティストが同時にひとつのアニメの主題歌を担当する、これは大方の予想を良い意味で裏切ったのだ。
スパイ、暗殺者、超能力者である3人が素性を隠したまま擬似家族として過ごす様子を描く本作。Official髭男dismが歌った「ミックスナッツ」は、素性を偽って過ごす登場人物たちの日常を、跳ねるようなバンドサウンドを使ってコミカルに描く一曲となっていた。対するエンディング、星野源「喜劇」が扱うテーマは家族愛。擬似家族でありながらそこには愛情が生じる、その愛情をR&Bを感じさせる楽曲に乗せて歌っている。
二組の著名アーティストが別の角度から『SPY×FAMILY』を描写する、このタイアップによって本作はさらに味わい深いものとなったのだ。
著名アーティストによる同時タイアップの試みを、グレードアップした形で行ったのが『チェンソーマン』だ。
オープニングを米津玄師が担当した本作。エンディングは話毎に異なるアーティストが担当し、一曲一曲がその日に放送された物語とリンクした内容になっていた。アーティストにはマキシマム ザ ホルモンやずっと真夜中でいいのに。、Eveなど、全く異なるフィールド・音楽ジャンルで活躍する面々が名を連ねていたことには驚かずにはいられない。
複数アーティストがアニメに寄り添った楽曲を作るアプローチは、一つのアニメ作品に多角的な魅力と更なる深みを生み出していた。
◎同一アーティストが作品主題歌をトータルプロデュース『よふかしのうた』『うる星やつら』◎
一方で、単独アーティストが総合的に一つのアニメ主題歌を担当する、これによって世界観を統一するという流れも見られた。
その最たるものが『よふかしのうた』だったと思う。
コトヤマによる同名コミックを原作に制作されたアニメ『よふかしのうた』は、原作のタイトルの由来となったCreepy Nuts「よふかしのうた」をエンディングテーマに採用。加えて、本作のオープニングと挿入歌をCreepy Nutsが新たに書き下ろした。
本作とタイアップとなった3曲は異なるテイストを持ちながら、DJ松永によるトラックとR-指定によるラップで構成された、ヒップホップの魂が流れている楽曲となっていたのだ。そこに『よふかしのうた』における”夜”のあり方が表れているように感じられた。
同一アーティストによる楽曲の世界観統一を図った作品として『うる星やつら』も紹介しておきたい。
本作のオープニング・エンディング両主題歌を担当したのは音楽プロジェクト・MAISONdes。1978年に連載開始となった原作『うる星やつら』を、レトロさたっぷりにアニメ化した本作に、MAISONdesの作り出すどこか懐かしいデジタル打ち込みサウンドがピッタリとマッチした。
今やアニメの一部と言えるアニメソング。同一アーティストを起用することで作品全体に一体感を与える手法は非常に興味深いアプローチに思えた。
（C）2022コトヤマ・小学館／「よふかしのうた」製作委員会 （C）高橋留美子・小学館／アニメ「うる星やつら」製作委員会
◎アニメ全編を音楽の力で語る『犬王』『ONE PIECE FILM RED』◎
アニメとアニメソング、この二つが切っても切れない関係性にある今、作品全体を楽曲で埋め尽くすという試みも見ることができた。アニメ映画『犬王』、『ONE PIECE FILM RED』の２作はそのいい例だと言えるだろう。
古川日出男による『平家物語 犬王の巻』を原作に、室町時代に人々を魅了した能楽師・犬王の栄枯盛衰を描いた映画『犬王』。
その大部分は犬王が演じる能の演目で構成された。そこで奏でられるのは犬王演じるアヴちゃん（女王蜂）と犬王を支える琵琶法師・友魚演じる森山未來の歌声、そして大友良英が制作したロックを基盤にしたサウンド。映像と音楽の組み合せで描き出されたのは、ロックバンドによるライブステージそのものだった。本作で使用された楽曲は、いわゆる”アニメソング”とは少し異なるものだったようにも思う。しかし、それらの楽曲がアニメを大いに盛り立てたことは間違いないだろう。
『犬王』と同じように作品全体に音楽を使って語り、そこに使用された楽曲を ”アニメソング” として前面に押し出した作品が『ONE PIECE FILM RED』だ。
映画オリジナルキャラクターであるウタを中心に描かれた本作。実に７曲もの劇中歌が制作され、ウタが開催したライブの楽曲として劇中では披露された。アニメーションで描くライブ演出とウタの歌唱担当・Adoの歌声に圧倒された人も多いだろう。
加えて本作は『2022FNS歌謡祭』とのコラボも実施。そこにはウタも出演し、スペシャルメドレーを披露した。アニメのキャラクターが一人のアーティストとして歌番組に出演する、そこには新しいアニメソングの ”見せ方” があったように思う。
今や切っても切り離せないものとなったアニメとアニメソングの関係。今年見ることができた新しいアプローチには目を見張るものがあった。来年はどんなアプローチが私たちを楽しませてくれるのだろうか？ 期待に胸が膨らむ。
