Vol.214 ついにiOSデバイスがフィールドモニターに。「Accsoon SeeMo」レビュー[OnGoing Re:View]
昨今、撮影時に補助的に使う小型のフィールドモニターの価格は驚くほど下がり、2〜3万円出せばそれなりに満足できるクオリティのフィールドモニターを購入することができる。それでも、普段フィールドモニターを使ってる人のほとんどが一度は「手持ちのスマホにHDMI入力ができたら…」と思った経験があるだろう。筆者もその一人である。
スマートフォンは高輝度・高精細なディスプレイと高度なグラフィック処理能力が可能なCPUだけでなく、バッテリーまで内蔵している。それでいていつでも必ず持ち運ぶものなので撮影時にモニターとして使うことができれば、こんな便利なことはない。しかし、HDMI出力はできてもHDMI入力があるスマートフォン・タブレット端末というものはこれまで市場にはほとんどなかった。特にAppleのiPhone、iPadなどといったiOSデバイスはハードウェア・OSの制約が大きく実現されていなかった。
しかしそんな現状に終止符を打つデバイスとして発売されたのが「Accsoon SeeMo」(以下:SeeMo)という製品である。
AccsoonといえばCineEyeシリーズを筆頭にワイヤレスのHDMIトランスミッター製品を販売しているブランドである。専用のiOS/Android向けのアプリで同社製のワイヤレスHDMIトランスミッターで送信した映像を手軽にモニターできるCineEyeシリーズの製品を愛用しているユーザーは多いだろう。
そんなAccsoonが2022年3月に発売したAccsoon M1(以下:M1)という製品がある。これはAndroidのデバイスをUSB接続経由でHDMI入力のフィールドモニターに変える、というもので、この製品が発売された時はかなり話題になり、私含め多くのAndroidユーザーのビデオグラファーが購入し、一方でiPhoneユーザーからはiOS対応版の発売が熱望されていた。
そして季節が巡りついに発売された「iOS対応版のM1」ともいえるべき製品がこの「SeeMo」である。
箱を開けるとLightningとType-Cの2本のケーブルが付属されていた。これはLightning端子のiPhoneとUSB Type-C端子のiPad Proで使用することを想定されている。
本体外観と付属品
フルサイズのHDMI入力端子と、iOSデバイス接続用のUSB-Cの他、5V出力用のType-C端子を備えるので同時にUSB電源を使用するアクセサリを使用することができる。
上面にはコールドシュー・底面には回転防止機能付きの1/4ネジが切ってある。一見すると少し大きなスマホホルダーでしかないが、作りもよくスマートに仕上がっている印象を受けた。
iPhoneを取り付ける場合、このように上部の爪を押し上げる。すると前面のボタンが飛び出してきてロックがかかり、iPhoneをセットすると自動的にこのボタンが押され、爪が下がりiPhoneをしっかりとホールドする。この機構は実によくできている。
付属するコールドシューマウントもその辺のリグメーカーの作るものに遜色ない作りで、特にコールドシュー取り付け時には大きく出ているノブを回すだけでロックできるのでとても使いやすく感じる。チルトの粘りも十分で、大きなNP-Fバッテリーを取り付けても重さで傾くことはなかった。
実際に使用してみた
LUMIX GH6に取り付けて使用してみた。特に遅延等もほとんど感じられず、通常のフィールドモニターとして動作しているのがわかる。
iPhoneでモニターできる、というのは想像以上に便利で、映像をiPhoneでRecしてそのままSNSにアップロードできる。ということはさることながら実際にiPhoneで表示したときのルックをその場で確認できるので、簡単な撮影であればポスプロ時の工数を減らすことができるのではないだろうか。
バージョンアップで使い勝手がよくなったAccsoon SEEアプリ
この手の製品は製品本体の作りのよさ以外にもどれだけアプリが作り込まれているか、という点がかなり重要になる。Accsoon SEEはMFi認証を取っているため、本体を認識すると自動的にアプリが立ち上がり、いちいちホーム画面でアプリを探す手間が必要ないなど、iOSとの連携も非常によく作られている。
新しくなったVersion1.01のAccsoon SEEアプリでは上部でフィールドモニターとしての設定、下部では解像度・フレームレートなどのステータス表示を行うことができる。右側にはiOSのカメラロールに直接レコーディングするボタンと入力映像をそのままライブ配信を行うためのボタンがある。
上部のアイコンをタップするとそれぞれのオンオフや設定画面が開く。上の写真はLUTの設定ボタンをタップしたときに現れる。
フォルスカラーももちろん表示が可能で、ゼブラ・ピーキング・グリッド・オーディオレベルメーター・パレード表示やヒストグラムまで至れり尽くせり、といった内容である。
携帯回線やWi-Fiを使用したライブ配信が可能
もちろん入力された映像をそのままRTMPを使用してストリーミングをすることも可能だ。YouTubeなどはプリセットされているほか、URLを入力してプリセットにないサーバーへもストリーミングすることができる。
機能が多すぎる!という人は右下の設定アイコンから、上部に表示する機能の選択を行うことができる。よく使う機能だけにしておけばシンプルに使用することができる。
Accsoon M1との比較
冒頭でも記述した通り、SeeMoはM1のiOSデバイス版、という立ち位置だ。そこで筆者所有のM1とSeeMoを比較してみた。デザインとしてはSeeMoの方が洗練されているのを感じる。
ただし製品自体の厚みはかなり増していることがわかる。これはiPad接続などを想定して本体がホルダー部と分離できる機構を取り付けたためではないかと推測される。
また、DC出力についてはUSB Type-C出力に変更されている。
バッテリー取り外しボタンも上部からサイド部分に変更されている。
下から見た感じでも本体が大きくなったのがわかる。
以上の点から、SeeMoは機能的にはM1とさほど変わらないが、別の商品といえるだろう。
iPadとの接続
ここでiPhoneだけではなくiPad Proとも接続してみた。ケーブルはType-Cを使用する。
iPhoneの場合、SeeMoと接続時には残念ながら給電・充電は行われない。そこでType-C接続のiPadなら…!と意気込んでみたが、残念ながら「充電停止中」と表示され、充電されている様子はない。
手持ちの電圧・電流計でiPad接続時の電力を計測してみたが、2.1Wほどしか出ておらず、残念ながらiPadに充電できるほどの電力は供給されないようだ。
実際にライブ配信してみた
ちょうど本機をレビュー中に大阪へのライブ配信業務があったので、大阪駅前のホテルからSeeMoを使用してライブ配信を行ってみた。
なお、今回はちょうどレビュー用にスターコミュニケーションズが提供する、ライブ配信に最適なアップロード専用SIMをiPhone SEで使用して配信を行った。
また、心配していたバッテリー消費については、配信前に100%だったiPhone SEのバッテリーは1時間程度配信を行ったあとでも67%残っていた。以前M1とXiaomi Mi11 Lite 5Gを使用した時は本体の発熱がひどく途中で熱停止してしまったが、iPhone SEとSeeMoの組み合わせでは極端な発熱は感じなかった。
まとめ
やはりiPhone/iPadへの給電ができない、というのが一番残念なポイントだと考える。M1はAndroidデバイスへの給電に対応しているので、このあたりはぜひ対応してほしかったが、MFi認証を受けるうえで何かが問題になったのかもしれない。
しかしiPhoneのカメラロールに直接ラージセンサーカメラの映像を保存してすぐに活用できるという恩恵は大きく、純正アプリを起動してWi-Fiなどを経由してカメラからデータをiPhoneに読み込む従来の手法よりも簡単に映像を収録できるのは手軽である。
またRTMPを使用したライブ配信機能を使うことで、今までより簡単に屋外での配信ができるようになった。という点をふまえて、iPhoneユーザーであれば持っていて損はないデバイスだろうと感じた。
サカイアキヒロ|プロフィール
1984年生まれ。業務用音響機器メーカーでデザインエンジニアとして勤務する兼業映像クリエーター。長年エンジニアとして培った音響とネットワークの知識を活用し、急激に需要が高まったBtoBのライブ配信現場でテクニカルディレクター兼音響スタッフとしても活動している。最近はYouTubeで機材レビューや配信技術などの動画を発信中。