「低置胎盤」の赤ちゃんへの影響・出産リスクはご存知ですか?

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胎盤は、母体から胎児へ栄養や酸素を送る大切な役割をもっています。通常は子宮の上の方に作られますが、作られる位置に異常がみられた場合は注意が必要になってくるのです。

そんな胎盤の位置異常のひとつに、胎盤が子宮の下の方に作られている低置胎盤が挙げられます。

この記事では低置胎盤とはどのような状態なのか、症状・原因・リスクなどと共に分娩時の注意点や分娩方法についても解説しています。

低置胎盤の症状と原因

低置胎盤の症状を教えてください。

低置胎盤とは、胎盤が内子宮口(子宮の出口)の近くにある状態のことを指します。内子宮口と胎盤の最も近い部分が2センチ以内になると、この診断がなされます。痛みなどの自覚症状はほとんどなく、妊婦健診の際に指摘されることがほとんどです。

ただし急な出血がみられることがあるので、性器出血がみとめられた場合には速やかに受診することが必要です。

妊娠30週未満の場合は、子宮が大きくなるにつれて胎盤の位置が上方に移動し、症状が改善されることがあります。妊娠32~34週頃になっても症状が改善されない場合は、帝王切開での出産が予定されることもあります。

低置胎盤を引き起こす原因を教えてください。

胎盤は、受精卵が着床した場所に作られるもので、通常だと受精卵は子宮の上の方(子宮体部)に着床し胎盤を形成していきます。

その受精卵が何らかの形で子宮内の低い位置(子宮下節)に着床したことで、胎盤の位置が通常より低い低置胎盤となりますが、なぜ受精卵が下の方で着床するのか、詳細な原因はわかっていません。

また、胎盤の形成が正しく行われなかった場合にも発生する可能性があるといわれています。

前置胎盤との違いを教えてください。

低置胎盤と前置胎盤の違いは、胎盤が内子宮口を塞いでいるかどうかという点です。

胎盤が内子宮口の全部もしくは一部を塞いでしまっていると、前置胎盤の診断となります。

前置胎盤と診断された場合は全て予定帝王切開での出産となります。

一方低置胎盤の場合は、胎盤は内子宮口を塞いではいないものの両者が非常に近い場所に位置している状態です。

明確な定義はありませんが、内子宮口と胎盤の一番近い距離が2センチ以内の状態にあることが目安となっています。

予定帝王切開になるケースもありますが、状態によっては経膣での分娩が可能です。

どのような人がなりやすいのですか?

低置胎盤は、以下の要素を持っている人がなりやすいといわれています。

経産婦

帝王切開・子宮筋腫・流産手術・人工妊娠中絶手術など、子宮内の手術をした経験がある

高齢妊娠

喫煙

多胎妊娠

ただしはっきりとした原因は分かっていないため、上記の項目に当てはまっていても必ず発生するわけではありません。

低置胎盤の検査と治療方法

低置胎盤はどのようなタイミングで診断されますか?

低置胎盤の最終的な診断は妊娠30週を過ぎてから、妊娠34週頃までに確定します。

それ以前の時期に胎盤の位置が低い状態であるときには「低置胎盤疑い」という診断で経過観察となります。

これは、妊娠が進むにつれて胎盤が上の方に移動していくことがあり、妊娠後期までに通常の位置に戻ることも多いためです。

妊娠34週までに胎盤の位置が通常位まで上がることが多く、逆に妊娠34週以降に症状が改善されるということはほとんどありません。

妊娠34週を過ぎても胎盤の位置が変わらない場合は診断が確定し、出産に備えます。

検査方法を教えてください。

低置胎盤の検査は、妊婦健診の際に経膣超音波検査(経膣エコー検査)で行われます。

主な検査項目は、胎盤が子宮口からどのくらいの位置にあるか、普通分娩が可能かどうかということです。

。医療機関によっては、さらに胎盤の詳細な位置や子宮との癒着状況などを調べるためにMRI検査を行う場合もあります。

治療方法はあるのでしょうか?

低置胎盤の特別な治療方法はありません。

妊娠週数が進み子宮が大きくなっていくとともに胎盤の位置も自然に上がっていきます。

性器出血を予防するために激しい運動や性交渉は避けたほうが無難ですが、絶対安静の必要はありません。

出血時には痛みを伴わないことがほとんどで、自然に治まることも多いです。

ただし、出血がひどくなった場合には赤ちゃんとお母さんの身に危険が及ばないよう帝王切開術を行うこともあるほか、まれに常位胎盤早期剝離を起こす場合があり、母子ともに危険な状態にさらされる恐れがあります。

もし自宅や勤務先などで出血がみられたなら速やかに受診してください。

低置胎盤の出産への影響

出産のリスクを教えてください。

通常の妊娠と比べて分娩時に出血量が多くなりやすいリスクを負っています。

これは、胎盤が付いている子宮の下の方(子宮下節)は収縮する力が弱く、分娩後の止血機能が充分に働かないことが原因です。

また、前回の帝王切開部分に胎盤が作られている場合は、胎盤が癒着する可能性があり、癒着している場合、大量出血のリスクが高まります。

出血が多い場合子宮内にバルーンを挿入する、出血している部分を縫い縮めるなどの方法がとられますが、それでも出血が止まらない場合は母体の命を救うために子宮摘出手術を行うケースもあります。

出血量が多いと輸血が必要になってくるケースもありますが、低置胎盤の診断が確定したら自己血を貯血して備えておく方法もあります。

低置胎盤は赤ちゃんに影響するのでしょうか?

低置胎盤は、子宮内での赤ちゃんの発達に影響はありません。

しかし、胎盤が剥がれやすい位置にあることから、まれに常位胎盤早期剥離を引き起こすことがあります。

そうなると母子共に危険な状態にさらされてしまう危険性があり、最悪の場合は流産・死産になる可能性もあるので早急な治療が必要となります。

激しい痛みとともに大量の出血がみとめられた場合は、早急に受診が必要です。

普通分娩はできるのでしょうか?

内子宮口と胎盤の位置関係にもよりますが、緊急時に対応が可能な設備が整っている病院では、大量出血などへのリスクを説明した上で普通分娩を選択できる場合もあります。

その際には、分娩後の大量出血に備えて自己血を貯血するなどの準備が必要です。

ただし、分娩中に出血が多くなると緊急帝王切開に切り替えることもあります。

普通分娩と帝王切開のリスクを把握し理解したうえで、主治医としっかりと相談して分娩方法を選択してください。

最後に、読者へメッセージがあればお願いします。

低置胎盤だと診断されたとしても、胎児の発育に影響を及ぼすことはないのでその点においては安心してください。

また、妊娠が進むと胎盤の位置が通常の高さまで上がり、問題なく出産に臨むことができるケースも多く存在します。

低置胎盤疑いがあると告げられたとしても、気長に様子を見てください。

。妊娠30週を過ぎても低置胎盤が治らないときは予定帝王切開を組むケースもありますが、状態によっては経腟での分娩も可能です。

診断が下りたからといっても過度に心配することなく、妊娠期間中は極力安静に穏やかに過ごすことに努めてください。

ただし、性器からの出血が見られた場合は速やかに受診してください。

編集部まとめ


低置胎盤は、内子宮口とそれに最も近い胎盤の位置が2センチ未満の場合に診断されます。

ただし妊娠30週未満の場合は週数とともに胎盤の位置が上がり、症状が解消されることが多いことも特徴のひとつです。

胎児の成長に影響を及ぼす症状ではありませんので、もし診断されても心配し過ぎず安静にして過ごすように努めてください。

安静期間は不安な気持ちになりやすいと思いますが、なるべくリラックスして穏やかに過ごしましょう。

症状によっては経腟での分娩も可能です。経腟分娩を希望している場合は出血などのリスクを充分に考慮して、主治医とよく相談のうえ分娩方法を決定してください。

参考文献

前置胎盤の診断時期とその予後に関する研究|平成9年度厚生省心身障害研究

低置胎盤|病院検索ホスピタ

低置/前置胎盤の診断と管理|東京女子医科大学八千代医療センター 母体胎児科・婦人科

胎盤の位置異常~前置胎盤と低置胎盤|中国中央病院

低置胎盤|medley

低置胎盤の原因、症状、妊娠や胎児への影響治療や予防は可能?|

前置及び低置胎盤に対する妊婦検診における超音波スクリーニング検査有用性に関する研究|平成9年度厚生省心身障害研究

低置胎盤の分娩方針一胎盤 と内子宮口の距離が10-20mmの場合,経腟分娩を試みるべきか|日産婦誌65巻2号