スマホ+望遠レンズで「皆既月食」撮ってみた! iPhoneなど6台でイッキ撮り
特別な用意をしなくても、夜空を見上げるだけで楽しめる天体ショー。それが「皆既月食」です。本格的なカメラがあれば、設定を工夫するとキレイに撮れますが、スマートフォンではどうでしょうか。2022年最大の天体イベントに、あえてスマホ6台を連れ出してチャレンジしてきました。
皆既月食の様子。写真は2022年11月8日筆者撮影(以下同) (ソニー α7 III / 中一光学 CREATOR 135mm F2.8 II / 135mm・202.5mm相当 / F11 / 1.6秒 / ISO 1,250)
手持ちの6台のスマートフォンとケンコー・トキナー リアルプロクリップレンズ 望遠8倍の組み合わせで、皆既月食撮影にチャレンジ。6台とも仕事やプライベートで使っているもの。中央下から時計回りにApple iPhone SE(第3世代)、Google Pixel 6、Apple iPhone 11、motorola edge 20、Rakuten Hand、Xperia XZ1 Compact(SO-02K)
月を撮るのに最低限必要なのは「望遠レンズ」と、「しっかり固定して撮影できる場所(三脚があればなおよい)」。最新の「iPhone 14 Pro Max」や「Pixel 7 Pro」、Xperiaシリーズの上位機種のように、望遠レンズを本体に組み込んだスマホならイイ感じの赤い月が撮れそうです。
ただ、広めの画角でしか撮れないシングルレンズのスマホでも、望遠撮影できるアイテムがあります。今回はケンコー・トキナーの「リアルプロクリップレンズ 望遠8倍」(実売3,670円)を入手。スマホ外付けの望遠レンズとの組み合わせで、どれくらい皆既月食を撮れるか試してみました。
ケンコー・トキナーの「リアルプロクリップレンズ 望遠8倍」
先に結論を書いてしまいますが、暗所での撮影に強いスマホだと、納得のいく皆既月食写真が撮れたように思います。本格的なカメラで撮った写真にはもちろん敵いませんが、身内で楽しんだりSNSで共有するぶんには満足いく仕上がりになりました。
今回は皆既食が86分間続く長丁場の天体ショーだったので、スマホをとっかえひっかえしながら色々試せたのは好都合でした。余談ですが、筆者がスマホで皆既月食を撮っているのが珍しかったのか、通りがかりのオジサンたちに「それ、スマホで撮れるんですか?」、「ちょっと見せてくださいよ」などと声を掛けられたのは面白かったです(もちろんミラーレスカメラも脇にセットして、撮影を並行して進めていたのですが、そっちには目が行かなかった模様)。
「スマホでも楽しめる皆既月食の写真」の撮り方と作例をお楽しみください。
ケンコー・トキナーのスマホ用望遠レンズを用意
「リアルプロクリップレンズ 望遠8倍」の製品内容。望遠レンズ本体、専用のスマホクリップのほか、持ち運び用のポーチとレンズクロスが付属する
スマホでの作例をお見せする前に、まずはケンコー・トキナーの「リアルプロクリップレンズ 望遠8倍」について、軽く紹介しておきましょう。本体サイズ90×31mm(直径×長さ)、重さ59gのボディに4群6枚のレンズ構成を内蔵していて、倍率は8倍、画角は10.6度。対物レンズ径は20mm。フルマルチコートのコーティングを施すなど、小さいながらも画質を高める工夫を凝らしています。
同梱のクリップを使い、後端をスマホのレンズにかぶせるように装着。先端を回してピントを合わせます。ちなみに、この望遠レンズは単眼鏡としても使え、後端の周囲のリングを引き出すとアイカップになる仕組みです。
先にクリップをスマホに取り付けてから、レンズを装着するとよい。被写体を歪みなく捉えるためにも、スマホのカメラレンズと、望遠レンズの中心軸はできるだけ合わせておきたい
クリップの挟む部分は、レンズを安定して固定するためにそれなりに大きく作られています。フチが狭く作られたスマホでは、画面の一部が覆われてしまい、操作しづらいかもしれません。また、このレンズが取り付けられるデバイスは、厚さ15mm、端からカメラレンズの中心までが30mm以下に収まるものに限られます。購入する場合は、手持ちのスマホなどのカメラ周りの寸法を測っておくと安心です。
角形のスマホケースを付けた筆者のiPhone SEでは、ベゼルぎりぎりで画面には被らず、わりとピッタリでした。Pixel 6やmotorola edge 20はカメラ部が大きく盛り上がっているので、安定して装着するにはコツが要ります。
iPhone SEだとベゼルが幅広い分、画面にかからずに装着できる
Rakuten Handでは、アプリの撮影画面にクリップがかぶってしまって操作できないボタンがいくつかあった。ただ、リア/フロントカメラの切り替えとフラッシュのオン/オフくらいであれば、月撮影には不要なので実用上問題はない
スマホ側のレンズと望遠レンズ側のクリップは、密着して光が入り込まないようにするのが望ましいですが、デコボコに盛り上がった多数のレンズを搭載する昨今のスマートフォンではやや装着が難しいものも。スマホ側のレンズ部と背面パネルをツライチにしてくれるスマホケースがあると装着しやすく、余計な光がレンズ内に入るのも防げます。
また、このレンズはクリップのバネの力だけでスマホに押さえつけているので、クリップが開かないようにする落下防止ネジを使っても衝撃には弱いです。外れたりレンズの位置(光軸)がズレたりしないよう、そっと扱うと良いでしょう。
スマホ側のレンズ部と背面パネルをツライチにしてくれるスマホケースの例(写真はiPhone 11)
スマホのレンズ周りにスキマができたり、大きく盛り上がっているタイプのケースは外して、望遠レンズをクリップで直付けするとよい(写真は別のiPhone SE)
Adobe「Lightroom」アプリのカメラを使う。撮影のコツも
撮影に使うスマホアプリは、シャッタースピードやISO感度などの露出設定やフォーカスを手動で設定できるものであれば、お好みで選んでよいと思います。
筆者はAdobeの「Lightroom」アプリ(iOS/Android対応)に備わっているカメラ機能を使いました。AdobeのPC用ソフトウェアを普段から活用しているので、クラウドストレージ経由で撮影データを共有するといった各種連携機能が使いやすいことに加え、ピント合わせをラクにしてくれるフォーカスピーキングが使えるのも大きなメリットと感じています(Lightroomアプリでは「ハイライトのクリッピング」という機能名)。
Adobeの「Lightroom」アプリが月撮影で便利だった
「ハイライトのクリッピング」を表示させたところ。望遠レンズでピントをざっくりあわせ、アプリ側から手動でフォーカスを微調整すると、月面の模様もある程度写し込める
なお、Lightroomアプリのカメラには多彩な撮影関連の設定項目を備えていますが、カメラやOSの仕様によっては、必ずしもすべての設定が行えるわけではないようです。
たとえば、筆者が試した限りでは、上記のハイライトのクリッピングはiPhone以外(Androidスマホ)では利用できませんでした。また、望遠レンズと広角レンズなど複数のカメラレンズを備えているスマホでも、同アプリでそれらを切り替えられるのはiOSのみのようです(Pixel 6とmotorola edge 20ではレンズ切り替えができなかった)。
最後に、撮影のコツについて。月の明るく光る部分と、地球の影に隠された部分の明暗差はかなり大きく、刻々と変化していきます。さらに薄い雲がかかったり、空がぼんやりかすんできたりするなど、月食当日の天候にも左右されるので、露出設定を決めるのはけっこう大変。決め打ちではなく、最適に写るように変えながら何枚も撮っておくと安心です。スマホによっては絞り値を手動で変えられないこともあるようなので、シャッタースピードとISO感度を細かく調整していくと良いです。
リアルプロクリップレンズ 望遠8倍とiPhone SE(第3世代)で、いつもの月を撮るとこんな感じ。後処理で周囲をカットすれば、月だけを大きく見せられる
筆者の場合、部分食が始まる頃はまだ明るいのでシャッタースピードを早め、ISO感度を抑えて撮影。食が進んで暗くなってきたら、シャッタースピードをギリギリまで抑えながら(1秒を超えるようなあまりにも遅い速度だと、月が動いてブレた写真になるため)、ISO感度もノイズが出ないあたりまで上げていきました。
皆既食が終わり、月が明るさを取り戻し始めたらすぐにシャッタースピードを早め、ISO感度を抑えめに戻します。部分食や皆既食の最中の月の色味が引き立つように、いくつかの機種ではホワイトバランスを変えてみたので、ひと味違った月写真に仕上がりました。
余力があれば、明るいうちに撮影する場所をあらかじめ探しておくのも良いでしょう。赤くて丸い月だけでも幻想的ですが、望遠レンズを使わず、カメラのスマホだけで月と風景を取り込んだ夜景写真に仕上げるのも楽しいです。都内であれば写真映えするスポットが多いので、構図や被写体を工夫すると絵になる写真が撮れることでしょう。
アサヒビール本社付近やスカイツリーの見える場所で、通常のスマホカメラで試し撮り
三脚にスマホを固定するには、ネジ穴付きのスマホホルダーが必要だ。筆者はAmazonで購入した、SmallRigのアルミ製スマホホルダーを使った。頑丈なつくりで、自在に向きを変えられ、三脚だけでなくカメラ上部に取り付けられるコールドシューもあるので重宝する
スマホで撮った「皆既月食写真」ギャラリー
ここからは、スマホで撮った皆既月食の作例を簡単に紹介していきます。なお、参考までに簡易な撮影データも載せていますが、撮影後に月が写った範囲のみ切り取り、オリジナルの画質を残しながらPhotoshopで微調整したものであることをご承知おきください。
シングルレンズのiPhone SE(第3世代)に、望遠レンズとLightroomアプリを組み合わせて撮った写真は、デフォルトの色味が最も「見たままの皆既月食」を再現できているように感じました。望遠レンズの装着時も、筆者の場合はケースが角形で取り付けやすいこともあり、全体のサイズ感やバランスが良いと感じました。この望遠レンズはiPhone SEと相性が良さそうです。
iPhone SE(第3世代)の皆既月食作例(1/2秒 / ISO 320)
iPhone SE(第3世代)と望遠レンズを組み合わせたところ
続いて、iPhone 11です。3世代前のiPhoneですが、明るさを持ち上げ気味にすると、じゅうぶんキレイな仕上がりになりました。こちらはカメラレンズが2つ付いているものの、片方はクリップの下敷きになって使えませんが、月撮影のみに徹するなら気にならないと思います。画面サイズがSEよりも大きく、望遠レンズとの重量バランスが安定しないのはやや気になるところではあります。
iPhone 11の皆既月食作例(1/2秒 / ISO 200)
iPhone 11と望遠レンズを組み合わせたところ
想定より暗めに写ってしまったのが、Pixel 6。皆既食が最大になる20時頃に撮ったことも影響していそうですが、後処理で明るさを持ち上げるとノイズが目立ちそうなのでやめておきました。暗所撮影には意外と弱いのかもしれません。望遠レンズの装着性もイマイチで、特徴的なカメラバーデザインとクリップが密着するポイントを見つけるのが難しかったです。素直にPixel 6 Proのような望遠レンズ搭載機を選ぶべきでしょうか(そのぶんスマホ本体の価格も跳ね上がるのが悩ましい……)。
Pixel 6の皆既月食作例(1/2秒 / ISO 330)
Pixel 6と望遠レンズを組み合わせたところ
motorola edge 20の作例は、かなり薄暗くパッとしない出来になってしまいました。経験上、このスマホは暗所撮影に弱いことを分かっていたので「お試し」と割り切って撮影に臨んだのですが、あまりにも暗いのでISO感度を引き上げ、さらにアプリ側の500倍デジタルズームで引き寄せたこともあって画質が厳しいものになり、“虚空に浮かぶ梅干し”感がぬぐえません。
複数のレンズを搭載したカメラ部とクリップの相性もなかなかシビアで、望遠レンズを組み合わせるのに苦労しました。ちなみにこのスマホは光学3倍ズームの望遠レンズを標準搭載しているのですが、Lightroomアプリ上で使えるのは真ん中のメインカメラのみで、内蔵の望遠レンズと外付けの望遠レンズを掛け合わせた高倍率化はできませんでした。無念。
motorola edge 20の皆既月食作例(1/4秒 / ISO 1600)
motorola edge 20と望遠レンズを組み合わせたところ
Rakuten Handもmotorola edge 20と似た傾向の仕上がりですが、月に近づく天王星(?)を左下にかろうじて写せました。望遠レンズの装着性については前述のように、クリップが操作画面に被ってしまう問題があり、やや操作しづらいところはあるのですが、スマホが小さいのでハンドリングは悪くありません。ただ、レンズの重さに引っ張られやすく、三脚などに固定するときのバランスには気をつけたいところ。
Rakuten Handの皆既月食作例(1/4秒 / ISO 600)
Rakuten Handと望遠レンズを組み合わせたところ
最後はXperia XZ1 Compact(SO-02K)です。5年前(2017年発売)のスマホながら、カメラまわりに注力した設計なだけあって写りがよく、撮影後のプレビュー表示を最初に見たときは「お、いいじゃん」と思わずつぶやいてしまいました。あとから見るとやや赤い色が派手に出ている気もしますが、これはこれで“映えている”んじゃないでしょうか。ISO感度を上げるとまわりの星々も映り込んでイイ感じでしたが、周囲の暗闇にノイズが浮き出すのでISO 400までに留めました。
「スマホで撮った皆既月食」の中では、これが一番お気に入りの一枚です。
Xperia XZ1 Compactの皆既月食作例(1/2秒 / ISO 400)
Xperia XZ1 Compactと望遠レンズを組み合わせたところ
日本国内で次に皆既月食を楽しめるのは、約3年後の2025年9月8日。だいぶ先の話にはなってしまいますが、普段の月の撮影でもその奥深さはスマホで十分堪能できました。もし「スマホカメラじゃ物足りない」とか、「本格的なカメラ撮影には敵わないなぁ」と感じたら、思い切って写真とカメラの世界に飛び込んでみるのも良いと思いますよ(と軽率に“カメラ沼”への入口を開くやつ)。
皆既月食が始まるまでは川辺にたくさんいた通行人も、月食の終わりを迎えるころには姿を消し、ひっそりとしていた (ソニー α7 III / キヤノン EF24-105mm F4L IS USM / 24mm / F11 / 8秒 / ISO 200)
皆既月食の様子。写真は2022年11月8日筆者撮影(以下同) (ソニー α7 III / 中一光学 CREATOR 135mm F2.8 II / 135mm・202.5mm相当 / F11 / 1.6秒 / ISO 1,250)
月を撮るのに最低限必要なのは「望遠レンズ」と、「しっかり固定して撮影できる場所(三脚があればなおよい)」。最新の「iPhone 14 Pro Max」や「Pixel 7 Pro」、Xperiaシリーズの上位機種のように、望遠レンズを本体に組み込んだスマホならイイ感じの赤い月が撮れそうです。
ただ、広めの画角でしか撮れないシングルレンズのスマホでも、望遠撮影できるアイテムがあります。今回はケンコー・トキナーの「リアルプロクリップレンズ 望遠8倍」(実売3,670円)を入手。スマホ外付けの望遠レンズとの組み合わせで、どれくらい皆既月食を撮れるか試してみました。
ケンコー・トキナーの「リアルプロクリップレンズ 望遠8倍」
先に結論を書いてしまいますが、暗所での撮影に強いスマホだと、納得のいく皆既月食写真が撮れたように思います。本格的なカメラで撮った写真にはもちろん敵いませんが、身内で楽しんだりSNSで共有するぶんには満足いく仕上がりになりました。
今回は皆既食が86分間続く長丁場の天体ショーだったので、スマホをとっかえひっかえしながら色々試せたのは好都合でした。余談ですが、筆者がスマホで皆既月食を撮っているのが珍しかったのか、通りがかりのオジサンたちに「それ、スマホで撮れるんですか?」、「ちょっと見せてくださいよ」などと声を掛けられたのは面白かったです(もちろんミラーレスカメラも脇にセットして、撮影を並行して進めていたのですが、そっちには目が行かなかった模様)。
「スマホでも楽しめる皆既月食の写真」の撮り方と作例をお楽しみください。
ケンコー・トキナーのスマホ用望遠レンズを用意
「リアルプロクリップレンズ 望遠8倍」の製品内容。望遠レンズ本体、専用のスマホクリップのほか、持ち運び用のポーチとレンズクロスが付属する
スマホでの作例をお見せする前に、まずはケンコー・トキナーの「リアルプロクリップレンズ 望遠8倍」について、軽く紹介しておきましょう。本体サイズ90×31mm(直径×長さ)、重さ59gのボディに4群6枚のレンズ構成を内蔵していて、倍率は8倍、画角は10.6度。対物レンズ径は20mm。フルマルチコートのコーティングを施すなど、小さいながらも画質を高める工夫を凝らしています。
同梱のクリップを使い、後端をスマホのレンズにかぶせるように装着。先端を回してピントを合わせます。ちなみに、この望遠レンズは単眼鏡としても使え、後端の周囲のリングを引き出すとアイカップになる仕組みです。
先にクリップをスマホに取り付けてから、レンズを装着するとよい。被写体を歪みなく捉えるためにも、スマホのカメラレンズと、望遠レンズの中心軸はできるだけ合わせておきたい
クリップの挟む部分は、レンズを安定して固定するためにそれなりに大きく作られています。フチが狭く作られたスマホでは、画面の一部が覆われてしまい、操作しづらいかもしれません。また、このレンズが取り付けられるデバイスは、厚さ15mm、端からカメラレンズの中心までが30mm以下に収まるものに限られます。購入する場合は、手持ちのスマホなどのカメラ周りの寸法を測っておくと安心です。
角形のスマホケースを付けた筆者のiPhone SEでは、ベゼルぎりぎりで画面には被らず、わりとピッタリでした。Pixel 6やmotorola edge 20はカメラ部が大きく盛り上がっているので、安定して装着するにはコツが要ります。
iPhone SEだとベゼルが幅広い分、画面にかからずに装着できる
Rakuten Handでは、アプリの撮影画面にクリップがかぶってしまって操作できないボタンがいくつかあった。ただ、リア/フロントカメラの切り替えとフラッシュのオン/オフくらいであれば、月撮影には不要なので実用上問題はない
スマホ側のレンズと望遠レンズ側のクリップは、密着して光が入り込まないようにするのが望ましいですが、デコボコに盛り上がった多数のレンズを搭載する昨今のスマートフォンではやや装着が難しいものも。スマホ側のレンズ部と背面パネルをツライチにしてくれるスマホケースがあると装着しやすく、余計な光がレンズ内に入るのも防げます。
また、このレンズはクリップのバネの力だけでスマホに押さえつけているので、クリップが開かないようにする落下防止ネジを使っても衝撃には弱いです。外れたりレンズの位置(光軸)がズレたりしないよう、そっと扱うと良いでしょう。
スマホ側のレンズ部と背面パネルをツライチにしてくれるスマホケースの例(写真はiPhone 11)
スマホのレンズ周りにスキマができたり、大きく盛り上がっているタイプのケースは外して、望遠レンズをクリップで直付けするとよい(写真は別のiPhone SE)
Adobe「Lightroom」アプリのカメラを使う。撮影のコツも
撮影に使うスマホアプリは、シャッタースピードやISO感度などの露出設定やフォーカスを手動で設定できるものであれば、お好みで選んでよいと思います。
筆者はAdobeの「Lightroom」アプリ(iOS/Android対応)に備わっているカメラ機能を使いました。AdobeのPC用ソフトウェアを普段から活用しているので、クラウドストレージ経由で撮影データを共有するといった各種連携機能が使いやすいことに加え、ピント合わせをラクにしてくれるフォーカスピーキングが使えるのも大きなメリットと感じています(Lightroomアプリでは「ハイライトのクリッピング」という機能名)。
Adobeの「Lightroom」アプリが月撮影で便利だった
「ハイライトのクリッピング」を表示させたところ。望遠レンズでピントをざっくりあわせ、アプリ側から手動でフォーカスを微調整すると、月面の模様もある程度写し込める
なお、Lightroomアプリのカメラには多彩な撮影関連の設定項目を備えていますが、カメラやOSの仕様によっては、必ずしもすべての設定が行えるわけではないようです。
たとえば、筆者が試した限りでは、上記のハイライトのクリッピングはiPhone以外(Androidスマホ)では利用できませんでした。また、望遠レンズと広角レンズなど複数のカメラレンズを備えているスマホでも、同アプリでそれらを切り替えられるのはiOSのみのようです(Pixel 6とmotorola edge 20ではレンズ切り替えができなかった)。
最後に、撮影のコツについて。月の明るく光る部分と、地球の影に隠された部分の明暗差はかなり大きく、刻々と変化していきます。さらに薄い雲がかかったり、空がぼんやりかすんできたりするなど、月食当日の天候にも左右されるので、露出設定を決めるのはけっこう大変。決め打ちではなく、最適に写るように変えながら何枚も撮っておくと安心です。スマホによっては絞り値を手動で変えられないこともあるようなので、シャッタースピードとISO感度を細かく調整していくと良いです。
リアルプロクリップレンズ 望遠8倍とiPhone SE(第3世代)で、いつもの月を撮るとこんな感じ。後処理で周囲をカットすれば、月だけを大きく見せられる
筆者の場合、部分食が始まる頃はまだ明るいのでシャッタースピードを早め、ISO感度を抑えて撮影。食が進んで暗くなってきたら、シャッタースピードをギリギリまで抑えながら(1秒を超えるようなあまりにも遅い速度だと、月が動いてブレた写真になるため)、ISO感度もノイズが出ないあたりまで上げていきました。
皆既食が終わり、月が明るさを取り戻し始めたらすぐにシャッタースピードを早め、ISO感度を抑えめに戻します。部分食や皆既食の最中の月の色味が引き立つように、いくつかの機種ではホワイトバランスを変えてみたので、ひと味違った月写真に仕上がりました。
余力があれば、明るいうちに撮影する場所をあらかじめ探しておくのも良いでしょう。赤くて丸い月だけでも幻想的ですが、望遠レンズを使わず、カメラのスマホだけで月と風景を取り込んだ夜景写真に仕上げるのも楽しいです。都内であれば写真映えするスポットが多いので、構図や被写体を工夫すると絵になる写真が撮れることでしょう。
アサヒビール本社付近やスカイツリーの見える場所で、通常のスマホカメラで試し撮り
三脚にスマホを固定するには、ネジ穴付きのスマホホルダーが必要だ。筆者はAmazonで購入した、SmallRigのアルミ製スマホホルダーを使った。頑丈なつくりで、自在に向きを変えられ、三脚だけでなくカメラ上部に取り付けられるコールドシューもあるので重宝する
スマホで撮った「皆既月食写真」ギャラリー
ここからは、スマホで撮った皆既月食の作例を簡単に紹介していきます。なお、参考までに簡易な撮影データも載せていますが、撮影後に月が写った範囲のみ切り取り、オリジナルの画質を残しながらPhotoshopで微調整したものであることをご承知おきください。
シングルレンズのiPhone SE(第3世代)に、望遠レンズとLightroomアプリを組み合わせて撮った写真は、デフォルトの色味が最も「見たままの皆既月食」を再現できているように感じました。望遠レンズの装着時も、筆者の場合はケースが角形で取り付けやすいこともあり、全体のサイズ感やバランスが良いと感じました。この望遠レンズはiPhone SEと相性が良さそうです。
iPhone SE(第3世代)の皆既月食作例(1/2秒 / ISO 320)
iPhone SE(第3世代)と望遠レンズを組み合わせたところ
続いて、iPhone 11です。3世代前のiPhoneですが、明るさを持ち上げ気味にすると、じゅうぶんキレイな仕上がりになりました。こちらはカメラレンズが2つ付いているものの、片方はクリップの下敷きになって使えませんが、月撮影のみに徹するなら気にならないと思います。画面サイズがSEよりも大きく、望遠レンズとの重量バランスが安定しないのはやや気になるところではあります。
iPhone 11の皆既月食作例(1/2秒 / ISO 200)
iPhone 11と望遠レンズを組み合わせたところ
想定より暗めに写ってしまったのが、Pixel 6。皆既食が最大になる20時頃に撮ったことも影響していそうですが、後処理で明るさを持ち上げるとノイズが目立ちそうなのでやめておきました。暗所撮影には意外と弱いのかもしれません。望遠レンズの装着性もイマイチで、特徴的なカメラバーデザインとクリップが密着するポイントを見つけるのが難しかったです。素直にPixel 6 Proのような望遠レンズ搭載機を選ぶべきでしょうか(そのぶんスマホ本体の価格も跳ね上がるのが悩ましい……)。
Pixel 6の皆既月食作例(1/2秒 / ISO 330)
Pixel 6と望遠レンズを組み合わせたところ
motorola edge 20の作例は、かなり薄暗くパッとしない出来になってしまいました。経験上、このスマホは暗所撮影に弱いことを分かっていたので「お試し」と割り切って撮影に臨んだのですが、あまりにも暗いのでISO感度を引き上げ、さらにアプリ側の500倍デジタルズームで引き寄せたこともあって画質が厳しいものになり、“虚空に浮かぶ梅干し”感がぬぐえません。
複数のレンズを搭載したカメラ部とクリップの相性もなかなかシビアで、望遠レンズを組み合わせるのに苦労しました。ちなみにこのスマホは光学3倍ズームの望遠レンズを標準搭載しているのですが、Lightroomアプリ上で使えるのは真ん中のメインカメラのみで、内蔵の望遠レンズと外付けの望遠レンズを掛け合わせた高倍率化はできませんでした。無念。
motorola edge 20の皆既月食作例(1/4秒 / ISO 1600)
motorola edge 20と望遠レンズを組み合わせたところ
Rakuten Handもmotorola edge 20と似た傾向の仕上がりですが、月に近づく天王星(?)を左下にかろうじて写せました。望遠レンズの装着性については前述のように、クリップが操作画面に被ってしまう問題があり、やや操作しづらいところはあるのですが、スマホが小さいのでハンドリングは悪くありません。ただ、レンズの重さに引っ張られやすく、三脚などに固定するときのバランスには気をつけたいところ。
Rakuten Handの皆既月食作例(1/4秒 / ISO 600)
Rakuten Handと望遠レンズを組み合わせたところ
最後はXperia XZ1 Compact(SO-02K)です。5年前(2017年発売)のスマホながら、カメラまわりに注力した設計なだけあって写りがよく、撮影後のプレビュー表示を最初に見たときは「お、いいじゃん」と思わずつぶやいてしまいました。あとから見るとやや赤い色が派手に出ている気もしますが、これはこれで“映えている”んじゃないでしょうか。ISO感度を上げるとまわりの星々も映り込んでイイ感じでしたが、周囲の暗闇にノイズが浮き出すのでISO 400までに留めました。
「スマホで撮った皆既月食」の中では、これが一番お気に入りの一枚です。
Xperia XZ1 Compactの皆既月食作例(1/2秒 / ISO 400)
Xperia XZ1 Compactと望遠レンズを組み合わせたところ
日本国内で次に皆既月食を楽しめるのは、約3年後の2025年9月8日。だいぶ先の話にはなってしまいますが、普段の月の撮影でもその奥深さはスマホで十分堪能できました。もし「スマホカメラじゃ物足りない」とか、「本格的なカメラ撮影には敵わないなぁ」と感じたら、思い切って写真とカメラの世界に飛び込んでみるのも良いと思いますよ(と軽率に“カメラ沼”への入口を開くやつ)。
皆既月食が始まるまでは川辺にたくさんいた通行人も、月食の終わりを迎えるころには姿を消し、ひっそりとしていた (ソニー α7 III / キヤノン EF24-105mm F4L IS USM / 24mm / F11 / 8秒 / ISO 200)