VRゴーグルを活用して弱視の治療!? 子ども向け治療用アプリ開発へ

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弱視の子ども向けにVR技術を用いた治療用アプリの共同開発を医療ベンチャー「InnoJin」など3社が発表しました。このニュースについて石川医師に伺いました。

監修医師:
石川 英昭(医師)

偕行会城西病院内科部長。名古屋大学大学院医学系研究科病態内科学腎臓内科医局、Adjunct Professor for Faculty of Medicine, Hasanuddin University, Indonesia所属。著書は「現役医師が、五本足指靴で暮らしてみた!」「忙しいお父さんのための家庭の平和に効く、わが子とワクワク朝活!」など。

VR技術を用いた弱視治療用アプリとは?

VR技術を用いた弱視の子ども向けの治療用アプリについて教えてください。

石川先生

今回のニュースは、医療ベンチャー「InnoJin」と「住友商事」、VR開発をおこなう「イマクリエイト」が共同開発することを発表した、弱視の子ども向けの治療用アプリについてです。弱視にはいくつかの原因が知られていますが、正確な診断をするためには眼科医の診察を受けることが必須です。そして、弱視の治療には眼鏡をかけたり、点眼薬を用いたり、目を覆ったり(アイパッチ)する方法があります。治療用アプリは、デジタル技術を用いて特定の疾患の治療をおこなうソフトウェアのことを指します。

今回発表された弱視治療用アプリはゴーグル型のVR端末を使用するもので、InnoJinの説明によると「対象となるのは左右に大きな視力差がある弱視の子どもです。VR上で左右の目に異なる映像を表示することで、アイパッチ治療と同等の治療効果の実現を目指している」とのことです。具体的には、健康な目に対しては不鮮明な「けん玉」の映像が現れ、弱視の目には鮮明な映像が現れる仕組みになっています。また、目と手の協応運動による立体視訓練も同時におこなうことができるほか、アプリの使用時間を記録することで、より効果的な治療計画の立案にも役立てられるとしています。今後は、2025年度に医療機器としての承認申請をおこない、2027年度に販売開始を目指しているとのことです。

そもそも弱視とは?

今回発表されたアプリで治療対象になった弱視の特徴について教えてください。

石川先生

視力は生まれつき備わっているものではなく成長とともに獲得していく能力ですが、視力の発達障害によって起こる低視力のことを弱視と言います。弱視は子ども全体のおよそ3%が罹患する身近な目の病気で、毎年3万人ほど患者数が増加しています。弱視の原因で最も多いのが、遠視などの屈折異常です。遠視は、近く・遠くの物をはっきりと見ることができないため、視力が成長しにくくなります。子どもが遠視である場合、物を見るときに目を細めていたり、物に近づいていたりする動作がみられます。弱視は自治体や学校の健康診断で見つかることが多いですが、視力検査だけではなく屈折検査や斜視検査などの結果も踏まえて総合的に診断されるため、眼科医の診察を受ける必要があります。視力が正常に発達しないと、眼鏡をかけても視力を矯正できない状態になり、子どもの学習や生活に悪影響を及ぼします。なお、眼鏡をかけた矯正視力が1.0以上であれば、弱視とは言いません。視力が成長するのは10歳頃までなので、早期に治療を始めることで視力が改善しやすくなります。

弱視の治療用アプリに対する期待感は?

弱視の治療用アプリに対する期待感について教えてください。

石川先生

たとえ親が見守っていたとしても、未就学児に対して医師の推奨する治療法をおとなしく遵守させることは、多くの場合困難でしょう。しかも弱視の治療で子どもたちがアイパッチを装着するという煩わしさから逃れたいと考えるのは、ごく自然です。「進んで装着したくなるような楽しい医療器具があれば、子どもたちもずっと使ってくれるのでは?」という発想で開発されたのが、今回のVRアプリなのでしょう。「眼鏡と同時に使用するのか」「装着したときに違和感はないか」「VR酔いは起きにくいか」など気になる点はありますが、従来の治療法にはないアイデアで効果に期待できると考えます。実臨床で患者である子どもたちや、その親御さんからフィードバックを受けて、より良い機器へと発展することを願っています。

まとめ

医療ベンチャー「InnoJin」など3社が、弱視の子ども向けの治療用アプリの共同開発を発表したことが今回のニュースでわかりました。今後おこなわれる臨床研究の結果にも注目が集まりそうです。

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