地下深くまで太陽光が届く駅! 延伸した香港MTR「東鉄線」に乗ってみた
香港の地下鉄(MTR)の新線として2022年5月15日、東鉄線(East Rail)の紅ハム(Hung Hom)から金鐘(Admiralty)までの延伸ルートが開通しました。これは香港住民にとってはかゆいところに手が届くような路線。筆者は6月に乗ってみました。
元々は香港と中国を結ぶ路線が始まり
香港の地下鉄(MTR)の東鉄線のうち、延伸ルートである紅ハム(Hung Hom)〜金鐘(Admiralty)間が2022年5月15日に開通しました。延伸区間の大部分は海底トンネル。つまり、この路線は香港島(Hong Kong Island)〜本土間の新ルートとなったのです。紅ハムは大陸側、金鐘は香港島の地名です。
会展駅に向かってくるMTR東鉄線の列車(2022年6月、武田信晃撮影)。
延伸は革命的な出来事でしたが、その理由は何でしょうか。
従来、香港島の住民が金鐘から紅ハム、さらには中国とのボーダーに最も近い街である上水(Sheung Shui)に向かう場合は、金鐘→旺角(Mong Kok)→九龍塘(Kowloon Tong)→上水と、旺角および九龍塘で2回乗り換える必要があり、所要時間は49分でした。それが、この度の延伸開通により金鐘〜上水間は乗り換えが一切なくなり、所要時間は40分に。紅ハムへなら、直通でわずか7分となったのです。
「かゆいところに手が届く」路線、なぜ?
「かゆいところに手が届く」と書いたのは、わずか6kmの延伸で大幅な時間短縮効果を得られたほか、乗り換え不要となるルートが複数生まれるため。だからこそ、香港政府は紅ハムから海底トンネルを掘ってでも、香港島と大陸側を結ぶ路線を建設したのです。
延伸ルートの紅ハム〜金鐘間は、チュン湾線(Tsuen Wan Line)の尖沙咀〜金鐘間とほぼ並行しています。つまり、人の流れが分散する効果もMTRは狙っています。また、延伸ルートの中間に會展駅(Exhibition Centre)が設けられましたが、ここは湾仔(Wan Chai)という地区に位置し、地区内には東京ビッグサイトのような大型イベント施設「会議展覧中心(HKCEC)」があります。そのような會展を経由し、東鉄線が到達した先の金鐘は、計4路線が集まる香港最大のターミナル駅になりました。
ラビリンスと化した金鐘駅
金鐘駅のプラットホーム数は8つ、駅全体は8フロアあり、まさにラビリンスと化した駅となりました。使われた鉄柱の数はエッフェル塔の4倍、使われたコンクリート量はサッカー場大で2階建てのビルができるほどだそうです。地下深い駅なので、あえて吹き抜けの部分を造り、自然の光を地下まで入れようとしています。都営大江戸線が深いところにあるのは知られていますが、構内にまで自然の光を入れようとする地下鉄駅は、筆者(武田信晃)はほかに知りません。
東鉄線の総延長は46km、駅の総数は16となりました。新駅は前述の會展だけで、乗り換え駅は5駅あります。
ラビリンスと化したの金鐘駅(画像:MTR)。
工事は2013(平成25)年から始まりました。トンネルは、海底部分はプレキャスト工法を採用。1ユニットの長さは160mで重さは2万3000トン、計11ユニットが連接されました。ユニット以外のトンネル部分は約2.3kmのボーリングを実施。そこから排出された土砂の量は15万5000立方メートルに及びます。
列車は延伸前12両編成でしたが、今後は9両編成に変更されるようで、車両は段階的に入れ替えられます。車両は韓国の現代ロテム社、中国の長春軌道客車、そして伊藤忠商事・近畿車両・川崎重工のコンソーシアムも採用されました。
実際に乗ってみた
筆者は6月、実際に利用してみました。列車の座席は金属製で、1列6人が座れるタイプ。垂直の手すりは握る部位だけ2つに分かれていて、よりたくさんの人が握れるデザインです。ドアの下には大型ディスプレイが設置され、路線の全体図や次の駅、現在停車している駅など必要な情報が流れてきます。また、座席の上のディスプレイではニュース番組のダイジェストなどが放映され、いわゆる広告用として使われていました。
地下鉄である東鉄線ですから、香港島に渡る海底トンネルに差し掛かっても、いつから海底なのかは全く分かりません。それなりに人が乗っていたものの混雑というほどではありませんでしたから、MTRの狙い通り、チュン湾線と東鉄線に客が分散したのだと思います。
駅の運行掲示板には、次の列車の情報が表示されますが、混雑状況についても知らせてくれます。混雑していれば黄色、空いていれば緑色でリアルタイムに表示。MTRのアプリでも確認できます。またJR山手線のように、次の列車の到着にかかる時間を表示します。
東鉄線の延伸は事実上、香港を南北に縦断する路線を建設したことです。中国本土へのアクセスのみならず、九龍と新界(New Territories)へのアクセスも抜群に改善されました。香港での移動が楽になったとしみじみ感じます。