この記事は、DIGIDAY[日本版]のバーティカルサイト、ビューティ、ファッション業界の未来を探るメディア「Glossy」の記事です。

ルルレモン(Lululemon)は、2000年代初頭に、シーセル(SeaCell)という企業が作った海藻由来の繊維を最初に使い始めた企業のひとつである。ルルレモンは、この素材にストレスを軽減する抗炎症作用や抗菌作用があるとネットで宣伝していた。しかし、2007年のニューヨーク・タイムズ(New York Times)の調査でシーセルの繊維をテストしたところ、そのような医薬的主張を裏付ける証拠は見つからなかった。それどころか、ニューヨーク・タイムズのテストでは、海藻が繊維に含まれていることを示す要素すらまったく見つからなかったのである。ルルレモンは、ビタシー(VitaSea)と呼ばれる衣料品シリーズに使用しているこの繊維の取り扱いを継続しているが、マーケティングやウェブサイトからは医薬的な主張をすべて消している。その代わり、ルルレモンではこの素材の通気性と快適さを重視している。だが、レティシア・クレディディオ(Leticia Credidio)、パンガイア(Pangaia)、ブオリ(Vuori)、シーセル(SeaCell)といった他の企業は、裏付けとなる証拠がないにもかかわらず、この繊維の医薬的メリットを明白に示唆し、大々的に宣伝し続けている。

科学的根拠がない効能を宣伝に使用するブランド

シーセルのウェブサイトは、その海藻繊維の効能を紹介するページで次のように書いている。「海藻を活性物質として加えているのには、非常によい理由がある。この海洋植物が微量元素を豊富に含んでいることは漢方の時代からよく知られており、また海藻は皮膚を保護し、抗炎症作用があることが証明されている」。ドイツに本社を置くシーセルにコメントを求めたが返答はなかった。ある皮膚科医は名前を伏せた上で、シーセルの主張を裏付けるような研究はひとつもないと話した。海藻には実際に多くのビタミンや栄養素が含まれているが、海藻で作られた服を着ることでそれらのビタミンが肌に届くという考えに科学的根拠はない。それにもかかわらず、カナダのデザイナーズブランドであるレティシア・クレディディオは、シーセルをセールスポイントにしている。同ブランドのサイトを見ると、シーセルのナイトガウンの製品情報では「海藻独自の特性によって、私たちが日常生活でさらされている有害な環境の影響から肌を守ってくれる」と主張している。レティシア・クレディディオは、コメントの要請に応じなかった。アクティブウェアブランドのブオリは、2015年のブログ記事で「着用時、肌に自然に作用するミネラル、タンパク質、微量元素を豊富に含む」と述べ、 シーセルの繊維の使用を開始すると発表した。ブオリは現在もこの繊維を使用した衣類を販売しており、その医薬的効果についての謳い文句はいまもサイトに残っている。この記事の掲載に際して、同ブランドからのコメントは得られていない。

サステナビリティの観点を信頼する

素材の革新性を誇るパンガイアもシーセルの繊維を使用しているが、マーケティングのほとんどは、この素材を使用することによるサステナブルな信頼性に焦点を当てている。海藻は100%生分解される。パンガイアは4年に一度収穫し、収穫の間に完全に自然再生させることができる。パンガイアの海藻繊維に関するウェブページには、確かに「海水で生育する海藻には、ビタミン、抗酸化物質、アミノ酸、ミネラルなどの必須物質が豊富に含まれている」という一節が存在する。だが、パンガイアの担当者は、それらの成分が皮膚に吸収されることを意味するものではない、と述べた。「海藻は海中で豊富に育つ自然に再生する資源だ」と、その担当者はメールでGlossyに述べた。「一般的に多くのすばらしい特性があるが、当社の繊維は肌に何らかのメリットをもたらすために開発されたものではない」。

衣類の健康効果に関する規制が重要課題

過去5年間で、ブランドが自社の衣類の健康効果を強調することがますます一般的になってきている。たとえば、バイブラントボディ(Vibrant Body Co.)は、同社の衣類には他の下着製品に含まれる100以上の一般的な毒素が含まれていないことを保証している。スイスのブランド、グラフェンベルク(Graffenberg)は、同社の衣類に含まれる抗酸化物質が、シワの原因となる微量元素あるいは「フリーラジカル」の数を減らすことができると主張しており、これにはある程度の科学的裏付けがある。衣服やその生産工程におけるサステナビリティや健康へのメリットに関するさまざまな主張の標準化と規制が、ファッション業界における重要な課題であり、あまりに大きな問題であるため、EUは今年これに対する法律を導入したほどだ。ファッション業界では、ブランドが自社広告で主張できる内容に関してほとんど規制が存在しなかったが、ファッション法についての経験があるセダムローグループ(Sedhom Law Group)のマネージングパートナー、ラニア・セダム氏は、それは徐々に変わりつつあると指摘した。「あらゆる種類のものに、用語体系に関するルールが存在する」とセダム氏は言う。「たとえば、ワインは特定の産地のものでなければ、その種類を名乗ることはできない。だがファッションにはこれまでそういうものがなかったのだ」。[原文:Fashion touts the benefits of seaweed fabric, but science doesn’t back it up]DANNY PARISI(翻訳:Maya Kishida 編集:山岸祐加子)