クルマの後席で目立っていた床の中央部の出っ張り、これがなく床がフラットだったり、あったとしても目立たなかったりする車種が増えています。逆にいうと、なぜ出っ張りが必要なのでしょうか。

車内移動にジャマ! 座ってもジャマ! それは「センタートンネル」

 トヨタの「ジャパンタクシー」が2017年の発売以降、着々と数を増やし、今や日本のタクシーの主流になりつつあります。同車の特徴のひとつが、“床がフラット”なことです。後席の足元に“出っ張り”がありません。これまで左のドアから乗り込み、右側に移動するとき邪魔をした出っ張りが消えたことを歓迎する人は、意外と多いのではないでしょうか。


後席の床がフラットなジャパンタクシー(画像:トヨタ)。

 実はジャパンタクシーに限らず、近年は、そうした後席の床が平らになっているクルマが増えています。たとえば、日本で一番売れているクルマのホンダ「N-BOX」、同じホンダの新型が出たばかりの「ステップワゴン」、そのライバルとなるトヨタ「ノア」「ヴォクシー」の床もまっ平です。ダイハツの新型車「ムーヴキャンバス」も同様です。

 これら名前を挙げたクルマに共通するものは何でしょうか。それは、すべてが左右スライドドアを備える箱型ボディを有していること。そして、「FFレイアウト」のプラットフォームを使っていることです。ここに理由があります。

 まず、床の出っ張りは、クルマ用語で「センタートンネル」と呼びます。車体の真ん中を貫くトンネルです。その中には、プロペラシャフトとエンジンからの排気管などが通っています。プロペラシャフトは、クルマの前方にあるエンジンから後輪に動力を伝える棒(シャフト)のことで、後述するFR車や4WD車に見られます。排気管は、前方のエンジンから後端のマフラーまで通じる排気の通り道です。

 また、FRレイアウト(前方にエンジンがあり後輪で駆動する)のクルマは、前席部分のセンタートンネルに、縦置きされたトランスミッションが入るため、センタートンネルが大きなものとなります。このほか、床面をトンネル状に出っ張らせると、床面の剛性が高まるという効果もあります。

 これらが、クルマの後席の床に出っ張りがあった理由です。古いタクシー、たとえば「クラウン」系のセダンなどは、FRレイアウトの後輪駆動車ですから、後席のセンタートンネルをなくすわけはいかなかったのです。

フラットな床のクルマ、今後さらに増加?

 FRレイアウトは、クルマの古典的スタイルであり、日本でも昭和のころはFRレイアウトが主流を占めていました。昭和のベストセラーである「カローラ」も、最初はFRレイアウトだったのです。

 その後、日本車、特に小型車ではFFレイアウトが増えていきます。技術的には難しいFFレイアウトも、できてしまえば「乗員用のスペースを大きくとれる」というメリットがあります。そうした時代の流れに沿って、タクシーもFRからFFレイアウトのクルマへと変わってきたのです。

 FFレイアウトになれば、大きな縦置きトランスミッションがありませんから、当然、センタートンネルを小さくすることができます。また、技術が高まるほどに、必要な剛性を確保しながら、床面を薄くできるようになってきました。そうしたFFレイアウトの浸透と、ボディ剛性アップの技術的な進化により、現在のような箱型モデルのフラットな床が実現したと言えるでしょう。


FRが多い高級車はセンタートンネルの出っ張りが目立つ(画像:gargantiopa/123RF)。

 最近は、さらに床面をフラットにしやすくなる技術が普及しています。それが、後輪をモーターで駆動する4WDです。トヨタ「プリウス」や日産「ノート」のようなハイブリッド・モデルは、エンジンで電力を生み出すことができます。その電力を使って後輪をモーターで駆動できれば、プロペラシャフトは不要となります。つまり、前輪はエンジン・モーターのハイブリッドで、後輪はモーターで駆動する4WDです。その結果、最新のハイブリッド・モデルのセンタートンネルは非常に小さなものとなりました。

 さらに、今後はEV(電気自動車)の普及が予想されます。EVはモーター駆動のため4WDであってもプロペラシャフトは必要ありません。また、多くのEVは床の中に電池をびっしりと敷き詰めます。そうとなれば床面の剛性は高く、さらに床をフラットにしやすくなります。今後、EVが増えるなら、フラットな床のクルマも増えるのではないでしょうか。