「CO2が資源になる時代」近い? 日韓の造船競争が激化する「液化CO2運搬船」とは
排出CO2を有効利用する世界の実現へ向け、造船業界では「液化CO2運搬船」をめぐり日本勢と韓国勢の開発競争が加速しています。そもそもこの液化CO2、どのようなものなのでしょうか。
水素やアンモニアの活用とともに「CO2」も
地球温暖化をもたらす原因の一つとして、排出削減に向けた取り組みが全世界的に進められているCO2(二酸化炭素)。これを船舶で大量に輸送し、新たなビジネスへ繋げようとする動きが活発化しています。
日本では三菱重工業グループの三菱造船が世界初となるCCUS(CO2回収、輸送、利用、貯留技術)を目的としたLCO2(液化CO2)輸送船の建造に着手。さらに大手船社の日本郵船や商船三井、フランスの石油大手トタルエナジーズなどとも協力しながら、大型LCO2船の開発を行っています。
これに対しLNG(液化天然ガス)船の建造で圧倒的なシェアを誇る韓国の造船業界も、CO2の海上輸送に関心を寄せています。2022年に入ってから、大宇造船海洋と現代重工業グループが相次いで超大型LCO2船を開発したことを明らかにしました。
なんでCO2を船で運ぶの?
三菱造船で建造が決まったLCO2船。タンク容量は1450立方メートルだが、将来の大量輸送を見据える(画像:三菱重工業)。
大型LCO2船の開発が急がれている背景には、日本や韓国、さらにはアメリカ、イギリス、EUの主要国などが2050年までにCO2の排出量を実質ゼロにする目標を掲げていることがあげられます。
日本政府は2050年カーボンニュートラルを実現する脱炭素燃料として、水素とアンモニアに大きな期待を寄せており、なかでも大量の需要創出が見込まれる発電利用を中心に、本格的な導入を前提としたプロジェクトを推進しています。すでに大型液化水素運搬船の開発や、アンモニア専焼ガスタービンの研究などが始まっており、その一部は2020年代に商用化の目途がつきそうです。
しかし、こうした次世代燃料の導入や社会の電化を進めたとしても、火力発電や化学プラント、製鉄の過程などではCO2が引き続き発生してしまいます。
三菱重工によれば2050年段階での世界のCO2 排出量は43〜130億トン(2019年は約335億トン)。カーボンニュートラルを達成するには、残るCO2を大気中に放出せず全て回収し、資源として有効利用するか、地下800m以深に位置する「貯留層」に封じ込めるといった対策が必要です。現在、アメリカや欧州を中心にCO2貯留サイトの整備が進んでおり、貯留規模も拡大しています。その運搬手段のひとつが船舶というわけです。
国内外の企業を巻き込んでプロジェクトを進める三菱
将来的にCCUSが広がった場合、CO2の輸送需要は10億トン以上に及ぶと予想され、バリューチェーンを構築するには、工場などから回収し液化したCO2を、海を隔てた貯留サイトやリサイクル拠点まで大量に輸送するLCO2船が必要となります。これまでも、炭酸飲料をはじめ食品用途などでLCO2船が用いられていますが、これを運ぶ既存の1000〜2000立方メートル型LCO2船では、小型のため能力に限界がありました。
そうしたなか三菱造船は2022年6月8日、LCO2船に搭載する球形カーゴタンクシステムの基本設計承認(AiP)をフランス船級協会ビューロベリタスから取得しました。低温かつ圧力の高い状態で液化されたCO2ガスを積載して輸送するため新たに開発したもので、球形タンク式LNG船の設計・建造で培ってきた技術を応用。容量3万立方メートル以上の大型LCO2船への搭載を想定しており、三菱重工は「コスト面で有利に立つことができる」としています。
タンクだけでなく船体の開発も行っており、2022年3月には商船三井と共同で研究している5万立方メートル型「アンモニア・LCO2兼用輸送船」のコンセプトスタディーが完了したことを発表。これは往路でアンモニア、復路でLCO2を輸送する想定です。5月には、日本郵船と共同で開発した大型LCO2船のAiPを日本海事協会から取得したほか、前出の通りフランスのトタルエナジーズとも、LCO2船の開発に関するフィージビリティ・スタディー(実効性調査)を始めています。
三菱造船と商船三井が開発しているアンモニア・LCO2兼用船のイメージ(画像:三菱重工業)。
実船に関しては、容量1450立方メートル型の実証試験船が三菱重工の下関造船所で建造され、2023年度後半の竣工が予定されています。これは、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の実証事業として行う舞鶴(京都府)から苫小牧(北海道)までのCO2海上輸送へ投入。その実証事業では、川崎汽船が輸送・荷役時の安全性評価と技術的なガイドラインの策定に取り組みます。
このほかにも、三菱重工は回収したCO2とグリーン水素を合成してクリーン燃料「エレクトロフューエル」を製造する技術を持つ米インフィニウムに出資しており、CCUSバリューチェーンの構築を着々と進めています。
もっとデカい! 韓国勢もLCO2船が相次ぐ
一方で韓国の現代重工グループは、2025年から東海ガス田で年間40万トンのCO2を地下に貯留することを目標に、海上へ設置するCO2注入プラットフォームと輸送を担うLCO2船を開発しました。
このうちLCO2船は容量7万4000立方メートル型と世界最大の大きさを誇り、エンジンは環境規制に対応するためLNG焚き機関を搭載します。これは現代重工グループとアメリカ船級協会(ABS)、マーシャル諸島海事管理局による共同プロジェクトで、AIPを取得した後、プロトタイプの船舶を建造することを計画しています。
また、大宇造船海洋も7万立方メートル型のLCO2船を開発し、ABSからAIPを取得したことを2022年4月に発表しました。サイズは長さ260m、幅44m。LNG焚き機関に加え、舶用CO2回収・貯蔵装置を設置するのに十分なスペースを確保します。
競争激化 これからの伸びが見込まれるLCO2輸送
CO2の回収、液化、パイプライン輸送、そして船舶で遠方へ輸送するシステム構築を目指す(画像:三菱重工業)。
カーボンニュートラル達成の切り札とも言われているCCUSは、CO2削減に悩むさまざまな国や企業から注目を集めています。
ABSのクリストファー・ヴィエルニツキーCEOは海運の脱炭素化に向けた講演の中で「ネットゼロへの移行スピードは、炭素と水素のバリューチェーンの開発スピードに左右される」と述べ、「効率的な炭素回収・貯留技術なしには、2050年までにネットゼロを実現できない」との見解を示しました。
これまで石炭や石油、LNGといったエネルギー輸送で経済に大きな貢献を果たしてきた船舶が、環境分野にも活躍の場に広げる可能性があり、日韓の造船会社は需要を取り込むために熾烈な競争を繰り広げることになると見られます。ちなみに三菱造船は2020年にVLGC(大型LPG船)を引き渡して以来、ガス運搬船の新造からいったん遠ざかりましたが、LCO2船の建造は三菱重工下関造船所が手掛けるため、再び三菱製のガス運搬船を見ることができそうです。