東京五輪に出場した白井空良(左)と西矢椛が語る日本の部活【写真:荒川祐史】

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スケートボード・西矢椛&白井空良インタビュー「ストリートスポーツ×部活」

 スケートボードの東京五輪女子ストリート金メダリスト・西矢椛、男子同9位の白井空良が「THE ANSWER」のインタビューに応じ、ストリートスポーツと日本の部活のカルチャーについて考えを明かした。ライバル関係を越えたスポーツマンシップが話題となり、新しいスポーツの価値観が注目された東京五輪。トップ選手である2人は競技の文化の何を誇り、勝利至上主義などが課題になっている部活をどう見ているのか。(取材・文=THE ANSWER編集部・神原 英彰)

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 1年前の夏、スケートボードは眩いスポットライトを浴びた。

 新種目として採用された東京五輪。中学2年生の西矢椛が女子ストリートで日本人史上最年少の金メダルを獲得し、「13歳、真夏の大冒険」という実況フレーズとともに一躍、時の人に。金3個を含め、4種目で計5個のメダルを獲得した日本勢の活躍の一方でクローズアップされたのが、競技のカルチャーだった。

 象徴となったシーンがある。

 女子パーク決勝3回目。金メダル有力候補だった15歳・岡本碧優は直前まで暫定3位だったが、別の選手が3位に滑り込んだため、果敢に“ゴン攻め”。繰り出した男子顔負けの大技に、最後のジャンプで失敗。頭を抱え、悔し泣きしていると、駆け寄ったライバルたちに抱き上げられ、チャレンジを称えられた。

 当時はネット上で大きな話題を呼んだ場面。勝敗を超えたストリート発祥スポーツの文化として、称賛の的になった。

 しかし、当事者の選手たち自身が世間の反応をどう思っていたのか、あまり語られていない。男女のトップ選手が揃う貴重な機会。ストレートに聞いてみた。

 あの場面、どう思いましたか?

「五輪の舞台でも、想いは同じ。スケートボードは誰もやってない技をするのが一番凄いとされているし、そういう技を見せると、みんなが本当に盛り上がる。それは良い文化。実際、碧優のランは半端じゃなかったし、決まったら男子に交じっても予選突破が狙えるレベルだった。

 スケートボードって、世の中からするとずっと印象が悪い存在だったんです。それは、もちろん当たり前のこと。まだ街中でスケボーをするような人がいるのは、自分が一般の人だとしても大迷惑。でも、五輪でちょっとでも好印象になったのなら、凄いなあ……って思います」

 どこか現実感なく語ったのは、男子ストリートで9位に入った白井空良。「男子のストリートはもうちょっとピリついてる。男女で違う」「五輪だからやったのかなって。『ホントかよ!?』って、ちょっと思った(笑)」との実感もあったというが、好意的に世の中に伝わったことはポジティブに受け入れている。

 現場で、その光景を見ていた西矢も「なんか、いいなって思った。みんなで称え合っている感じが」と笑った。

 そして、この出来事は、単なる「いい話」として消化されるのではなく、日本スポーツ界の背筋を伸ばした。

西矢が大会に出る理由は「勝つためじゃなく、みんなと一緒に滑りたいから」

 とりわけ、柔道、バレーボールなど日本で長く親しまれる伝統的な部活競技の関係者で危機感を覚えた者が少なくない。

 根底にあるのは、昔ながらの勝利至上主義。それが行き過ぎた結果、近年は競技人口の低迷につながっていると見る向きもある。だからこそ、東京五輪において新しいスタイルのスポーツで、10代の少女たちが作り出した光景は、驚きに映った。

 では、スケートボートで戦う2人は「勝つこと」の価値をどう捉えているのか。

 どちらかといえば、勝つことよりも「自分のやりたいトリックを決めること」が大切と西矢は言う。その理由を聞くと、印象的な言葉が返ってきた。

「うーん、よく分からないけど……勝ちに大会を出ているんじゃなく、みんなと一緒に滑りたいから大会に出ているので」

 大切なのは同じスポーツを愛する仲間と、練習してきたことを披露し合い、認め合うこと。あくまで、その延長線に勝敗がある。だから、だろう。西矢はスケートボードをやって一番良かったことを聞かれたら「いろんな友達ができたこと」と迷いなく答える。

 もちろん、まだ中学3年生。白井が「自分くらいの年(20歳)になったら、これで賞金をもらえるなとか考えちゃう」と笑うように、邪念に惑わされず、純粋に競技を楽しめる年代ということも大きいが、非凡な才能と努力で金メダリストになった選手の言葉としては新しい価値観に思える。

 白井は「戦略もありますね」と西矢の言葉に補足した。「予選なら自分がやりたい技じゃなくても、点数を計算してやる。決勝は自分がやりたい技なら、勝てるポイントがつくと計算できる、だから、メイクできたら勝ち、できなかったら負け」。自分がやりたい技こそが勝利への近道になるから、誰もがこだわる。

「もちろん、勝ったら嬉しいですよ。それに勝ることないって思うくらい。優勝ってことは、みんなに認められたわけでもあるので」

 逆に、スケートボード界で生きる2人に部活の世界はどう見えているのか。

 白井に聞いて、最初に出てきたのは意外な言葉だった。「羨ましい気持ちはありますね」。続けて「大変そうだなって気持ちもあります」とも言った。

 憧れる理由は、部活ならではの集団性だ。

「部活って同じ学校のみんなでやって、凄く楽しそうだなって。6、7時まで練習して、家に帰って。でも、俺たちは先に帰って、そこから一人で練習して10時までやって。生き方も生活も全然違うんです。その時はみんなスケボーなんて知らない。サッカー、野球が正義ってみんな思っていたし、誰からも認められてなかったので」

 もともと、野球が好きで小さい頃に少年野球を体験したが、「センスがなさすぎて」1日で辞めたという白井。その白井に「部活に憧れたことはない?」と振られた西矢も「あります」と素直に想いを口にした。もし、部活に入るならバスケットボール。「バリうまいっす」と自称するほどの腕前だという。

 当たり前に練習環境・設備があり、認知され、仲間がそばにいる。それも、部活の一つの良さ。

 隣の芝生は青く見えるもの。日本で競技の歴史は浅いがゆえに、白井は「スケートボードをやっている人、みんな部活に憧れたことがあると思いますよ」と明かす。

「楽しいことよりきついことの方が多い」スケボーがやめられない理由とは

 ストリートスポーツといえば、「自由」のイメージが強い。

 競技はダボっとしたTシャツを着こなすストリートスタイル。坊主を強制されることも、過度な上下関係もない。14歳の西矢は20歳の白井を「空良くん」と呼び、白井は「話しかけても、たまに無視されます」と笑う。その分、「楽」との誤解も生まれるが、血の滲むような努力を重ねているのは多くのスポーツと同様だ。

 転倒がつきもの。体はあざだらけ。「楽しいことより、きついことの方が多い」と白井は言う。

「野球もサッカーも痛いと思うけど、スケボーも本当に痛いんです。何回も地面に叩きつけられて、練習は毎日行きたくない。靴紐を結んでいる時に(気分が悪くて)鳥肌が立つくらい。でも、新しい技メイクした時の達成感は最高で。やめられない。それは、きっとどのスポーツでも一緒じゃないかなって思います」

 競技特性が注目され、東京五輪が競技の転換点となったのは事実。ただ、白井はスケートボート界の課題も認識している。

「米国って街中で滑ってもあまり怒られない。日本は(練習が認められている公園など)どこでも怒られるし、通報される。なんで、そうなっているかはみんな分かっていて、練習が終わってもたむろしたり、本当にやっちゃいけない場所でやったりするから。大会で楽しそうに滑る。でも、ちゃんと守るべきルールは守る。

 滑るのが、俺たちの仕事ですから。当たり前ですけど、しっかりと迷惑をかけず、競技を続けていくことしかできない。(4月に行われたストリートスポーツの祭典)『X Games』が地上波で生中継されるなんて、本当に凄いこと。これからもっともっとスケートボードがいい方向に進んで、良い印象になっていけばいいなと」

 決して、どちらに優劣があるわけではない。ストリートスポーツにはストリートスポーツの、部活には部活の良さがあり、それぞれの歴史を築いている。大切なことは異なる文化を知り、必要なことを互いに学び、スポーツがより愛されるものとして発展していくこと。

 21世紀生まれの2人の言葉には、そのヒントがあるように聞こえた。

(THE ANSWER編集部・神原 英彰 / Hideaki Kanbara)