※この記事は2017年12月25日にBLOGOSで公開されたものです

「紅白」に安室奈美恵と桑田佳祐が出演することになった。

今年の「紅白」について、私は〝目玉〟がなく盛り上がりに欠けると書いてきたが、ここにきて一発逆転！と言ったところだろう。ただ、世間的には「NHKの粘り勝ち」と言われているが、安室も桑田も最初から出演に関して「承諾」を得ていたのかもしれない。

もちろん、業界チックに見たら裏で芸能界の大物が動いたことは間違いないと思うが、そんなことは視聴者にとっては関係のないことであって、安室を、桑田を「紅白」で観ることができるかが重要なのだから「視聴者の期待に応えた」ことは確かだ。受信料で支えられる「みなさまのNHK」にとっては面子を保ったことになる？

だが…。

紅白歌合戦に「後出しジャンケン」は必要なのか

かつて東京都知事選挙で石原慎太郎元知事がギリギリになって出馬を宣言したり、「1000％出ません」なんて、頑なに否定し続けていた橋下徹氏が大阪府知事選や大阪市長選挙に出馬したり、ギリギリのタイミングを見計らうことは、確かに〝大衆〟から注目を集める手法として効果的であることには違いない。

その手法をNHKがパクったとはいわないが、昨年の「紅白」でのSMAPもそうだったように（結果として出演はなかったが）、〝国民的音楽番組〟として歴史を刻んできた大みそ日の「紅白」までもが、こういった手法での盛り上げ方をすることに、正直言って違和感を覚える。

確かに「盛り上がりに欠ける」と言われたら、その盛り上げる方法として特別枠を設けて〝サプライズ出演〟を考えるのは、ごく当たり前のことだ。しかし、「紅白」というのは違う。何と言っても「紅白」「歌合戦」と言うのが基本コンセプトだからだ。

紅組でも白組でもない「特別枠」の存在

ところが、いつの頃からか「歌合戦」よりも「特別枠」の方が注目されるようになってしまった。「紅白」の〝出場歌手枠〟ではなく〝サプライズ枠〟での出演なら…と。

ステービー・ワンダーやスーザン・ボイル、レディー・ガガなど、海外からのアーティストは仕方ないにしても、サザンオールスターズや矢沢永吉、中森明菜…。

「特別枠」は、いつの間にか、記者内から「白組」でも「紅組」でもない「桃組」なんて言われるようになった。

そればかりではない。年末になると「各地でのカウントダウンコンサートが増えた」こともあってライブ中継も増えた。もちろんカウントダウンコンサートのようなケースは百歩譲って仕方ないにしても、ここ数年は「何で？」と思いたくなるような中継までもが増えている。これも別の意味での〝特別枠〟だろう。

本来、「紅白」というのは、東京・渋谷のNHKホールで歌うことだっただろう。「時代の流れ」を理由に、ひとつひとつ〝こだわり〟がなくなっていくような感じだ。要は、制作スタッフからプライドが失われつつあるように感じてならない。

ここで一番に思うのは「紅白歌合戦」の主役は誰かと言うこと。

「紅白」の主役というのは出場者歌手であることは明白だ。

先ごろ、出場者歌手の歌唱曲目と歌う順番が発表された。トップバッターは初出場のHey!Say!JANPで、大トリは初めてゆずが務めることになった。もちろん、途中には応援合戦があったり、コントがあったりするが、「歌合戦」である以上は、出場歌手の歌をしっかり届けるかどうかがNHKの腕の見せ所となる。NHKが選んだのだから、その責任として、今年1年で最高のパフォーマンスを演出すべきだろう。

かつては、「紅白」で歌った曲が、翌年に大ヒットしたこともある。例えば、中島みゆき「地上の星」などは、「紅白」で歌ったことから発売2年半、発売130週目で1位にランクされるという稀なケースもあったが、「紅白」は、出場歌手にとっては視聴率的にも魅力的な場であることは言うまでもない。

応援合戦に参加しなくていい「特別枠」のメリット

反面、出場歌手にとっては「応援合戦」やリハーサルなどでの「長時間拘束」が大きなリスクにもなっていることも事実だ。出場交渉の過程では、この応援合戦に「出たくない」とか「長時間の拘束に耐えられない」というのが論議になるという。

それが、例の〝桃組〟や〝中継〟の枠が出来てからは応援合戦に出ることも、まして長時間拘束のリハーサルというリスクもなくなった。しかも〝VIP待遇〟での出演となる。そう考えたら、言い方は悪いが「ゴネドク」ということになる。もっとも、ゴネることの出来るアーティストが羨ましいということにもなるが…。

それにしても、今回のように安室奈美恵と桑田佳祐の〝特別枠〟が盛り上がると、本来の主役であるはずの出場歌手の存在が薄らいでしまう。前述したが、いくら「目玉がない」「盛り上がりに欠ける」と言われても、番組メインは、出場歌手一人ひとりのパフォーマンスなのだ。

安室奈美恵の出演タイミング問題

さらに安室の場合は、どこの時間で出演するのかも問題になるだろう。

ここまで彼女の出演が注目されたら、今年の「紅白」は、もはや彼女の〝一人舞台〟と化してしまうことは明白だ。すでに、そういった状態である。だとしたら、どう考えても出場歌手にとって、「紅白」の対戦でもないのに、彼女の出た後のパフォーマンスはリスクが大き過ぎる。正直言って「勘弁してよ」だろう。ストレスが大きい。

だが、そうも言っていられない。出演のタイミングを考えると、一つは40番目のSuperflyと41番目の嵐の間に挟むことか。

究極は、全ての歌手がが歌い終わった後に「最後のステージです」ともっていくことしかない。それこそ今年の「紅白」の〝歌い納め〟として数十分間に渡って中継する。それが視聴者を釘ずけにするための絶好の手段だろうし、中継時間にNHKホールではエンディングの準備もできる。どちらにしても出場者泣かせの〝特別枠〟である。

本番まで１週間。盛り上げも重要だが、まずは主役である出場歌手にとってもフェアな「紅白」であることを期待したい。