とある作家のラジオ昔話 - 西原健太郎
※この記事は2017年10月30日にBLOGOSで公開されたものです
世の中は例のスマートフォンの争奪戦で盛り上がっている今日この頃。みなさんいかがお過ごしでしょうか?ちなみに私は、2週間遅れになりそうですが、無事ゲットできそうです。それ以外のトピックスといえば、11月上旬より毎年恒例の旅に出かける予定で、そのための調整を行なっている日々です。今年も心のふるさとに戻ってきます。
ところで、11月の頭といえば、私も駆け出しの頃参加していた、とある番組が1日限りの復活放送を行います。この番組は、私にとってはまさに『心のふるさと』的な番組で、私は十数年前、その番組に3人目のサブ作家として入ったことが、ラジオ業界に入るきっかけになりました。ということで、今日は少し昔の話をしてみようかと思います。興味があればお付き合いください。
時は、ノストラダムスの終末予言を乗り越え、『ミレニアム』という言葉が流行した西暦2000年。当時私は、駆け出しの放送作家…のような何かでした。
当時、私は以下のような日常を過ごしていました。
午前:【所属していた作家事務所に毎日朝早く赴き、事務所の鍵を開け、掃除をし、先輩作家にお茶を出し、ひたすら電話番】。
< 午後:【事務所でコピーした『テレビ番組に出ませんか?』という怪しげなビラを片手に街に出て、道ゆく人々に配布】。
駆け出しの放送作家は、最初から台本を書けるわけではなく、大抵はまず『リサーチ』という、調べ物をする仕事を担当するのが通例です。そして私がやっていた仕事は、『テレビ番組に出てくれる人を探す』という、人探しリサーチでした。リサーチと言えば聞こえはいいですが、要は一般人にひたすら声をかけるという、キャッチセールスまがいの手段で人を探していました。
今となってはその頃の経験から、多少のことではへこたれない根性がついたのですが、当時の日常は地獄そのもの。作家の仕事とはとても思えない劣悪な環境。日々減っていく同期…。明日が見えない日々を過ごしていました。
そんなある日、事務所の社長から、「うちが担当しているラジオ番組のサブサブ作家の枠に空きができた」という話を聞かされます。『サブ作家』というのは、メイン作家のアシスタント的業務をする作家を指すのですが、『サブサブ作家』というのは、そのサブ作家の更に下…つまりは雑用係です。でも、当時の私にとってはその仕事が、この地獄から抜け出す一筋の光のように見えました。「何かが変わるかもしれない」そう感じた私はその仕事をぜひ引き受けたかったのですが、そのサブサブ作家に就任するには『ある条件』がありました。
社長は言います「アニメとかゲームとか、詳しい?」。そう。その番組はアニメ・ゲームの情報番組だったのです。私は当時、アニメには全く詳しくありませんでした。今はアニメに対して最大級のリスペクトがありますが、当時の私は「アニメなんて子供が観るもの」という先入観さえ抱いていました。でも、もう一方の要であるゲームだけは、子供の頃から慣れ親しんでいたので、「ゲームならなんとかなるかも」と思った私は、その旨を社長に伝え、当時四ツ谷にあったラジオ局に出入りするようになりました。
プロとして初めて担当したその番組で、私はラジオ業界の歩き方を学びました。最初に担当した仕事は、アニメ・ゲーム業界のニュースをまとめる事。世の中の流行について調べる方法や、原稿の書き方を学びました。その後、毎週の特集コーナーで使う別紙台本や告知原稿を担当。時間通りにナレーションをまとめる事の難しさを学びました。
いつしか2時間のワイド番組の中にあるフロート番組(箱番組)を担当するようになり、そこで番組の台本の書き方を学びました。誰も教えてくれる人はいなかったので、最初は見よう見まねでした。ゴミ箱に捨ててある台本を拾って、書き方を参考にしたりもしました。1日でも放送局に入れる時間を増やすため、出入りする人と喋ることを学びました。毎日が勉強の日々。貴重な経験でした。
プロとして初めてラジオ番組を担当することになってから、今年で17年…。そこで知り合った人々とのご縁のおかげで、今日も、私は放送作家として生きることができています。
振り返ってみると、あの時社長の提案に「ノー」と言っていたら、私はこの仕事を続けていなかったかもしれません。全ては結果論ですが、あの時の決断が今の私を存在させています。この歳になると、たまに若い放送作家志望者に「どうやったら放送作家になれますか?」と聞かれることがあります。放送作家のなり方については、前にこのコラムでも書いたことがありますが、10人いれば10人違うなり方があります。でも、その全ての人に共通しているのは、少ないチャンスを確実に掴んでいるという事だと思います。
今回は、私の昔話にお付き合いいただきありがとうございました。まだまだ現在に至るまでの話は尽きないのですが、今回はここまで。機会と需要があれば、また書いてみようかと思います。とりあえず私は、11月の頭に放送される、とある番組の復活放送を楽しみに待ちたいと思います。とある番組の情報はこちらからどうぞ。
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