※この記事は2017年07月12日にBLOGOSで公開されたものです

7月2日に行われた東京都議選は、小池百合子都知事が代表(当時)を務めた地域政党「都民ファーストの会」が圧勝、自民党の歴史的大敗という結果に終わった。その中でも、注目選挙区となった千代田区では、「都議会自民党のドン」と称された内田茂氏が引退。後継候補だった中村彩氏が落選したが、投開票日のインタビューで語った“敗戦の弁”は、自民党批判ではないか、との話題を呼んだ。筆者は、投開票から1週間が経った7月9日、中村氏に都内でインタビューをした。

党への恨み節だと捉えられたのは「本当に不本意」

--都議選(千代田区、定数1)での落選をどう評価するか?

テレビで取り上げられた内容(*)は切りはりで、敗戦の弁ではない。

*“敗戦の弁”として、特にテレビで伝えられた内容は以下の通り。

 「報道で取り上げられていたような内容も含めて、脇が皆様、甘いなというふうに思いますね。人を罵倒したりだとか、お金の問題であるとか、恋愛含め人間関係の問題であるとか。人の前に立って、有権者の、国民の代表として出ている人たちが、普通に考えてやらないだろうというようなことをやってしまっているっていうことが。それは自民党だけではないですけれども、国民からの信頼を失うようなことをしている時点で、すごく恥ずかしいなっていう思いが私はありますし、情けないなと思いますね。それは立候補者として、自身がそういうことがないからこそ、情けないと思います」

国政全体についての質問だった。その前には支援者へのお詫びと自分の責任について述べていた。その後に、たくさんのマスコミが入って来て、一問一答になった。きちんと自民党に限らないことは言っている。自民党を愛しているがゆえに言ったが、恨み節だと捉えられて、本当に不本意だ。素直にマスコミに答えたつもりだったが、そう使われるのかと思った。今回はいい勉強になった。

私自身の敗戦は、私に責任がある。支援者や区議の先生たちに手伝ってもらったのに申し訳ない。千代田区長選挙よりも票は取り戻せたが、力が及ばなかった。原因は、無党派層につきささるものを出せなかったこと、都議選の論点、課題を浮き彫りにできなかったことがあった。小池旋風にやられた。

*千代田区長選挙
当16,371 石川 雅己 無現
  4,758 与謝野 信 無新(自民推薦)
  3,976 五十嵐朝青 無新

*都議選千代田選挙区
当 14,418 樋口 高顕  都民 新(公明推薦)
   7,556 中村 彩  自民 新(こころ推薦)
   2,871 須賀 和男  無  新(共産推薦)
    602 後藤 輝樹  諸派 新

これまで、(風があっても)結局、いつも自民党にまた戻ってきていた。民主党政権のときもそうだった。今回もそうなるかはわからないが、私はそうなると思っている。長年にわたって政権能力があるのは自民党だけ。だからこそ、(自民党の)内部から良くしたい。(党を)信頼してもらうために頑張りたい。

選挙は組織戦。しかし組織票だけでは立ち行かないのが東京。地元にずっと住んでいる人は少ない。いろんなところに移ったり、仕事を変えたりする。また、情報をいつでも誰でも取れるからこそ、無党派層も増える。その層に自民党がアプローチしきれていない。次の選挙に出るのであれば、そこを変えないと勝てない。

--今後はメディアとどう付き合うか考えた?

今回の(“敗戦の弁”を伝えた報道の)件で、完全にメディアには不信感を抱いた。メディアも(右か左か)どっちかに寄るということもあるが、(本意とは違う形で)自分自身が切り取られた。コメンテーターも(コメントの流れを)知らないのに適当に言う。しかし、マスコミの影響力があることが同時にわかった。発信の場として(メディアを)使っていかなければならないが、相当、気をつけて発信しないといけない。

今後は、私も独自にSNS等で発信しようと思う。取材のときは証拠になるように録音することにした。反論できる証拠がないといくら言っても言い訳になってしまう。(内田氏からは)選挙について一切、指導を受けてない。自由にやれ、と言われただけ。素人なので(マスコミ対策は)わからなかった。というのも、これまで都政は注目されてこなかったから(選対でも)ノウハウがなかったというのもある。それに、普通の新人候補が(マスコミ対応を)知っている方が怖いでしょ?

--今回は国政の影響もあった?

風ですよね。でも、私自身、逆風を感じていなかった。無党派層はサイレントマジョリティ。ヤジも飛ばさないが、応援もしてくれない。選挙ではその二つしか見れていないから、逆風かどうかは支持率を見るしかない。それゆえ、無党派層を捉えることができなかった。

区長選のときよりも、自民党の票はだいぶ、取り戻した。しかし、それ以上の上乗せの票を取れなかった。無党派層の心の掴み方がわからなかったのがすべての原因。小池さんはマスコミへの見せ方が上手だった。それは見習う点がある。今後は風に強い選挙をしたい。

(千代田区で自民党の議席を失ったことになったことで).地域との関係は途絶えることになるが、千代田区長は小池さんの側。区長がなんとかやっていくのでしょう。区長も、もともと自民党。対立して、途中から小池さんの側についた。

都議会は、小池さんの思うがままになるだろうから、見た目上は問題なく進むんじゃないか。それが都民にとって本当のいいのかどうかわからない。豊洲市場移転問題も(市場を豊洲に移転した上で、築地を再開発し、一部の業者を戻すということが)5年後がメド。そのとき小池さんが都知事かどうかもわからない。

また、都民ファーストの人たちはどうなるのだろうか。二元代表制を守ると言って代表をやめたが、代表のとき、二元代表制のことを話していなかったじゃないか。無責任としか考えられない。都民ファーストの人たちも「小池の思い通りになる人たち」扱いされることになるが、それも酷。

「若い時代から自民党内で活動する方が政治を変えられる」

--「総理大臣になりたい」と高校生のときに思った理由は?

当時は第一次安倍政権、福田政権、麻生政権と、一年で首相が変わっていたときだった。ただ、政治家の影響でそう思ったわけではない。高校は帰国子女が多かったが、日本を捨ててアメリカやイギリスで生活をしたいという同級生が多かった。自分たちが持っている夢や志が実現できないと思っていたようだ。

私は、日本の将来に危機感を抱いた。みんながそう思うのは東京が停滞しているから。日本に優秀な人材、サービス、物、お金が集まれば、みんな東京に残って仕事をしたいと思うのではないか。そのための制度を変えたりするのは政治家の仕事。その中でも一番力があるのが総理大臣。じゃあ、総理を目指せばいいと、高校生なりに考えたのがスタート。

大学院では憲法学を学んだ。社会に出るときに、政治家の秘書になる道もある。しかし、世の中の大半の人は会社に勤める。それに、経済を知らなかったので、それがわかる仕事がしたかった。証券取引所では日本のマーケットを学べる。株価がすべてではないが、経済の温度計として機能しているので、解決の糸口が見える。経済を知ってから政治を変えようと思っていた。

--政治を変えるために新しい政党を作る人もいる。そうした流れに乗る手段もあるのでは?

今まで新しい政党ができても中途半端だった。みんなの党や維新が台頭したことがあったが、創設者はいまどこにいるかわからない。若い人を集めて一回花火を打ち上げても、一回で終わることが多い。力がある人たちが新しい政党を作っているはずなのに、みんな散り散りになった。それよりも若い時代から自民党内で活動する方が政治を変えられると思う。強い党の中で改革者として、若手の代表として頑張りたい。嫌になったら離れるのではなく、腰を据えてやっていきたい。

政治活動と仕事、兼職可能な会社が増えて欲しい

--選挙戦では「経済」が強みと言っていたが、そのほかは?

憲法改正は必要だ。私が研究していたのは緊急事態条項。(現行憲法には)ないので入れるべき。また、第9条で自衛隊を明記するのは賛成だ。自民党だって戦争をしたいわけではない。しかし、外的要因を見てみると、戦争をせざるをえない時が出てくるかもしれない。そのために法整備をするだけ。好きで戦争しようとしているわけではない。そのことを理解してもらった上で、改憲の話はするべきでしょう。

また、日本では公共の電波が独占されている。アメリカみたいに多チャンネル化すべきだ。放送法4条では公正公平をうたっているが、マスコミは編集と改変を取り違えている。表現の自由は大切だと思う。憲法を研究してきたので、自民党が言っているよりも大切だと考える。しかし、現状は偏向報道をして、謝罪するレベル。投票行動に影響が出るので、特に政治系の内容は平等にすべきだ。どちらかに肩入れをしてはいけない。(マスコミ改革は)政治がすべきか、民間がすべきかはわからないが、どうにかしないといけない。

マスコミを信じてない世代がいる。きちんと対応しないといけないのに、競争原理が働いていないから、やっていない。今度はネットの番組も増えるだろう。先日、AbemaTVに出演した。自分で釈明する時間は与えられた。大手マスコミと違って切り取りがない。ネットの番組を自由に選べるようになればいい。時間の問題という人もいるが、一刻の猶予もない。

--希望の塾にも参加していたことで、「ぶれている」と言われていたが...

自民党の政経塾にも行っていた。もともと自民党だ。希望の塾から都民ファーストの会に行くという義務もない。幅広く政治を学ぶのが希望の塾の趣旨だったはず。鞍替えではない。本当に選挙目的だったら、私だって(風がある)都民ファーストで出た。(当選を狙うという意味では)そのほうが賢い。しかし、信念を通したいから自民党から出た。私の中ではぶれていない。これからも、風に乗って他の党から出るつもりはない。むしろ、都民ファーストから出た現職や元職のほうがぶれている。議員経験がない私が叩かれるのはわからない。

--選挙戦最終日に、安倍総理が応援演説に来たことが報道された...

安倍総理が応援に来てくれたことは感謝している。一部のプロ集団と呼ばれる人たちが「安倍辞めろコール」をしていた。その横にマスコミがいた。しかし(演説のときは)支持者のほうが多かった。(コールをしていた人の声を報道した)マスコミの切り取り方がよくない。

安倍総理の演説のときに「コール」があるのはわからないでもないが、私自身の演説でも「安倍辞めろコール」があった。これは都議選の演説会。なぜ、自分が話しているときに「コール」をするのか。あれは選挙妨害、政治活動の自由を侵していると思った。安倍総理が「こんな人たち」と言ったのは別の論点としてはあるが、そこはノーコメントだ。しかし、私の演説中の「コール」は侮辱だと思う。演説を聞きに来た人がいて、聞こえなかったと言っていた。ヤジをする人も、演説を聞きにくる人と、どっちにも権利がある。せめて誰かが喋っているときには話は聞いてほしい。

--趣味はバドミントンだが、選挙中はやめていた

会社の部活に入っていて、これからも(取材後に)ある。選挙後は初めてで、久々に運動する。投開票日翌日から挨拶周りをしていて、先週までに特にお世話になった方々への挨拶が終わった。

明日(7月10日月曜日)からは仕事で、証券取引所に戻ることになる。選挙中は有給休暇を取っていた。会社に理解があったからだ。背水の陣で臨むのではなく、兼職可能な会社が増えて欲しい。国政は無理でしょうが、都議会など地方議会なら仕事しながらでもできるのではないか。兼職可能な会社は少ない。まだ、政治とは距離を置け、という会社が多いでしょうが、海外みたいに増えて欲しい。こうしたことも働き方改革の一つとして伝えられればいい。