※この記事は2014年07月18日にBLOGOSで公開されたものです

オンライン上で不特定多数に業務を発注することができるクラウドソーシング。このクラウドソーシング業界において、注目を集めているランサーズとクラウドワークスの2 社が7月10日、日本外国特派員協会で講演を行った。ランサーズは、取締役COO兼事業開発部部長の足立和久氏、クラウドワークスは代表取締役社長の吉田浩一郎氏が出席し、それぞれのサービスの特徴や事業にかける思いを語った。

「『個』のエンパワーメント」がランサーズの目的

ランサーズ・足立和久氏:ランサーズは2008年にスタートしたサービスです。ファウンダーである秋好陽介が学生時代にフリーランサーとして収入を得ており、その後、サラリーマン時代に発注者側を経験したことから、受注者と発注者をマッチングするサービスをつくりたいと考え、始まりました。

クラウドソーシングはインターネットを通して、文字通り群衆に業務を委託できるアウトソーシングの新たな発注形態だと考えています。まだまだ始まったばかりで、成功事例もあるものの、課題もあるのが現状。手探りでサービスの運営を行っています。

ビジネスモデルは、オンライン上で仕事を発注し、フリーランスが成果物の納品を行い、その取引額に対して、プラットフォームフィーを取るというものです。現在のフリーランスの登録者数は約29万人。具体的には、出産を機にフリーなり育児をしながらWeb制作をやっている方や、ハワイに移住し現地で生活しながら仕事を受注している方、定年後も何らかの仕事をしたいとライター活動をしている元大学教授などがいます。発注側の企業は、8.7万社が登録、利用しており、その中にはパナソニックやユニバーサルミュージック、日清食品などの企業が含まれています。

僕らは「『個』のエンパワーメント」を会社の目的としています。ファウンダーである秋好の経験もあり、「フリーランスの自己実現や生活の充実を支援するために、何ができるのだろうか」と考えながら、サービスを運営しているのです。フリーランスの人たちが、個人の価値観にあった働き方ができたり、QOLをコントロールできるような生活を選べるようなプラットフォームでありたいと思っています。

一方で、クライアント側は、一人ひとりの個人には力量の差はあるものの、集合した群衆に対して、オーダーを投げることにで、ニーズにあったものを獲得することができる。つまり、働き手を流動的なリソースとして使うことで、企業側のメリットにつなげていただいているというのが現状です。

現在の注力分野としては、プラットフォームビジネスに加えて、ランサーズが仕事を受注するビジネスをスタートしています。これはクライアントのディレクション負担を軽減したり、納品物に対するクオリティ、瑕疵担保をするために、クラウドソーシングのリソースは使うもののランサーズが間に入るという形になっています。

また、「ランサーズマイチーム」という、プラットフォーム上で複数のフリーランスがチームを作って仕事を受注できる仕組みをスタートしています。(オンラインコワーキング)。例えば、企業がホームページの作成を発注したい場合には、デザイナー一人では受注することができません。チームを作り、エンジニアなどと協力して、クライアントのニーズを満たす仕組みを提供しています。

このサービスは半年ほど前にリリースしたのですが、その間に5~6倍の伸びを見せています。クライアントが一個人に発注するレベルのものを超えてクラウドソーシングを利用する傾向が出てきています。また、働く側もネット上でコワーキングを して納品をしていくというケースが増えていて、ここに我々の将来像があるかなと考えています。

我々は、ディレクション業務が非常に重要だと考えています。クライアントは、ビジネス上の課題を持っており、フリーランスは制作や業務遂行を行うわけですが、その過程には、クライアントの課題をどのように解決するか、という要件定義などのディレクション業務が存在します。この領域は現在、クライアント側が持つ場合もあれば、フリーランス側が提案する場合、あるいは第三者がディレクターとして入る場合もあります。ここを最適化する、あるいは拡大することで、ランサーズ上で行われる仕事の多様性を高められると考えています。

ランサーズの登場によって、個人の方がオンライン上で仕事ができるという状況は徐々に作れてきていると思うが、個人の方の仕事が企業様にとってより魅力的である、価値があるものになるためには、間の工程をどうデザインするかが重要になってきます。ここをコントロールすることで、個人の方の仕事の価値が何倍にもなると考えています。企業とフリーランスをつなぐディレクション業務の質を高めることで、個人の労働の付加価値も高めることをランサーズは目指しています。

日本の“ものづくり”に革新をもたらすことができる

クラウドワークス・吉田浩一郎氏:我々は、先日の日経新聞で「第二のソフトバンク」という形で急成長している企業として紹介されています。また、健康医療分野のサイバーダイン、エネルギー分野のエリーパワーなどと並んで、日本政府からも注目されている企業です。

個人のリソースをインターネットでシェアするというビジネスは、アメリカでも注目を集めており、私は21世紀のメイントレンドになると考えています。クラウドワークス、クラウドソーシングは個人のスキルの空き枠、空いた時間をシェアする、シェアリングエコノミーの一環です。クラウドソーシングが普及すれば、日本中、世界中の人々のスキルが「見える化」され、空き時間がわかり、そこに対して企業がダイレクトにアクセスできるという世の中が実現します。それによって、企業は人材調達の新たな手法を手に入れることができます。すべての業界で “持たざる経営”、自社でリソースを抱えない経営がトレンドになってきていますので、このクラウドソーシングは、日本、そしてグローバルにおいて必ず来ると確信しています。

クラウドソーシングのメリットは2つ。一つは圧倒的なコストダウン。そして21世紀のビジネスモデルであるオープンイノベーションです。特に日本は人材紹介が非常にクローズドマーケットになっていました。人材になかなか企業がアクセスできないし、するのにお金がかかる。1ヶ月、2ヶ月掛けて人材を探し出し、手数料をかけて雇う。しかし、クラウドソーシングならば、たった15分で人材が調達できる。

そして、我々のサービスを利用して経産省をはじめ、ソニーや伊藤忠、富士フィルム、ヤマハといった錚々たる企業が数万円という非常に安いコストでものづくりを開始しています。日本では個人というものが、“信用されていないもの”と考えられていました。ですので、経済産業省が個人、フリーランスの力を活用した事は非常に大きなインパクトがありました。そして、外務省や国土交通省、総務省からも発注を受けています。4つの省庁から受注を得ているクラウドソーシング企業は我々だけですし、中央官庁だけでなく、地方自治体も数多く利用しています。

また、オープンイノベーションの事例としては、ボンカレーのキャッチフレーズを募集した案件があります。このキャッチフレーズを「ユーザーと一緒に作ろう」という仕組みにしたところ、たった10万円の予算にも関わらず、1週間で4900件の提案が集まりました。そして、このような形で皆さんが「面白い」ということをソーシャルで拡散してくれました。これからのものづくりは、成果物だけではなくソーシャルメディアを通して、製作の過程も楽しむような状況になってきています。

私自身、20代のころメーカーに勤務していました。瀕死にある日本のものづくりを変えていきたいという思いがあります。持たざる経営とオープンイノベーションを持ち込むことで、日本のものづくりに革新をもたらすことができると考えています。

我々は創業からわずか2年にも関わらず3万5千社のクライアントを抱えており、政府やメディア、メーカー、自治体と多様な業種にご利用いただいています。取引量は、創業以来27倍に成長し、月刊の取引量では日本一だと考えています。もしかしたら、ランサーズは違う意見をお持ちかもしれませんが(笑)。そして、日本だけでもクラウドソーシングの市場は、10年後2023年には1兆円になると我々は試算しています。

クラウドソーシングは働く側の環境も大きく変えていきます。その証拠に我々のサービス利用者の8割が東京以外に住んでいるのです。現在、日本は東京以外の地域のビジネス環境が低下していますので、このサービスを通じて、活性化させたいと考えています。また、クラウドワークスはグローバルでもメジャーなサービスであり、150カ国からアクセスがあり、会員登録・利用をいただいています。日本は正社員が20世紀のスタンダードでした。定年退職した後、仕事がないという状況が一般的でしたが、我々のサービスでは85歳まで実際に働いている実績があります。また、福島県とも提携して、震災復興、地域活性化も行っています。

そして、この我々のチャレンジのために、クラウドソーシング業界の中で最大の額である14億円の出資を電通などの企業から受けているのです。

質疑応答

―大きな質問になるが、クラウドソーシングが普及すれば、長期的な雇用契約によって一程度守られていた労働者の立場が保証されなくなる可能性もある。そうした部分も含めて、クラウドソーシングが社会全体や働き方にどのような変化をもたらすと思うか?

足立:私は以前、楽天とグリーでプラットフォームビジネスに携わっていたのですが、楽天時代も同じようなことを言われていました。「リアルの商流をなくしてしまうんじゃないか」「中抜きを助長するんじゃないか」「卸という商売がなくなってしまうんじゃないか」とを言われながら、サービスをつくってきました。

例えば、Eコマースを突き詰めていくとAmazonのようなやり方、コスト効率を追求して大きくなっていくサービスもあると思いますが、その一方で楽天という会社は、地方の中小企業を巻き込んで、商店街のような店主の方の笑顔やぬくもりが伝わるようなEコマースを目指していました。同じEコマースでもAmazonと楽天ではまったく異なるサービスになっていると思います。

同じようなことがクラウドソーシング業界にも言えるでしょう。このサービスを利用して、究極に効率を求めることもできるでしょう。一方で、グローバル企業や大企業ではない就職の時代というのがあったと思うのです。地元の経済に就職していって、自分の両親や親せきに仕事を紹介してもらいながら、仕事をしていた時代もあったと思うのですが、 そういう働き方の選択肢の幅を広げるためにもクラウドソーシングが役に立つと思っています。「個のエンパワーメントのために何ができるか」の一つとして、個人の働き方の「選択肢を広げること」を追求している状況です。

吉田:クラウドソーシングの市場はまだまだ小さい。まずマーケットが大きくならなければいけない。そうならないと働く人のQOLにつながりません。

私は人々の笑顔に貢献をしたい、ワーカーの方々に貢献したいと考えています。しかし、それ以前に市場を大きくする必要があります。人材派遣のビジネスは、正社員から派遣というものが生まれて38年かかっています。38年で4兆円にようやく達しました。そういう意味では、このマーケットは10年、20年かけて育てるマーケットだと考えています。

今、 経済のルールが圧倒的に変わりつつあります。音楽や映画、書籍などの例を見ればわかるように、メーカーの考えで「これだけのコストが掛かったから、この値段で売ります」という時代は終わりつつあるんです。なので、新しいルールをつくらなければなりません。そして、そのルールは何かと言われれば、私は「オープンイノベーション」だと思っています。

現在、クラウドワークス上で面白い現象が起こりつつあります。ランキングでトップテンの人たちは、企業からのスカウトが殺到しているのです。そうすると、その人たちは仕事が選べるようになり、単価も上がる。つまり、トランザクションが増えないと、ワーカーの 実績が「見える化」していかないのです。我々は日本で、福利厚生のサービスにも業界で初めて着手していますし、QOLを大切にしていないわけではありません。むしろワーカーのOQLを高めるために市場を拡大することを大切にしています。

―優良企業や自治体などが利用していることは理解できますが、実際の案件を見ていると特にライティングの案件などは現状の相場感と比べると非常に安いように思える。発注側のリテラシー向上や案件の管理なども重要だと思いますが、その部分についての取り組みについて聞かせてください

足立:我々はディレクションが非常に重要だと考えています。利用する企業は、フリーランスや外部に仕事を発注することに慣れていない企業も多く、そもそも「自分が頼みたいことがなんなのか」という要件定義をすることができない。あるいは、オーダーする相手を的確に見つけることができない、一度納品されたものに対して延々と修正くりかえしてコストがかさんでしまうというケースがあります。

これはどちらが悪いという話ではなく て、小さなコミュニティで仕事をすることに慣れすぎていることが問題なのです。そこを最適化して、末端の労働をする方の価値を正当に担保するような仕組みが非常に重要だと思っています。なので、ランサーズが直接ディレクションに入ることもあれば、パートナーに入っていただくなど最適化に取り組んでいます。

吉田:我々の答えは、個人の信頼を「見える化」することです。今なぜそういうダンピングが起きているかというと、クラウドソーシングにおいてはデマンドサイドとサプライサイドがありますが、現在は、完全にデマンドサイドの企業が「いくらのバジェットがあるからこの中でやって」という形で依頼している。しかし、これは時間が経てば経つほど、サプライサイドのクラウドソーシングになっていくんです。

今までどんな仕事をやって、どんな評価だったというワーカーのスキルが「見える化」される必要があるんです。これは企業であれば、帝国データバンクや登記簿、上場してるか否かといった信頼を担保する仕組みがありましたが、個人に対してそういう仕組みがない状態だった。だから企業が強くて、個人が弱い状況にあるのです。

先ほど話したように上位トップテンの人たちは、比較的価格も安定して、案件も選べる状況にあります。そういった観点から我々がワーカーの方々に案内しているのは、「最初はぜひ小さなお仕事でもいいので 実績を積んでください」ということです。最初は実績がインターネット上にないので、安いかもしれません。しかし、これを積み重ねていって信頼を積み重ねれば、クラウドワークスだけで年間で1千万稼いでいるような人もいますよという話をしています。

我々の取り組みは、仕事と教育と社会保障の三本柱だと思っています。この3つの仕組みをインフラとして作っていくことが正社員の代わりの働き方、違う選択肢を作ることにつながる。そのため、教育については、マイクロソフトや新聞社と提携し、エンジニア講座、ライティング講座などをもうけて、スキルの認証をつけられるような仕組みを導入しています。

吉田氏「過去に大きな失敗をしたからこそ、現在人が集まってきてくれている」

また、クラウドワークスの吉田社長は、メディアからの「創業メンバーはどのように集めたのか」という質問に対して、自らの起業経験を語った。

吉田:私自身はシリアルアントレプレナーで、3回ベンチャーでチャレンジしています。1回目は、ドリコムという会社の役員として事業に携わったのですが、どこか名誉を追っていたところがありました。結果的に、ドリコムという会社は、リストラをして赤字決算をしてと、社内がメチャクチャになったことがありました。

2 回目は役員ではなく社長として自分で会社をやりました。その際は、目の前のお金を追いすぎ、事業に夢が見えなくなってしまいました。そして、3年やった結果、仲間が取引先をもって離れていきました。当時私は36歳でしたが、オフィスで一人、「人生終わった」と茫然自失状態でした。そこに上場企業からお歳暮が届いたんです。そのお歳暮自体 は3000円ぐらいのものでしたが、涙が出るほど嬉しかった。「東京に俺を覚えている人間などいない」と思っていたが、大企業が「この前の取引ありがとう。 あなたのこと覚えてるよ」といって贈り物をくれた。それで改めて何のために働くのかということに思い当たったんです。

1回目は名誉を追っている部分があった。2回目は「お金、お金」になりすぎた。そうではなくて、人の役に立って「ありがとう」といわれるために働くんだと。それがこの出来事で明確になったんです。そこで覚悟を決めて、当時の貯金をはたいて、車も売り、奥さんの実家に住んで、退路を断って、「自分が役に立てる仕事は何か」ということをベンチャーキャピタルと話し合いました。そして、このクラウドソーシングであれば、私自身今までの営業、システム開発の経験が生きるということで始めたんです。

このストーリーをあらゆる人に話していった結果、自然に仲間が集まってきました。今まで人が離れていったのが嘘のように様々な人材が集まってきました。私自身が過去に大きな失敗をしたからこそ、現在人が集まってきてくれているのだと思っています。