すき家騒動に見る、サボタージュの価値 - 赤木智弘
※この記事は2014年03月29日にBLOGOSで公開されたものです
赤木智弘の眼光紙背:第316回
牛丼チェーン店の「すき家」の多くの店舗で「パワーアップ工事中」と称したリニューアルが相次いでいる。あまりに唐突かつ、多くの店舗で同時実施されているため、ネットでは「人手不足によって営業できない状態になった店舗が増えたのではないか」という憶測が流れている。
これに対してすき家側は、一時的な閉店はリニューアルによる改装が理由であり、人手不足の問題は別であると答えている。(*1)
さて、この件に関して、ネットの憶測は単純に憶測と切り捨てるわけにもいかない。なぜならこの問題の初期段階から騒いでいたのは、決して関係のない一般人ではなく、すき家のバイトたちであったからだ。
少し前にアルバイトがコンビニのアイスケースに寝そべったりなど、衛生的に問題のある行動をしている写真が繰り返し報じられ、処罰されたこともあり、なかなか内部資料などは出てこないが、それでもシフトが埋まっていない様子などがネットにアップされることもあり、慢性的な人手不足が原因の1つであることは否定できないだろう。
僕がよく利用する店舗もパワーアップ工事を行っている。その店舗は今回の件が騒ぎ出される5日くらい前に利用したのだが、その時に店内にはパワーアップ工事を行うというような告知は一切なかった。24時間年牛無休が当たり前の業種で、営業時間の変更や一時的な閉店の告知が無いというのは、常識的には考えられないと思うのだが、どうなのだろうか?
偶然のタイミングで、近所のコンビニもまさに今、リニューアル工事を行っている。こちらは一ヶ月ほど前からリニューアルの告知があり、閉店日時が近づくに連れて徐々に店内の商品が少なくなっていった。牛丼屋とコンビニ。業種の違いはあれど、24時間年中無休店舗のリニューアルは、そのくらい計画的に行われるべきことではないだろうか。
少なくともゼンショーの広報からリニューアルの告知がオフィシャルでされたのは24日(*2)であり、一時閉店がネットで騒がれたのは20日頃から(*3)と、完全に告知が後手に回っている。
もし、本当に「人手不足とリニューアルは関係なく、今回の閉店はあくまでも計画的に行われた」ということであれば、告知不足によって今回のような憶測を産んだこと自体が、数多くのチェーン店舗を運営するゼンショーとして、極めて杜撰なリニューアル計画であったと結論付けるしか無くなってしまう。その事自体が株価に悪い影響をおよぼすことは十分に考えられるのだから、あまり高をくくったような対応をし続けないほうが良いのではないだろうか。
僕がいつも利用する店舗は、夕方から深夜にかけて、いつも同じ男性が忙しそうに1人で働いていた。
そうした状況は利用者からしてもハッキリ見えている。いくらゼンショー側が言葉を言い繕おうと、店舗は客から見えるのだから、アルバイトや従業員の労働状況の苛酷さを隠し通すことなどできはしない。
いまだ日本では「いくら苦しくても、仕事をサボることは許されない」という考えを持っている人が少なくない。しかし、以前にあるツイートを見て、とても納得したことを覚えている。
曰く、「会社で日常的に行われていた無駄な会議が無くなった。これも黙って辞めていった先人たちのおかげなのだ」と。
無駄や無理の存在がサボタージュを産み、それが日常化することによって、上の人間が仕方なく状況を改善する。本来であれば、上の人間が先立って無駄や無理を改善するべきだが、上に立つものの責任が極めて軽い日本では、上からの浄化能力は期待できない。
そうした社会では多くの人が理不尽な労働を拒否してサボることでしか、状況改善は望めない。ならばサボりはワガママなどではなく、極めて重要な社会的行為であるということができるだろう。
*1:「すき家」相次ぐ閉店は「牛すき鍋定食導入で人員不足」のせい? 運営元のゼンショー「考えられない」(ねとらぼ)
*2:「すき家」のリニューアル開始(すき家)
*3:【衝撃】すき家が次々と「人手不足」で閉店… 実際に働いているアルバイト達の悲痛な声をご覧ください(NAVER まとめ)