※この記事は2014年02月23日にBLOGOSで公開されたものです

米軍・普天間飛行場の「辺野古移設阻止」を掲げ、1月の市長選に勝利した沖縄県名護市の稲嶺進市長が2月13日、東京・有楽町の外国特派員協会で記者会見をおこなった。稲嶺市長はスピーチで「新しい基地は作らせないという私の主張に、市民は選挙で賛同した」と述べ、「日本の民主主義のあり方が問われている」と強調。記者との質疑応答では、「政府がこれまで説明してきた移設の根拠は、もう破綻している」と語り、名護市辺野古沿岸部への基地移設を進めようとする安倍政権を強く批判した。【取材・構成:亀松太郎/吉川慧】

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「お金で心を買う」という動きに沖縄県民は反発した

「普天間飛行場が名護市辺野古に移設されるという計画が、いま日米両政府によって強力に進められようとしています。しかし私は、2010年の1期目にあたる選挙において、『辺野古の海にも陸にも新しい基地を作らせない』ということを公約に掲げて、多くの市民の支持を得ることができました。

1期目に私が就任して以来、沖縄県内の基地問題に対して『県内移設は反対。ダメだ』という県民世論が、とても高くなりました。沖縄県議会をはじめ、県内41の市町村議会で『県内移設反対』の決議がなされるなど、『オール沖縄』という形が作られてきたと認識していました。

しかし、昨年の11月から12月にかけて市長選の動きが活発になるにつれて、日本政府や自民党本部からの強い圧力・介入がありました。私は辺野古移設反対、相手候補は辺野古移設推進というはっきりした争点が示されるなか、国の『強硬に辺野古移設を進めたい』という思いが、政府を挙げての選挙戦介入となりました。

具体的な動きとしては、沖縄選出の自民党の国会議員5名と自民党の県連、そして最後には、沖縄県知事が辺野古沿岸の埋め立てを承認しました。そのとき、沖縄振興策というアメをちらつかせる動きがありましたが、『お金で心を買う』という政府の動きに対して、沖縄県民は心から反発の意を示しました。

その結果、市長選で、名護市民は、『辺野古の海にも陸にも新しい基地は作らせない』と主張し、『一時的な振興策には頼らない』とする私、稲嶺進を当選させました」

なぜ、辺野古移設に反対するのか?

「日本の国土全体の0.6%の面積しかない沖縄に、米軍専用施設の約74%が居座り続けているという事実があります。このように基地に囲まれた沖縄が戦後ずっと日米安保の最前線を担うという形で、米軍基地からの被害や米軍機の墜落など多くの負担を強いられてきました。

この過重負担の状況について、県民は『沖縄は差別的な扱いを受けている』と認識しています。実は海兵隊も、最初から沖縄にあったわけではありません。1950年代に沖縄が米軍の占領下にあったときに、茨城県や埼玉県から移されてきたものです。

このような状況を、これからも続けてほしくありません。日本政府は『沖縄の負担軽減』ということで、辺野古移設を主張していますが、普天間飛行場が辺野古に移設され、嘉手納以南が返還されても、現在の73.8%が73.1%に減るだけで、大きな負担軽減にはつながりません。

また、普天間飛行場がそのまま辺野古にくるわけではありません。普天間飛行場にない機能が新しく作られます。まず、滑走路がⅤ字で2つ。それから、弾薬搭載のエリア。そして、強襲揚力艦も接岸できる護岸。日本政府は否定していますが、軍港機能をもつ施設がここに作られるのです」

貴重な自然や子どもの学習環境が破壊されてしまう

「さらに、大きな問題として、辺野古の目の前に広がる大浦湾があります。ここは生物多様性の海と言われており、ハマサンゴやアオサンゴの大群落があります。そして、ジュゴンやウミガメが頻繁に泳いでいて、付近にはジュゴンのエサとなる藻場もたくさんあります。

この海域は、沖縄県が保存すべき自然のAクラスに指定されています。それが、普天間飛行場が辺野古に移されることによって、貴重な自然の破壊を招きます。

また、普天間飛行場で行われている年間約2万回の離発着の訓練という危険な状況が辺野古でも繰り返される。そうすると、名護市民の生活も脅かされてしまう。付近には小学校や中学校、国立高専があるので、子どもたちの学習環境も破壊されてしまう。

そういうことから、私は、『新しい基地は作らせない』と申し上げているのです。名護市民もそのことに過半数の賛同をしました。はっきりとした市民の意思の表れとして、市長選の結果が出たと理解しています。

それでもなお、日本政府は辺野古移設をあきらめようとしていません。米政府に対しても、日本の外務大臣は『決意を持って進める』ということを言っています。

選挙というのは、民主主義国家において最大の表現方法です。それは民意のあらわれですので、民主主義国家において最も重視されなければいけないことだと思っています。それでもなお、辺野古に移設を強行しようとするのは、選挙の結果としてあらわれた民意を否定することで、民主主義国家にあってはならないことです。

さきほど申し上げた基地から派生する事件・事故も含めて、基地の問題は、人権にも直結する問題です。したがって、この選挙の結果をうけてもなお、政府が辺野古移設に固執し、強行しようとするならば、日本の民主主義のあり方、熟度を問われることになるのだと思います」
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稲嶺市長のスピーチと強く関連する質疑応答

フリーランス・田中龍作氏:日米協議にも出席し、沖縄赴任経験もある霞が関の官僚が、私にこんなことを言っていました。『辺野古に海上基地を作りたいのは、米軍ではなく、日本国内の政治関係者だ』と。この発言について、どう思いますか?

稲嶺市長:明快な答えだと思います。

日米地位協定で、日本に基地を置き、自由に使用することについて約束をしていますが、どこにも『沖縄でなければない』とは書かれていません。日本のどこかであれば良いという話なのです。

しかし普天間飛行場の移設については、ほかに受けるところがないから沖縄なのだと。政治的に見て沖縄が適切だ、という話もありました。

私もまったく、その発言の通りだと思います。

ビデオニュース・ドットコム・神保哲生氏:日本の政府が、ここまで沖縄や名護の人々の意思を無視して、どうしても辺野古に基地を作ろうと突き動かすもの、本質というか背後にあるものは何だと感じていますか?」

稲嶺市長:これまで日本政府は常に、日米同盟と日米安保の重要性ということを盾にして、沖縄に基地が必要だと説明してきました。それは抑止力と地理的な優位性ということで説明されてきましたが、抑止力と地理的な優位性については、前の野田政権の時の森本防衛大臣が『軍事的には沖縄である必要はない。政治的に沖縄のほうが最適だ』ということを、マスコミに答えているんですね。

そうなると、日本政府がこれまで説明してきた根拠は、もう破綻してしまっていると思います。それでも、抑止力と地理的な優位性を前面に出すというのは、さきほども申し上げたように、日本国内でどこも受け入れるところがないということが、大きな理由の一つになっています。

もう一つ、大きな理由があります。それは、沖縄は日本国土のうち0.6%の面積しかなく、人口にして1%にすぎないということです。人口1%が政治的に有効性を出せるというのは、ほとんどない。力関係からいうと、皆無と言ってよいくらいだと思います。

(政府の本音は)日本全国に(基地反対の動きが)広がっていくことが一番あってはいけない。それが怖いということではないのかなと思います。