楽天モバイル「爆速黒字化」を三木谷社長が宣言、その根拠は（石野純也）
2月4日に人口カバー率が96%に達したことを受け、楽天モバイルは22年度第2四半期以降、業績が回復していく見通しを発表しました。楽天グループの代表取締役会長兼社長で楽天モバイルのCEOを務める三木谷浩史氏は、2月14日に開催された決算説明会で「第2四半期以降の業績改善を見込んでいる。歴史的に類を見ないほどの短期間で黒字化を目指す」と語っています。
三木谷氏の意気込みに反し、21年度の楽天モバイルは、一貫して赤字幅が拡大しています。第1四半期には975億9700万円、第2四半期には996億8600万円の営業損失で、第3四半期にはその額が1052億3700万円と、ついに1000億円を突破。傾向は変わらず、第4四半期には1186億5300万円と、赤字幅がさらに拡大しています。四半期ごとに1000億円前後の赤字を計上しているわけです。
では、三木谷氏のこの自信はどこから来るのでしょうか。1つはローミング費用の大幅な圧縮です。楽天モバイルは、21年10月にKDDIローミングのエリアを大幅に縮小しており、山田善久社長によると、「カバレッジの拡大に伴い、楽天エリアでの通信量が向上している」といいます。同氏が決算説明会で示したグラフを見ると、21年10月以降、自社エリアでの利用比率が一段伸び、90%に近づいていること分かります。
楽天モバイルとKDDIは半年に1回、ローミングエリアの見直しを行っていますが、次回の更新は4月ごろになる予定。人口カバー率96%達成を機に、残るすべての県を自社エリアに切り替えれば、この比率はさらに上がり、100%に近づいていくはずです。屋内や地下街など、一部はローミングが残りますが、ローミング費用の負担が一気に軽くなることは確かです。
三木谷氏によると、その総額は「100億円の単位ではない単位」になるとのこと。現状かかっているコストを踏まえると、1000億円単位でローミング費用が減少していくものと考えられます。
KDDIが傘下のMVNOと主に楽天モバイルから得ているその他の通信料収入は第1四半期から第3四半期までで約1078億円。この収入のすべてがローミングというわけではありませんが、コストが大幅に削減されるのは間違いありません。
もう1つは、基地局建設コストで、人口カバー率96%の達成がひと段落したこともあり、投資が抑えられる可能性が考えられます。人口カバー率96%以降のカバレッジ拡大や、トラフィック対策としての5G導入など、楽天モバイルの設備投資が完全に終わったわけではありません。一方で、本格参入からわずか2年弱でここまでエリアを広げてきたことを踏まえると、コストのかけ方は緩やかになっていくはずです。
とは言え、収入が入ってこなければいくらコストが減っても黒字にはなりません。ただし、こと売上高に関しては順調に伸びており、先に挙げたグラフでも、21年度の第4四半期で約653億400万円まで拡大しています。契約者数が伸びているうえに、1年間の無料期間が終わったユーザーが増えていることがその要因の1つ。ユーザー数の伸びは、端末売上にも貢献します。
加えて、楽天モバイルは自社で実証した完全仮想化の仕組みを、楽天シンフォニーという会社を通じて海外キャリアなどに販売しています。これらが相まって、売上高は四半期ごとに拡大中。そのため、コストさえ抑制できれば、業績の改善および三木谷氏が語っていたような「歴史的に類を見ないほど短期間での黒字化」が可能になるというわけです。
特にローミング費用は資産としても楽天モバイルに残らないもので、ここを圧縮できるのは同社にとってインパクトが大きいと言えるでしょう。
ユーザー数の伸びは鈍化、
数値的に見ると、三木谷氏のコメント通り、業績は上向きになりそうです。ただ、懸念材料なのが、エリアの穴やユーザーの伸びです。人口カバー率96%と言っても、あくまで指標の1つ。ここに表れない場所でのつながりやすさに関しては、やはり長年基地局を整備してきた既存キャリアとの差はあります。
エリアに関しては、いったん悪評がついてしまうとイメージを払拭するのが大変なのはソフトバンクが証明済み。あまりに声が大きくなると、結果としてユーザーの伸びにブレーキをかけてしまうおそれもあります。
また、ユーザー数の伸びが以前と比べて鈍化しているのも、気がかりな点です。例えば、21年3月と21年6月の差分は81万、9月と6月の差分は45万で、徐々に新規ユーザーの割合が減っています。9月から12月にかけての伸びは39万で、傾向としては獲得数が減少しています。1年無料キャンペーンを実施していたときのような勢いはなく、2月8日で3カ月無料キャンペーンも終了してしまいました。
楽天モバイルの場合、1GB以下が0円の料金プランを導入しているため、データ通信を使ってもらわなければ売上につながらないこともあり、単純にユーザー数が増えればいいというわけではありません。実際、決算説明会でもMNPの比率が増えたことが紹介されていました。2回線目で放置されてしまうリスクのある単純な新規契約より、MNPの方が主回線として使われる確率が高く、そのぶんARPUが高くなるからです。
とは言え、まだまだ新規契約や楽天モバイルのMVNOから移行する割合が高いのも事実。新規契約の数が大きく減ってしまうと、いくら割合が上がっても、MNPの総数は減ってしまうという事態も起こりえます。料金の安さや経済圏の大きさ、お得さでは他社を上回っているだけに、今後は、エリアやサービス、サポートなど、それ以外での魅力をさらに高めていく必要がありそうです。
