料金値下げがようやく一段落。加速する携帯大手3社の5Gエリア整備競争（佐野正弘）
KDDIに続いてソフトバンク、そしてNTTドコモと携帯大手3社の第3四半期決算が発表されました。その内容を見ますと各社ともおおむね政府の携帯料金引き下げ要請の影響を非常に強く受けて大幅に利益を落としており、楽天モバイルからのローミング収入という“特需”があるKDDIだけが、かろうじて増益に戻しているという状況のようです。
ただ一部の調査では世界の主要都市の中で日本が最も安いという調査が出ていること、そして何より2021年の首相交代で政府からの圧力が大幅に弱まったこともあり、各社はともに料金引き下げ競争はひと段落したという認識のようです。一連の料金引き下げで十分成果は出ているし、これ以上体力を消耗したくないというのが各社の本音でしょう。
ある意味、ようやく携帯電話会社が民間企業として本来の競争ができる環境が整ったといえますが、現在その競争軸となるのは5Gのネットワーク整備ではないでしょうか。それだけに今回、3社の決算説明会ではその5Gネットワーク整備に関して各社のトップが言及する場面が多く見られました。
各社の足元の整備状況を見ますと、ソフトバンクは2022年2月4日に5Gの基地局数が2万3000局を超え、人口カバー率も85%を超えたと発表。代表取締役社長執行役員兼CEOの宮川潤一氏は、2022年春の人口カバー率90%達成に自信を見せています。
またKDDIの代表取締役社長である高橋誠氏は、半導体不足や新型コロナウイルスの感染が急拡大したことなどから、2021年度末の人口カバー率90%という目標には「若干遅れている」と回答。2022年度の早い時期の達成を目指すとしています。ややKDDIが遅れ気味とはいえ、2社の整備スピードに大きな差がつくには至っていないと見ることができそうです。
一方NTTドコモは現在、これら2社と違って5G向けに割り当てられた高い周波数帯のみでエリア整備を進めていることから、より低い4G向けの周波数帯を転用して整備を進めている2社よりスピードは遅く、2021年度に達成する人口カバー率は55%の予定です。そうしたこともあってか、NTTドコモの親会社である日本電信電話(NTT)の代表取締役社長である澤田純氏は、決算説明会で5Gエリア整備に関して2社をけん制する発言もしています。
というのも澤田氏は政府が早期に5Gの人口カバー率90%を達成するよう要請していることについて記者から問われた際、5Gの「ノンスタンドアローン(NSA)とスタンドアローン(SA)」の違いをぜひ理解して欲しい」と答えているのです。現在主流のNSA運用は、4Gと5Gを一体で運用する必要があり5Gの一部性能しか発揮できませんが、純粋な5GのネットワークとなるSA運用であれば5Gの性能をフルに発揮できます。
それゆえ澤田氏は、NTTドコモでは5Gの性能を存分に発揮できるSA運用を主体にエリア整備を進めた人口カバー率の予定を示しているとしており、他社が打ち出すNSA主体の人口カバー率とは中身が違うと説明していました。NTTドコモは4G周波数帯の転用を総務省に申請はしたもののまだ利用を始めている訳ではないことから、単に人口カバー率だけで評価されてしまうのは避けたいというのも発言の背景にはあると考えられます。
ただNTTドコモが法人向けのSA運用を開始したのは2021年の12月からで、現時点ではやはりNSA運用のネットワークが主体。5Gの実力を発揮する上は、単にエリアを広げるだけでなく、整備済みのエリアをいかに早くSA運用に移行させるかも、携帯各社にとって大きな課題になってくるといえそうです。
そしてもう1つ、携帯各社に問われているのは5Gのインフラ整備のあり方であるようです。政府主導で携帯電話料金の引き下げが進められ、かつてのように高い収益を得ることができなくなったことから、携帯各社は5Gのネットワーク整備に4G時代ほどお金をかけられない可能性が出てきているのです。
実際宮川氏は、決算説明会で今後の5G整備計画について問われた際、「もし5Gがいまの値下げしたままのARPU(1ユーザー当たりの平均売上)で、日本だけが4Gのようにインフラ作りを続けると、収益性の悪い国の代表例になり新しい技術が寄ってこなくなる」と話していました。
その上で宮川氏は、「インドアの莫大なトラフィックを5Gに寄せるのか、Wi-Fiに寄せるのかは色々な戦略がある」と説明、5Gは高い性能を生かして企業主体で利活用を進めつつ、動画などコンシューマー向けのデータ通信は低コストで高速大容量通信ができるWi-Fiで吸収するというアイデアも披露していました。
かつてソフトバンクは街中にWi-Fiスポットを設置するなど、Wi-Fiの活用を積極化していた時期があっただけに、この考え方はある意味非常にソフトバンクらしいともいえます。ただ携帯電話会社のトップから、5Gのネットワーク整備に積極投資よりもコストを重視する発言が出てくることは、これまで全国津々浦々で快適な通信ができた日本の高品質で充実した携帯電話ネットワークの“終わりの始まり”となってしまう危惧もあります。
そうならないために求められるのは携帯電話会社の通信料収入改善、より具体的には料金引き下げ以降低価格プランに向いてしまっている消費者の目線を、再び料金の高い使い放題プランに向けさせることでしょう。
KDDIはその策の1つとして、映像配信など大容量通信が必要なコンテンツを配信するサービスとの連携を打ち出しており、スポーツ動画配信の「DAZN」が大幅値上げを発表した直後の2021年1月26日に、そのDAZNと使い放題プランのセット「使い放題MAX 5G ALL STARパック」などを提供したことは大きな注目を集めました。
高橋氏は決算会見で「いま下がっているARPUをもう一度右肩上がりにしないといけない。それをやっているのが米国や韓国だ」と話し、使い放題プランの魅力を向上させて利用者を増やす方針を打ち出していました。国内で高品質な5Gネットワークが整備されるかどうかは、ある意味携帯各社が消費者がいかに使い放題プランを必要とする環境を作り上げるにかかってくるともいえそうです。
