妻の海外単身赴任をめぐり、すれ違いに悩む(写真はイメージ)

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「妻の海外単身赴任はダメですか」「夫は『主夫』になってついてきてほしいのですが...」

こんな投稿が話題になっている。

夫婦に子どもはなく、妻のほうが収入は高い。夫はというと、男が女の転勤についていけるか! と猛反対だ。

海外赴任を経験した人からは「夫がついてくるのは当たり前なのに」との意見もあって、プライドを振りかざす夫に批判的だ。専門家に話を聞いた。

「男が妻の単身赴任についていくなんて考えられない」

話題になっているのは、女性向けサイト「発言小町」(2021年12月21日付)に載った「女が単身赴任はダメですか?」というタイトルの投稿だ。こんな内容だ。

「35歳、お子なし夫婦です。お互い子どもが得意ではないので、夫婦2人でやっていく選択をとっています。私に転勤辞令が出ました。半年後に5〜6年海外になります。私の会社は一度海外に出ることがキャリアアップであり、帰国したら役職者になることが多いです。早めの出世で、とても嬉しかったです」

と、喜んだ。そして、夫に「私が単身赴任する」か「あなたが退職して主夫になり、海外に付いてきてもらう」かのどちらかにしてほしいと相談した。ところが、夫は渋った。「女が家庭を振り回して転勤する」ことが理解できないというのだ。女性はこう続ける。

「夫も転勤がある仕事ですが、その場合は『仕事を辞めてついてきて欲しい』そうです。矛盾していると思いました。夫の転勤に妻がついていく、というのはよくありますが、妻の転勤に夫がついていく(もしくは単身赴任)というのはそんなにおかしいことでしょうか」

投稿によるとこの夫婦は、都内の「3LDKプラスS(サービスルーム)」に暮らし、収入は女性のほうが夫より高いらしい。女性が単身赴任すると、残された夫は狭い住居に移らなくてはならず、生活レベルが下がることにも納得していない。

「男が妻の単身赴任についていくなんて考えられないが、今の生活は維持したい」の一転張りだ。女性は、「折衷案がわからなくなりました」と悩みを打ち明けるのだ。

「専業主夫もいま数えただけでも12人いますよ」

この投稿には「私も海外に単身赴任しましたよ」「今や、夫が主夫として妻に付いてくるのは当たり前の時代です」と、経験者を中心に応援エールの声が多かった。

「子どもが生まれてから、夫も私も海外出張や海外赴任経験しています」「私の周りでは、妻が単身赴任や海外赴任なんてありふれた話です。専業主夫もいま数えただけでも12人います」「私自身がそういう親に育てられたし、両親を誇りに思っています」「男はよくて女はダメって、しかも自分の時は辞めてついてこいだ? ふざけんなって話ですね」
「私の周囲で、奥さんが海外単身赴任は多いです。ご主人は協力的で、年単位で子どもたちを順番に育て、最初の年はご主人が育てたり、2年目から奥さんが子を帯同したりと、工夫しています」
「海外赴任先でも奥様の赴任に付いてきているご主人は何人かいました。お子さんがいて、ご主人が家事育児をしながら在宅ワークなど。もしくはセミリタイア生活。日本人だけでなく、ほかの国からもそういったご夫婦、ご家族がいました」

また、60歳近いと思われる女性は、投稿者の夫のためにも海外で飛躍するチャンスになるかもしれない、とこんなアドバイスする。

「私も30半ばで海外赴任をした者です。既に還暦ですから、当時は両親も、義両親も、ええっ!という反応でした。しかし、夫とは結婚当時からそういうことがあり得ると話し合っていたので、外野の反応は気にもしませんでした」「(しかし、)何が起きるか分からない。で、離婚届をいつでも出せるように準備しました。結局出さずに6年後に無事戻りました。50歳になって、2人とも以前の私の赴任先でよいポストが見つかり、2人で海外に移動しました」

「人生最大のチャンスなのに」と、投稿者の夫の背中を押す声もあった。

「素晴らしい配偶者と赴任先に帯同し、自分の経験値を増す、またとないチャンスを逃すなんて、とてももったいない。現地の大学に通うのもアリだと思う。旦那様に言いたい。『専業主夫でもよい』と言ってくれるパートナーなんていないよ」

このほかには、「離婚してスッキリした形で海外赴任しては」という意見も少なくなかった。

堂々と「夫を養う」覚悟を決めたキャリア女性だが...

J‐CASTニュース会社ウォッチ編集部は、今回の「妻の海外単身赴任はダメなの?」という女性の投稿について、女性の働き方に詳しいワークスタイル研究家の川上敬太郎さんに話を聞いた。

――今回の投稿と回答者たちの意見を読み、どのような感想を持ちましたか?

川上敬太郎さん「投稿者さんの夫は、『女が家庭を振り回して転勤する』ことが理解できないとのことですが、投稿者さん自身にとって、仕事がどれだけ大切なものかについても理解できているのかと疑問に思いました。投稿内容を拝見する限り、夫はかなり一方的な考え方を投稿者さんに押しつけているように感じます」

――これまでは、仕事を持つ妻は夫の単身赴任についていくべきかどうかという問題がよく論じられました。今回はいわばその反対で、妻が海外赴任するから「夫に専業主夫になって付いてきてほしい」という要望がテーマです。かつての「常識」からみると、かなり思い切った主張ですね。

川上さん「俗に総合職と呼ばれる働き方を選ぶ女性が増えている以上、これまでの常識感と男女逆になるケースが発生するのも当然なのだろうと思います。世の中には仕事より家事のほうが得意な男性もいますし、家事より仕事のほうが得意な女性もいます。むしろ、これまで夫の海外赴任に妻がついていくかどうかだけが話題になっていた状況のほうが不自然だったのではないでしょうか。投稿者さん個人のキャリアを考えた場合、『夫が専業主夫になってついてきてほしい』という要望が生じるのは自然なことです。逆に、家計収入は大黒柱である夫が担うもの、家族を養えない夫は甲斐性がないと言われてしまうのも古い常識です。夫に専業主夫を求める投稿者さんは、自らが収入を得て夫を養う覚悟をしています。その点、『女が家庭を振り回して転勤する』という夫の主張は事実を見誤っている気がします。投稿者さんは家庭を振り回すようなことは言っていません。転勤とともに家事は夫にお願いし、自分はしっかり収入を得て家庭運営の責任を果たす、と言っているのです。女性だからという理由だけで、それが否定されるのはナンセンスです」

――たしかに、堂々と「夫を養う」と覚悟を決めている投稿者に対して、夫は収入があまりないのに「主夫はしたくない」「今の生活は維持したい」と、やや身勝手な主張に聞こえますね。

川上さん「ただ、夫は自分の気持ちを正直に伝えているように感じます。下手に取り繕うよりは、考え方のどの点が投稿者さんと異なっているのかがわかるという意味では、よいことだと思います。しかし、多くの回答者の方々と同じく、私も夫の考え方にはまったく共感しません。『自分の転勤には妻はついてきてほしいが、女の転勤に男がついていくのは考えられない』というのは、本来性別とは無関係の問題です。家庭をどう運営していくのかを考えるうえで、性別をもとに役割を決めることには合理性はありません」

「女が単身赴任をするとは!」は現代では通用せず

――夫の主張に擁護すべき点はありますか。

川上さん「もし投稿者さんが海外赴任した場合、ビザや会社の規定の関係で、夫は働くことが難しいのであれば、夫は『専業主夫』にならざるを得なくなります。ですので、『主夫はしたくない』と夫が渋る気持ちになるのも致し方ない気がします。また、『今の生活は維持したい』という希望は夫の身勝手のようにも思えますが、妻が今まで通り国内勤務を続ければ、それが可能であることを踏まえると、夫の意思にも耳を傾ける必要はあるように思います。もっとも、相手の言い分が身勝手に思える内容だったとしても、それが本当に身勝手かどうかも含めて話し合い、どちらかが希望をあきらめたり、犠牲になったりする状況をできる限り避けたほうがよいはずです。また、妻の収入のほうが夫より多いとしても、家庭運営では本来、夫婦の収入は家族の収入です。投稿者さんは夫婦で財布を分けているようですが、夫婦の収入の考え方について、夫の間で改めてすり合わせておかれたほうがよいと感じます」

――回答者の中には、海外赴任経験者がいて、「夫がついてきてくれた」「ほかの国では主夫は珍しくない」という意見も多かったです。

川上さん「参考にはなるかもしれませんが、やっぱり投稿者さんご夫婦がお互いに知恵を出しあうなかで納得できるかどうかがすべてです。夫は人生を共にする伴侶ですから、夫が理解してくれるに越したことはないと思います。しかし、どうしても理解が得られないとしたら、反対を押し切ってでも実行する選択肢も視野に入れざるを得ないでしょう。『女が単身赴任するとは!』という考え方は、ひと昔前の女性には一定の拘束力があったかもしれませんが、現代ではまったく通用しません」

白黒の決着をつけないのが「夫婦の進化」のコツ

――離婚も選択肢ということですか。たしかに、回答者の中には「離婚案件だ」とする人がいます。一方で、「夫が海外で新しい仕事を見つけるチャンスなのに」と惜しむ人もいます。

川上さん「海外赴任を希望する投稿者さんに対し、夫は応援していないように見受けられます。投稿者さんと夫の間で、仕事や人生に対する価値観に大きな齟齬があります。仕事は、その人の生きがいそのものになりえるものです。夫は自分の主張が、投稿者さんから生きがいを奪おうとするに等しいものであるとわかっているのかは疑問です。もしわかったうえで、『女が家庭を振り回して転勤する』と主張しているのだとしたら、離婚案件に発展するほど齟齬は重いと思います。一方で、もし夫がそのことに気づき、海外赴任を応援しようと気持ちを切り替えることができたら、行動が変わってくるでしょう。投稿者さんに単身赴任してもらいつつ、夫は自らの収入を増やして、今の生活を維持していけるようにチャレンジする。あるいは、一緒に海外に渡って新しい仕事を見つけるチャンスにするなど、ポジティブに対処することも可能になってくると思います」

――川上さんなら、投稿者と夫にどうアドバイスしますか。

川上さん「古い価値観にとらわれている夫に非があるように見えます。お子さんがいないので、婚姻関係を続けるかどうかは夫婦2人の意思で考えればよいはず。投稿者さんが折れる必要はないですが、無理に夫の考え方を変えようと努めても、ストレスが溜まるだけでしょう。もしも意見の一致が見いだせず、お互いの間に価値観の相違があることを再確認することになったとしても、相容れない深い溝も互いに飲み込んで、引き続き人生を共に歩んでいく選択をすることも、一つの夫婦のあり方です。それはそれで、夫婦関係の進化したかたちの一つだと言えるでしょう」

――なるほど。あえて白黒の決着をつけずに、グレーのまま、お互いを尊重する夫婦関係を続けるということですか。

川上さん「私個人は投稿者さんを応援しますが、夫と同様の価値観を持つ人もまだ少なくありません。それは、投稿者さんのようにキャリアを追求したい女性にとってつらいこと。かつては、『女が家庭を振り回して転勤する』ことは許されないという考え方のほうが多数派だった時代がたしかにありました。そんな価値観を幼いころから刷り込まれれば、致し方ない面があります。でも、世の中はどんどん先へと進んでいきます。夫の考え方は時代から取り残されていくはずです。今回の一件が、夫の中で価値観を刷新する機会になり、投稿者さんご夫婦の関係をより深める機会となることを願っています」

(福田和郎)