街再生が進む「多摩ニュータウン」の魅力 値ごろ感があって暮らしやすい街は?
多摩ニュータウンは、多摩丘陵に広がる日本最大級のニュータウンです。東京都稲城市、多摩市、八王子市、町田市の4つの市にまたがり、東西約15キロメートル、南北約5キロメートル、面積は約2,884ヘクタールに及びます。1965年から2006年までの約40年にわたって計画的に開発され、その自然と都市が共存する街づくりがコロナ禍で再び注目されています。今回は、多摩ニュータウンの魅力とおすすめの街を紹介します。
高度成長期の住宅課題を解決した計画的な街づくり
東京都市圏へ人口・産業が一極集中した1960年代高度成長期に、良質な住宅を大量に供給することを目的として多摩ニュータウンの事業は始まりました。2020年10月1日時点の多摩ニュータウンの人口は22万を超え、世帯数は10万超と多くの人が生活を営む拠点となっています。
多摩ニュータウンの中核となるのが、商業・娯楽・業務・サービスの拠点的機能を持つ多摩センターです。多摩センターは、京王相模原線「京王多摩センター」駅、小田急多摩線「小田急多摩センター」駅、多摩モノレール線「多摩センター」駅の3路線が利用できるターミナル駅。さらに京王相模原線の若葉台・京王永山・京王堀之内・南大沢の駅前に地区センター(駅前に商業・行政・業務施設等をまとめて配置したもの)を配置しています。
多摩ニュータウンの歴史は長く、1965年に新住宅市街地開発事業都市計画が決定し、街づくりがスタート。京王相模原線の開通や小田急多摩線の開通を経て1980年代に開発が本格化しました。1985年には人口が10万を突破。1991年には旧東京都立大学の移転・開校。1993年には多摩南部地域病院が開設されるなど、街の生活インフラが整備されました。
多摩ニュータウンへのアクセスとして、京王相模原線、小田急多摩線に続き、2000年には多摩モノレールの多摩センター~上北台駅間が開通。それまでの新宿・渋谷方面だけでなく立川方面へ20分台でアクセス可能となりました。そして、2004年に多摩ニュータウンの人口は20万を突破。新住宅市街地開発事業は2006年に終了しました。
多摩ニュータウンの街づくりの特徴は、東京都やUR都市機構、民間事業者、関連自治体などが連携して都市基盤や都市生活関連施設、住宅を整備していること。保育所や小・中学校などの保育・教育関連施設、総合病院、清掃工場などの公的施設や公園・緑地、幹線道路などの都市基盤と住宅が計画的に配置されています。
多摩ニュータウンの魅力って?
暮らしやすさに配慮し計画的に整備された住環境
暮らしやすさに配慮した計画的に整備された住環境は、多摩ニュータウンの魅力です。小・中学校や公園、商業施設を住宅から徒歩で利用できるようにバランスよく立地させることで、生活しやすい住環境が形成されています。
多摩ニュータウンで最初に入居が始まった諏訪・永山地区の6住区を例に挙げると、教育施設として永山小学校、瓜生小学校、永山中学校、永山高校があります。瓜生公園や永山北公園、永山南公園といった公園も点在し、駅前には西友の入る商業施設グリナ―ド永山と永山公民館(ベルブ永山)があります。また、永山南公園の近くには、さまざまなお店が並ぶ永山団地名店街が設けられています。
豊かな自然を抱く緑あふれる街
多摩ニュータウンの大きな魅力は、豊かな自然が身近にあること。十分な緑地やオープンスペースを確保するため、樹林地の保全や再生に努めています。開発面積のおよそ2割を公園・緑地にすることで住宅敷地のオープンスペースを合わせて3割以上の緑を確保しています。開発中期からは、公園や歩行者専用通路を多摩丘陵の自然を生かしつつ設けることで、メリハリのある空間を形成しています。
公園は、地区公園(主に徒歩圏内に住む人のための大きい公園)のほかに近隣公園(主に近隣に住む人のための地区公園の半分程度の公園)などを段階的に配置。街区公園(街区に住む人のための小さい公園)は、250メートル程度に1ヵ所設けられています。
公園の種類も多彩で、遊具が置かれていたり、野球場などがあったり、雑木林が残されていたりと、子どもの好奇心を刺激するだけでなく、大人もくつろげる空間となっています。こうした公園は、遊歩道や緑道で結ばれ、ウオーキングコースとしても利用できます。身近に自然があるのは、子育て層にとっては大きな魅力。のびのびと走り回れる広場や歩道のある街路があり、安心して子育てできる住環境と言えるでしょう。
また、多摩ニュータウン内には、サイクリングロード「南多摩尾根幹線道路」があります。緩やかなアップダウンが繰り返される直線道路で比較的路肩が広く、多摩の自然あふれる景色を眺めながらサイクリングを楽しめます。
地震・火災時の危険性が低い街
多摩ニュータウンは、多摩丘陵の地盤のしっかりした場所にゆとりを持って街づくりが行われているため、安全性の高い街としても知られています。東京都が行っている「地震に関する地域危険度測定調査(第7回)」によれば、地震時の建物倒壊や火災時の延焼の危険性が極めて低く、全域において総合危険度が最も低い「ランク1」に指定されています。
また、車道と接していない歩行者専用道路が多いことも特徴の一つ。丘陵地帯の地形を生かし、尾根部分を住宅地、谷筋部分を車道として整備することで車道と歩道の分離を実現しています。小さな子どもや高齢者が安心して暮らせるのも多摩ニュータウンの魅力です。
値頃感ある中古マンションや団地の建て替えの動きも
街区の開発がほぼ完了している多摩ニュータウンの住宅事情は、一部地区の土地・戸建て分譲と中古マンションの流通が中心です。1990年代以降に建てられた中古マンションは、値ごろ感があるためファミリー層に人気があります。
また、入居が早く始まった諏訪・永山地区の分譲住宅である諏訪2丁目住宅では、2010年に一括建て替え決議が行われ、2013年に全7棟1,249戸を有する「Brillia多摩ニュータウン」が誕生。コミュニティーを育める施設や保育所、高齢者支援施設の整備、車いすやベビーカー使用を配慮したバリアフリー化など安心して長く住み続けられる街へと生まれ変わりました。こうした街再生の動きは今も続いており、若い家族の流入を促し、街の活性化につながっています。
ここからは、筆者おすすめの街、多摩センターと南大沢を紹介します。
買い物やレジャーも身近 多摩ニュータウンの中心・多摩センター
自然豊かな多摩ニュータウンの中でも屈指の生活利便性を誇るのが多摩センター駅です。京王相模原線、小田急多摩線、多摩モノレールの3路線が利用でき、新宿・渋谷へ30分台でアクセスできます。
駅南口を出て歩行者専用のパルテノン大通りを歩くと、街の魅力がよく理解できます。駅周辺部は、立体交差によって車道と歩道が分離され、信号がなく移動もスムーズ。イトーヨーカドーの入る丘の上プラザや丘の上パティオ、ココリア多摩センター、クロスガーデン多摩などの商業施設にはカフェや飲食店、物販店など多彩なお店が入っています。
また、サンリオピューロランドなどのレジャー施設、コンサートやオペラ、演劇などが行われる複合文化施設パルテノン多摩なども駅から徒歩圏。オフタイムを楽しめるスポットが身近にあるのも多摩センターの魅力でしょう。
また、都市と自然が織りなすフォトジェニックな美しい景観も多摩センターの魅力。パルテノン多摩の隣には池のある多摩中央公園があり、宝野公園の先の富士見通りからは天気が良ければ富士山が望めます。起伏のある街なので、楽しみながら歩けるので適度な運動にもなります。現在、パルテノン多摩・中央図書館・多摩中央公園などエリア一帯の再整備が進められていて、完了すれば地域の魅力がさらに増しそうです。
住宅事情に目を向けると、多摩センターの中古マンションの流通は活発。駅徒歩圏の3LDKタイプのマンションが4,000万円台から5,000万円台で購入可能です。新築戸建ての分譲は駅徒歩圏なら5,000万円台が一つの目安です。
駅前にアウトレットモールや映画館も 南大沢でゆったりと暮らす
もう一つのおすすめの街は南大沢(京王相模原線)です。南大沢地区は、多摩ニュータウン開発の後期に造られた街で、東京都が中心となって開発し1983年に街開きが行われました。多摩センター駅から2駅、JR横浜線も通る橋本駅から2駅のロケーションです。
南大沢は、道幅が広く買い物の利便性が高いことや高尾山などのレジャースポットへアクセスしやすいことから、ARUHI presents 本当に住みやすい街大賞2021 シニア編の第2位にも選ばれています。
1991年に旧東京都立大学が移転し、南大沢キャンパスを開校。駅前には商業ビルなどが建設され、イトーヨーカドーや書店、飲食店など多彩な商業店舗があります。9つのスクリーンのあるTOHOシネマズ南大沢もあり、身近でレジャーが楽しめることも南大沢の魅力です。
2000年には、三井アウトレットパーク多摩南大沢が開業。100店舗以上が出店し、ショッピングが楽しめます。さらに、八王子市立南大沢図書館や八王子市南大沢文化会館などの公益施設、南大沢メディカルプラザなど福祉・医療関係の施設も充実しています。子育て層だけでなく、大人やシニアも暮らしやすいのは、南大沢のメリットでしょう。
南大沢エリアでは、大手デベロッパーによる戸建て分譲が進められており、5,000万円台後半から新築が供給されています。中古マンションは駅近物件の流通は少ないものの、徒歩圏では90平方メートル前後のゆとりある住戸が流通しています。価格は4,000万円前後と手の届きやすい価格帯の物件も。ファミリー層が検討しやすいエリアと言えるでしょう。
自然豊かで生活利便性も充実した多摩ニュータウンですが、街の成熟とともに高齢化が進んでいることが課題になっています。また、行政が稲城市、多摩市、八王子市、町田市と分かれている点にも注意が必要です。公立学校の学区域の確認は事前に行いましょう。しかし、東京23区内に比べると住宅価格が抑えられ、自然が身近な場所で子どもが自由に遊び回れる環境は、そうそう出合えるものではありません。多摩ニュータウンで育った人が、子育てを契機に実家の近くに居を構えるケースもあるようです。防災や生活の面で安心して暮らせる多摩ニュータウン。これから子育てがスタートする家族におすすめしたい街です。