なぜ? 黒基調の自動車ディーラー増えたワケ 黒を採用する/しない ねらいは
黒色基調のディーラーが増えた
ここ最近、ディーラー店舗をブラック基調のデザインにするメーカーが増加傾向にある。
【画像】変化するマツダの象徴【歴代ロードスターを見る】 全104枚
メーカーの顔といっても過言ではないディーラー店舗に、各メーカーが挙ってブラックを起用する理由は、一体どこにあるのだろうか。
ブラックというカラーについて、カラーセラピーの世界では「神秘」や「沈黙」、「高級」や「重厚」、「リッチ」、「モダン」、「大人」、「洗練」、「孤高」、「陰/影」、「闇」、「虚無」などの、さまざまな意味を持つといわれている。
そのなかでも、メーカーがディーラー店舗のデザインを黒基調にする理由は、「高級感」や「洗練」などであることが安易に想像できるが、それではメーカーそれぞれの個性という部分を、どう考えているのだろうか。
いくら洗練された高級感ある店舗を展開したところで、差別化が図れなければ不利になることも考えられる。
そこで、実際にブラック基調のディーラー店舗を展開するメーカー、しないメーカーそれぞれに、ディーラー店舗に採用するカラーの持つ意味を聞いてみた。
マツダ「ソウルレッドを魅せる」
2014年より、モノトーンとシルバーの内外装に、黒を基調とした専用のファシリティサインやウッドを用いたアクセントなどを採り入れた店舗デザインを展開するマツダは、「品格や質の高さと温かみが調和された、居心地の良い空間の提供を目指した店舗づくりをおこなっている」という(マツダ国内広報部国内商品グループ藤井氏)。
そして、スカイアクティブ技術を搭載した新世代商品ラインナップの拡充にあわせて、器となる店舗も魅力あるものに成長させる必要があると考え、新世代店舗の全国展開をスタートさせた。
そんなマツダのディーラー店舗は、「『マツダらしさ/心がときめく』店舗デザイン、『マツダのクルマの魅力が引き立つ』新車ショールーム、『絆が強まる』店舗ゾーニングの3つの提供価値と、『品格あるたたずまい』、『惹きつける力』、『クルマを美しく魅せる』、『居心地のよいしつらえ』の4つの店舗デザインコンセプトを規定したガイドに基づいて、黒基調となった」と説明する。
なお、これらのガイドラインに基づくデザインとしてブラックを起用した理由としては、「ブランドカラーであるソウルレッド(赤)を際立たせるために、ブルーなどのレッドと喧嘩をしてしまうカラーではなく、無彩色であるブラックをベースとするという結論に至った」という。
また、無彩色を基調とすることで冷たいイメージとなることを避けるために、ウッドや石材などの天然素材を使用。
温かみを演出するなど、細部まで、そのこだわりに抜かりはない。
三菱「SUVの力強さ」表現
2018年からブラック基調のディーラー店舗を展開する三菱も、まずディーラー店舗デザインのビジュアルアイデンティティを変更したことについて、「お客さまに三菱自動車がどういうアイデンティティを持った会社かを認識してもらうために、お客さまとの接点である店舗デザインを刷新することを決定した」と説明。
「元々のコーポレートカラーからブラック、ホワイト、レッドを継承し、シルバーの代わりにセカンダリーカラーとして3色の明度の違うグレーを設定した」という(三菱自動車広報部商品広報グループ田中氏)。
そして、店舗の外観にブランドアイコンとしてのブラックを採用した理由については、「SUVの三菱をイメージさせるための力強さや逞しさ、またこれから必要となる品質の高さを表現する為」と説明する。
さらに、そのイメージを強調する為に、『ダイナミックスロープ』と呼ばれる斜めの構造体を、店舗アイコンとして追加。
白い水平のラインとレッドの斜めのラインを、夜間も光るようにすることで、象徴的に訴求するデザインとなっている。
なお、ブラックベースの背景にレッドのスリーダイヤとホワイトの「MITSUBISHI MOTORS」の文字を店舗サインに採用した理由については、「時間を問わず、一貫してコーポレートアイデンティティの印象を統一するため」とのこだわりだ。
2016年から、ジープのディーラー店舗にブラック基調のデザインを採用するFCAジャパンも、「同ブランドが近年、ディーラーネットワークやブランドの認知度、販売成功率を大幅に向上させていることを受け、その勢いをサポートするために、新たなショールームデザインを開発した」と説明。
「新しいアプローチでは、あらゆる環境に暮らすさまざまな顧客の要望に対応できるショッピング体験を尊重できるショールームとして、実用性やシンプルさ、実現可能性に焦点を当てたものとした」という(FCジャパン広報部長清水氏)
このように、同じブラック基調の店舗でも、それぞれブランドごとのこだわりを持ってデザインされているのである。
ホンダ 独自カラーで印象づけ
では、ブラック基調の流れに乗らず、独自カラーでの店舗デザインを展開するメーカーは、どのような想いを持っているのだろうか。
2020年よりブラックを採り入れながらも、独自カラーでの店舗デザインを展開するホンダは、「2006年に販売チャネルを一本化した際に、店舗イメージを白基調に刷新。そこから10年以上を経て、ユーザーにホンダカーズ=白というイメージを定着させることに成功し、清潔/安心/明るいというポジティブな印象を持ってもらえた」と説明する。
一方で、「ユーザーの持つ価値観の変化や競合他社の店舗デザインの強化、労働人口の減少による従業員の定着率の重要性が高まっていることなどにより、新技術を導入することでの商品やサービスへの対応が必要となっている現状を考えると、店舗も大きく進化することが必須となっているとの結論に至った」という(ホンダ広報部)。
そこで、同社のイメージカラーであるホワイトとレッドを踏襲した形で、店舗デザインを進化させた答えが、現在の店舗デザインなのだ。
「他社が採用しているブラックを、その流行の流れに乗ろうという意味合いではなくダークグレーとして採り入れながらも、独自のカラーを大切にするという想いで新デザインを考案。HDCというデザインが、全国の同社ディーラー店舗で展開されている」としているという。
そんな新デザインは白基調でありながら、ダークなグレーで全体を囲んだようなデザインとなっているのだが、「この濃いグレーで囲むというデザインは、正面に大きく配置されたレッドのロゴと白い壁面がより際立つ組み合わせである」と説明。
さらに、「ファサード以下の部分と店舗の内装にはウッド調の素材を採用することで、親しみと居心地の良さを演出し、敷居を下げることで入りやすさの向上を目指した」と、ホンダはあくまで高級車メーカーではなく、幅広いラインナップを取り扱うメーカーであることへのこだわりを強調した。
「黒」採用する/しない ねらいは?
ディーラー店舗に独自デザインを採用し続けるボルボも、「店舗、クルマなど、採用するデザインのすべてにおいて『スウェーデンらしさ』が採り入れられている」と説明。
これは、「スウェーデンで唯一の乗用車メーカーであるという強みを生かした戦略」だという(ポルボジャパン・マーケティンググループ製品広報/ローカルマーケティング 長瀬氏)
どんなジャンルでも、「唯一」という肩書は、他との差別化を図りやすいものである。
そこで、ボルボが「ボルボらしさ」を表現する方法として導き出した答えが、「スウェーデンらしさ」だったのだ。ガラス張りのような店舗の外観は、寒い国であるスウェーデンらしさの象徴として、アイスキューブをイメージ。
透明な摺りガラスを採用することで氷感を表現し、その間に透明なガラスを配置して、寒い外から窓越しに家のなかを眺めているような、スウェーデン家庭の暖かさが表現されている。
そして店舗入り口は、スウェーデンの森林やモダンさを表現。
「店内をすっきりとした印象にまとめることで、主役であるクルマを引き立てる内装とした」という。
さらに店内には、リビングルームと呼ばれるスペースを常備。実際にスウェーデンから取り寄せた什器を配置することで北欧のリビングを演出するなど、店舗のどこを見てもスウェーデンを感じられるデザインとなっている。
これは、ボルボジャパンとしてだけでなく、グローバルでの方針だ。
ディーラー店舗にブラックを採用するメーカーが増えているが、それは「流行」の一言で片づけられるものはない。
それぞれのメーカーのカラーを最大限に表現しようと試行錯誤した結果が、それぞれのメーカーが採用するそれぞれの「ブラック」なのだ。
店舗をブラック基調とするか、しないか、どちらの答えを出したメーカーも、その想いは同じなのである。
ディーラー店舗に採用されている「ブラック」は、ただの黒色ではなく、そのメーカー独自の「ブラック」なのだ。
そう考えると、同じブラック基調のディーラー店舗でも、それぞれのカラーが見えてくるのは筆者だけではないはずである。