最新「ESGに優れた企業ランキング」トップ200社
全館100%再生可能エネルギーを使用している大丸心斎橋店本館(写真:時事)
世界的に環境(E)、社会(S)、ガバナンス(G)に注目が集まる中、真にESGに優れた企業を知るための評価開発がさまざまな機関で進められている。
東洋経済新報社でも保有するCSR(企業の社会的責任)データベースから環境(E)、社会性(S)、企業統治(G)、人材活用(H)の4分野で2005年以降、企業評価を行ってきた。今回、このデータに基づいて6回目となるESG企業ランキングを作成した。
財務面でROE5%の足切りをして株式投資先としても魅力的なCSR・ESGと高ROEが両立した先進200社をご紹介する。
対象は『CSR企業総覧』(雇用・人材活用編)(ESG編)2021年版掲載の1614社。それぞれ100点満点で、合計400点満点となっている(各分野の評価項目はCSR企業ランキングの説明を参照)。
なお本ランキングは、2020年の回答データに基づいている。現在、行っている2021年調査データではないのでご注意いただきたい。また上位500位までのランキングは『CSR企業白書』2021年版に掲載しているので参考にしてほしい。
トップは4年連続でSOMPOホールディングス
では、ランキングを見ていこう。1位は4年連続でSOMPOホールディングスとなった。総合ポイントは393.9点で各部門は環境97.4点、社会性97.5点、企業統治100.0点、人材活用99.0点といずれも高得点だった。
同社は気候変動による自然災害の増加は、保険金支払いの増加などで事業活動全般に大きな影響を受けると考えている。そのため、率先して環境負荷の削減に取り組むとともに、環境リスクを含むグループ内のあらゆるリスクのうち、重大リスクを把握・評価し、取締役会でグループベースの発現状況や対策を確認する体制を整えている。
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「損保ジャパンの森林」として全国8カ所の各自治体と協定を結び、地域の人々、社員、代理店・その家族とともに森林整備活動や環境教育を実施。社員食堂等では、コーヒー等のカップをプラスチック製から紙製へ、プラスチックストローは必要な人のみへの提供に変更するなど社内の環境意識は高い。
女性管理職比率20.6%、総労働時間1817.0時間、男性育児休業取得率52.8%などダイバーシティや働きやすさの指標も高水準。インドの現地法人で銀行が提供するマイクロファイナンスの活用を促進する農村・貧困層向けのマイクロインシュアランス(小規模保険サービス)を2008年から提供するなど、グローバルでの幅広い社会課題活動も行っている。
さて、今回は上位企業のESGの取り組みがどの程度株価に反映されているかを併せて見ることにした。本ランキングに使用したデータは2020年8月31日締め切りの調査票で集めている。そこで同日の株価(3980円)と直近(2021年10月8日)の4956円を比べてみると24.5%上昇していた(表参照)。
ちなみに日経平均は2万3139円76銭(2020年8月31日)から今年の10月8日に2万8048円94銭と21.2%上昇している。同じくTOPIX(東証株価指数)は1618.18から1961.85に21.2%上昇。SOMPOはいずれのインデックスも上回っている。
2位オムロンが取り組んでいる内容
2位はオムロンの392.6点。環境98.7点、社会性100.0点、企業統治99.0点、人材活用94.9点だった。
CSR活動のマテリアリティ(重要性)には、事業を通じて社会的課題解決に貢献を掲げる。CSR活動全体の責任者は取締役会議長の同社会長が務め、事業活動と一体となった取り組みを推進。気候変動対応では「オムロンカーボンゼロ」として、2050年度にスコープ1およびスコープ2の温室効果ガス排出ゼロを目指すなど環境取り組みの先進企業として知られる。
ガバナンス面のレベルも高い。グループ全体に適用される統合リスクマネジメントルールを制定。年4回、本社を含むグローバルのメンバーによる企業倫理・リスクマネジメント委員会を開催し、社内の課題を議論する。国内外のグループ会社ではリスクマネジメントを推進するリスクマネジャーを選任。他にも退職者からも内部通報を受けるなど同社ならではの制度も多い。
社会的課題解決への取り組みも幅広い。新興国で高血圧人口が拡大している中、インドや中国で血圧測定習慣の普及活動を展開するなどSDGsの取り組みにも積極的。こうしたさまざまな活動が評価された面もあるのか株価は7770円から1万0190円に31.1%上昇している。
3位はJ.フロント リテイリングで389.1点。環境100.0点、社会性96.3点、企業統治95.8点、人材活用97.0点。
小売業ながら環境はトップの100点。ESGモデル店舗として、2019年9月に大丸心斎橋店本館をオープン。全館100%再生可能エネルギーを使用するなど環境に配慮した店づくりを行っている。持続可能なサプライチェーン構築のため、取引先を含めた多くの関係者でESG課題に関連するリスク影響を考慮した取り組みも進めている。株価は738円から1047円に41.9%上昇した。
4位は富士フイルムホールディングスで389.0点。環境97.4点、社会性98.8点、企業統治97.9点、人材活用94.9点。事業を通じた社会課題解決に積極的に取り組むなど社会性得点の高さを中心に高評価だった。株価は5046円から8701円に72.4%アップ。上昇率は上位11社(10位まで)の中で最も高かった。
5位はKDDIで388.4点。環境94.9点、社会性97.5点、企業統治100.0点、人材活用96.0点。「KDDIフィロソフィ(社会への責任を果たす)」を中心に幅広く取り組みを行っている。CSR企業ランキングで1位の同社がESG企業ランキングでも上位となった。株価は3078円から3670円に19.2%上昇。ただ、上位5社の中で唯一、日経平均、TOPIXを下回った。
上位に入った企業の顔ぶれは?
6位は東京海上ホールディングスで388.3点。環境94.9点、社会性97.5点、企業統治97.9点、人材活用98.0点。高いレベルの人材活用、企業統治を中心にバランスよく得点した。グループサステナビリティ憲章を策定し、全社員がCSRを実践するための行動指針として位置付けている。株価は4890円から6043円に23.6%上昇した。
7位は丸井グループの387.0点。環境93.6点、社会性97.5点、企業統治96.9点、人材活用99.0点となっている。ESGを踏まえたサステナビリティの実現を目標として掲げ、幅広い活動を行っている。株価は1937円から2170円と12.0%の上昇だった。
8位はTOTOの386.1点。環境94.9点、社会性96.3点、企業統治96.9点、人材活用98.0点。株価は4655円から5200円に11.7%上昇。「水回りを中心とした、豊かで快適な生活文化を創造する」という企業理念をベースに多くの課題解決に取り組んでいる。
9位はトヨタ自動車の385.6点。環境98.7点、社会性95.1点、企業統治97.9点、人材活用93.9点。株価は1401.2円から1923円(株式分割の調整済み)に37.2%上昇した。
10位は日本電信電話(NTT)と大和証券グループ本社の2社が385.5点で並んだ。株価はNTTが2411.5円から3121円に29.4%上昇。大和証券は478円から658.6円に37.8%上昇した。
さて、10位までの計11社の株価はいずれも上昇していた。上昇率の平均値は31.0%。日経平均、TOPIXを上回ったのは8社、下回ったのは3社となった。
東洋経済CSRデータに基づいた評価上位企業と株価の動きを比較するという試みはこれまでも数多く行ってきた。だが、このように平均上昇率が日経平均などのインデックスを上回るのは、これまで15年以上分析をしてきたが記憶にない。
ESGの高評価企業に買いが集まるという、投資家の行動がこれまでとは変わりつつあることを感じる。これがブームで終わるのか、それとも継続的に続くものなのか、今後も注目だ。
ESG評価のさらなる発展のために
続いて、毎年恒例のGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)のESG指数構成銘柄のうち、東洋経済CSR調査には未回答で公開情報から調査した企業を見ていこう。MSCIが作成している2つのインデックスのうち、MSCIジャパンESGセレクト・リーダーズ指数に取り上げられている日本取引所グループ、東武鉄道、キーエンスの3社をご紹介する。
いずれも東洋経済CSR調査に回答はなく、公開情報から下記の『CSR企業総覧』2021年版掲載情報を作成している。
『CSR企業総覧』(東洋経済新報社)。書影をクリックすると東洋経済STOREのサイトにジャンプします
日本取引所グループ(143.4点)は694位。昨年754位から上昇した。企業統治56.3点、人材活用42.4点と依然低いものの少しずつ上がっている。株価は2020年8月末の2748円から2774円と0.9%上昇している。
続いて東武鉄道は702位(140.3点)。新型コロナの影響もあり業績は急激に悪化。こうした影響もあったためか株価は3310円から2866円と13.4 %下落した。最後にキーエンスは82.2点の812位と評価は低いものの、株価は4万3680円から6万4270円と47.1 %上昇した。
この3社は公開情報も十分ではなく、われわれの評価は高くない。ところで、こちらはサンプルとして提供している今回4位でCSR企業ランキングでは3位の富士フイルムホールディングスの掲載ページだ。情報の差は歴然としている。
ESGの評価は、アンケートや公開情報などで集めた情報に基づくのが基本だ。東洋経済は『CSR企業総覧』という刊行物でそのベースとなる情報を示している。評価する側は最低限こうした利用情報は開示すべきではないか。そうすることで、評価手法について関係者の議論も深まりESG評価のさらなる発展につながるはずだ。