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長引くコロナ禍で、酒類提供を制限する動きが続いていますが、緊急事態宣言やまん延防止等重点措置の対象になっていない地域では必ずしも制限されていません。

そんな中、「対象外の地域なのに、居酒屋に飲みに行ったら会社から減給処分を受けた」という相談が弁護士ドットコムに寄せられました。

相談者の会社では独自ルールとして、居酒屋に行くことや他人と外食することが禁止されています。相談者は、居酒屋に行ったあと、「給与の30分の1」を減らすという処分を受けました。

相談者としては、会社のルールに反していることは認識していますが、処分に不満があるようです。今回のケースで、減給処分は許されるのでしょうか。そもそも、ルール自体も妥当なのでしょうか。企業法務に詳しい島田直行弁護士に聞きました。

●労働契約で社員の私生活は縛れない

--相談者は処分されたことに納得していないようです。会社が居酒屋に行くことなどを禁止することはできるのでしょうか。

今回のケースの問題点は、(1)会社による社員の私生活への介入の可否、(2)懲戒処分の是非ということになります。

会社と社員の関係は、労働契約に基づくものです。会社は、社員の私生活まで労働契約に基づき指示することはできません。

新型コロナの感染拡大防止という目的が正当であっても、会社は、原則として社員に法的拘束力をもって「居酒屋に行くな」と指示することはできません。あくまで社員に対して外出を控えるように促すことができるだけです。

「感染防止のためなのに指示できないのはおかしいのでは」と違和感を覚える方もいるかもしれません。ですが、道義的責任と法的責任は、はっきり区別して判断されるべきものです。そうしなければ「同調圧力に応じないから処分される」という恣意的な判断がなされる危険があるからです。

--業種などによって事情が異なるようにも思えます。

はい、業務によっては、感染により社会に与える影響が大きいものもあります。たとえば公共交通機関の運転者などです。

このようなケースでは、居酒屋への外出を禁じることはできなくても、外出時の報告義務など感染拡大を防止するための実効的措置を課すことはできると考えられています。

●減給処分には厳格な制限がある

--課された措置に違反した場合、懲戒処分を受けるのは仕方ないのでしょうか。

いえ、仮に会社が何らかの措置を指示できたとしても、違反行為に対する懲戒処分の可否は別の問題です。懲戒処分は、根拠が定められており、かつ社会通念上相当と評価されるものでなければなりません。

そうした観点からすると、会社の指示に反したから直ちに「給与の30分の1を減らす」という処分が相当とは限りません。社員にとって賃金は生活の糧となるものです。会社が自由に減給処分ができるとなると、社員の生活が破綻しかねません。

--減給処分が妥当かどうかはどのように判断されるのでしょうか。

労働基準法91条は、懲戒処分としての減給について厳格な制限を定めています。

おおまかには、(1)就業規則に減給理由などが明示されていること、(2)1回の減給額は平均賃金の1日分の半額より少ないものとすること、(3)複数回の減給処分があっても減給総額は(月給の場合)月額賃金の10分の1を超えないこととされています。

今回の減給処分についても、具体的な根拠もないまま恣意的に実施されたのであれば、違法な懲戒処分と評価される可能性があります。

--減給処分を争いたい場合、どのような方法が考えられますか。

減給処分の是非について会社との話し合いで解決しない場合には、裁判手続を活用するのもひとつです。ただし時間とコストがかかります。

早期の解決を目指すのであれば、各都道府県の労働局に申し出を行い、「紛争調整委員会によるあっせん」を活用するのもひとつです。

【取材協力弁護士】
島田 直行(しまだ・なおゆき)弁護士
山口県下関市生まれ、京都大学法学部卒、山口県弁護士会所属。著書に『社長、辞めた社員から内容証明が届いています』、『社長、クレーマーから「誠意を見せろ」と電話がきています』『社長、その事業承継のプランでは、会社がつぶれます』(いずれもプレジデント社)、『院長、クレーマー&問題職員で悩んでいませんか?』(日本法令)
事務所名:島田法律事務所
事務所URL:https://www.shimada-law.com/