プロ3球団で活躍した林昌範さん(右)と元テレビ東京アナウンサーの亀井京子さん夫妻【写真:編集部】

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プロ3球団で活躍した林昌範さんと元テレビ東京アナウンサー亀井京子さん夫妻

 野球少年に限った話ではないが、子どもの小食に悩む母、保護者は多い。“野球ママ”でもあるフリーアナウンサー亀井京子さんもその1人。「心が病んでいく時もありました」と苦しかった思いを吐露した。夫は巨人、日本ハム、横浜DeNAで活躍した長身左腕・林昌範さん。父のように大きく育ってほしい――。母の切なる願いから、ひとつのアイディアが生まれた。子どもたちが大好きなアイスに目をつけた。

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 楽しい食卓のはずが……愛息の目から涙がこぼれていた。長男が3歳の頃、他の子よりも食が細いことに気がついた。小食の子の原因は人それぞれ。出されたものを食べない、食わず嫌い、食事そのものに興味がない、食事の時間が嫌……。最初は無理やり食べさせようとしたが、長男にとって、それが苦しい時間となっていた。

「小学5年生になった今、息子の胃袋は大きくなりましたが、全く食べなかった当時は『いっぱい食べなさい』と言い続けていました。私としては成長期を逃してほしくないという思いだったのですが、息子は半泣きになっていました。ご飯を『罰ゲーム』と言われたこともありましたね」

 京子さんはアスリートフードマイスターの資格を持っており、現役時代の林さんを支えてきた。選手が受診する血液検査の結果を見て、食事から数値を改善。筋肉の修復や疲労の回復の速さを高めてきた。食べ物がスポーツ技術の向上、体の成長に大きく影響することを感じていた。野球選手の妻として、やりがいがあったのも事実だ。

 今度は子どもにも――。しかし、そううまくはいかなかった。

「幼稚園の時は作ったお弁当も食べませんでした。先生からは『子どもに食べきった達成感を与えてほしい』からと、普通のお弁当箱ではなく、フルーツを入れる用の小さい入れ物にご飯を入れた時期もありましたね」

 母親としての責任感から、苦悩する日々が続いた。食事が嫌いな長男がトイレに逃げ込んだり、食卓に1〜2時間座ったままで何も進まない。ご飯は食べないけど、お菓子やアイスクリームはものすごい勢いで食べる。しまいには、そのままグダグダになって……寝てしまう。

 可愛い我が子を怒りたくはない。でも、平常心でいられなかった。叱りつけてしまった自分に嫌悪感を抱いたこともあった。食のスイッチを探すのに苦労した。

 次第にラーメン、焼きそばといった子どもが好む麺類などは口に運ぶようになったが、母の苦悩は続く。子どもの偏食に加え、現代のママは忙しい。毎回の食卓に並べる料理の品数や質にも限界がある。豊富なタンパク質やミネラル、鉄分などを含んだバランスの良い食事を作ってあげたいが、そうもいかない。夏場、そうめんやラーメンなど冷たい麺だけで食事を済ませた日は「ほとんどが糖質なので、ごめんなさい、と心の中で言っていました。罪悪感がありました」と自分を責める日々だった。

「主人が大きい(186センチ)ので、どこかで(大きくなるだろうと)油断があったのかもしれません。私も小さい方ではないですし……。本などを読むと体の大きさに遺伝子はそこまで関係していないんだということにも気づきました」

 食への興味を持たせるために、家族で味覚狩りや稲作の体験にも出かけた。京子さんがその次に目を向けたのは栄養補助食品だった。粉末状のカルシウム、ビタミンDの成分を牛乳に溶かし、飲ませ始めてみたが、長くは続かなかった。正しい知識を持って、ジュニアプロテインも試した。商品によっては気にならないものがだいぶ増えてはいるが、長男は独特な匂いに過敏に反応。摂取することを拒み続けた。

元プロ野球選手の夫の考え「汗をかいた後、さっぱりとしたアイスを食べたい」

「少しずつではありますが、家でお好み焼きやドーナツを作るときに、水ではなくて、できるだけ絹豆腐を入れるようにして栄養について気を配るようになりました」

 時間の経過とともに少しずつ食生活は改善されていった。そして、長男は父の背中を追いかけて、野球を始めた。かつて、テレビ東京でアナウンサーと活躍した京子さんは、今では土日にグラウンドへ出かけ、少年野球に「感謝しかありません」というほど、夢中だ。送り迎えにお弁当作り。試合の応援がとても楽しい。

 一人の保護者として活動していると、自分だけなく、子どもの身長を伸ばしたいなど、「食の悩み」を抱える人が多くいることを知った。

「ママたちの話題は子どもの体のことが多いですよ。ただ大きくすればいいの? 太らせないといけないの? とか、意見が出ます。最近はサプリメントとかプロテインとかの情報交換などもしますね」

 そこで参考になったのが、元プロ野球選手だった林さんの経験談だった。現役時代、夏場、食欲が落ちる時期の体づくりに苦労した林さんは「練習や試合後に食事をして、アイスに手を伸ばしたくなる。でも、選手としては罪悪感がある。汗をかいた後には、さっぱりとした感じがほしい」と話をしたことがあった。

 京子さんは動いた。知人に有名外資系ホテルのレストランや人気アミューズメントパークなどのアイスクリーム、ジェラートを手掛けている職人がいたため「プロテイン入りのアイスができないか」と相談を持ちかけた。試作を繰り返し、大量生産のできないハンドメイドのアイスの開発に成功。ジェラートブランド「Karadaneeds(カラダニーズ)」を立ち上げた。

 DeNAでチームドクターを務めた金沢八景整形外科・山川潤医師が監修し「アスリートプロテインジェラート」「こども成長サポートジェラート」が完成。抹茶、チョコバナナなどのフレーバーがあり、タンパク質のプロテインを摂取できる。1カップに牛乳約1・5杯分くらいのタンパク質が入っているという。脂質もできるだけ減らした。その他、宮坂厚弘歯科医師監修で歯の健康を考えたキシリトールジェラートや美容成分が配合され、健康・美容に特化した機能性ジェラートの販売までこぎつけた。

試行錯誤の連続、独特な匂いがなかなか消えずに苦労したが味には自信

「実は1回目の試食は絶句したんです(苦笑)。息子が苦手だったプロテイン特有の匂いが消えなくて……。でも、カカオの種類や配分を変えると消えました。フレーバーによっては全くしません」

 小食の長男も「これなら食べられる」と喜んだそうだ。現在、オンライン販売のみだが好評で子どもからプロアスリートまで広い世代の手に届くことを願っている。

 林さんは体づくりが資本のプロ野球選手としての気持ちも伝えたいという。自身も食事を改善したことでパフォーマンスも向上した経験がある。一方で最後は怪我で苦しみ、ユニホームを脱いだ。だからこそ、小さい頃から「食育」への思いが強い。

「息子もそうですが、男の子は上から押さえつけられる言い方をされるのが嫌いです。妻の姿を見ているときに心の中ではそう思っていました。でも、自分は厳しい現実を知っているつもりです。体ができていないと野球の技術が伴っていかないと気づいて、栄養を摂取するようになりました。小さい子には難しいかもしれませんが、自主的に栄養について考えて動く、このアイスが必要なんだ、と感じてもらえるようになればうれしいです」

 開発されたアイスには、子どもの成長を願う親の愛情とアスリートが育ってほしいというエッセンスも含まれていた。(Full-Count編集部)