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 コロナ禍になって、ちょっとだけ良いことがあるとすれば、行列店に並ばずに入れるようになったこと。こんなことを軽々しく言うと怒られるかもしれませんが、実際問題、いつ行っても行列で入れなかった店に、今はスッと入店できることが多くなりました。並ぶのが嫌いな筆者にとっては、これはかなりラッキーな状況です。

 そこで、これまで行きたくても並ぶのが面倒で敬遠していた店に行ってみようと、先日、荻窪の行列ラーメン店の代表格『荻窪中華そば 春木屋』に向かったのですが……筆者の考えは甘すぎました。荻窪駅前の店の前は、ご覧の通りの行列。平常時よりは少ないのかもしれませんが、それでも10名ほどが並んでいます。

平日でも行列している『春木屋』

 並ぶべきか、迷いました。そもそも荻窪はラーメンの聖地。美味しいラーメン屋さんは他にもたくさんあります。ただ、今回は行列店の『春木屋』を目指してきた上に、昔ながらの「中華そば」を食べたいモードになっているので、美味しければなんでもいいと言うワケにはいきません。

 そこで、スマホで「荻窪 中華そば」などとキーワードを入力して調べてみたところ、ラーメン店がズラリと出てきた中に、『春木家本店』と言う文字を見つけました。ん? 「屋」と「家」が一文字違いますが、同じ「ハルキヤ」です。なんだこれ?

 そう、荻窪には、実は『春木屋』と『春木家』の2店舗があるのです。ラーメン好きの人や荻窪住みの人にとっては「そんなことも知らなかったの?」という程の常識的なことなのかもしれませんが、筆者は恥ずかしながらこの時初めて知りました。

こちらは『春木家本店』

 よし、じゃあその『春木家本店』に行ってみようじゃないか、と方向転換。歩き始めると、荻窪駅北口から徒歩10分ほどの住宅街にお店がありました。店の前には、「Since1931」(昭和6年創業)、「現存する最古の東京ラーメン」と書かれています。

『春木家本店』は1931年創業

 駅前の『春木屋 荻窪本店』(昭和24年創業)より、『春木家』のほうが歴史が長いこともわかりました。しかもその日は店前に行列はゼロ。これはラッキー! というわけでさっそく入店です。

荻窪ラーメンの原点を体験する

店内はお蕎麦屋さんの雰囲気

 店に入ってみると、中央に大きなテーブル席があり、4人がけのテーブル席やお座敷もあります。いわゆる今どきのラーメン屋さんとはちょっと趣が違います。しかもメニューもお蕎麦やうどん、そして天丼・カツ丼といった丼モノ、一品料理などもあり、その中に「中華そば」が混じっています。

 そうです。『春木家本店』は、実はラーメン専門店ではないのです。

『春木家本店』のメニューはこんな感じ

 一瞬、蕎麦も食べてみたいと思いましたが、今回はやはり醤油ラーメンを食べる気満々だったので、“最古の東京ラーメン”と謳っている「中華そば」(720円)を注文。5~6分ほどで登場したのがこちらです。

「中華そば」720円、煮卵100円をプラス

 濃い色の醤油スープ、細い縮れ麺、三角形に飛び出した海苔、メンマ、そして厚切りのチャーシュー。加えて、今回は煮卵をプラスしたので、ひと目で味が染みまくっているとわかる白身&黄身も鎮座しています。これぞザ・中華蕎麦。思わず立ち上がって拍手したくなるほどの美しいビジュアルではありませんか。

縮れ麺がスープを絡め取って、美味しいのなんの

 細く縮れた自家製の細麺を箸で持ち上げると、手仕事による繊細さを感じる縮れ具合。麺をすするたびに鼻に小麦の香りが抜け、そこに魚介出汁の芳香とコクが追随してくるのです。「ウマッ! これスゴい! さすが!」と何度も心の中で叫びたくなるほどの美味しさ。

大判のチャーシューが1枚入っています

 チャーシューは肉厚で、しっとり柔らか。ちゃんと味が染みています。麺も具材も食べ尽くし、あとは、スープに残るネギを追いかけてレンゲを動かします。まさに永遠に飲みたくなるようなスープ。しみじみと旨い。

醤油のまろやかな味がたまりません

 帰り際に、レジでお店のご高齢のおばちゃんに、「とても美味しかったです」と伝えると、「ああ、ホント? よかったわ~」と言われ、少し言葉を交わしたのですが、やはりこの店こそが“荻窪ラーメンの発祥”の店であり、『春木屋』さんとは親戚関係だとわかりました。

 ともあれ、『春木家』が、創業90年経った今もなお、その荻窪ラーメンのレベルを押し上げている……そう思うと感動しきり。というわけで、皆さんもぜひ、『春木家』の中華そばを食べてみてください。筆者は次にここの蕎麦を食べてみたいと今からワクワクしています。

(撮影・文◎土原亜子)

●SHOP INFO

店名:春木家本店

住:東京都杉並区天沼2-5-24
TEL:03-3391-4220
営:11:00~15:00、17:00~21:00
  土日祝11:00~20:30(LO)
休:木曜
http://harukiyahonten.jp