折れた木製バットの意外な再利用法とは…【写真:荒川祐史】

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野球少年少女にも伝えたい、プロ選手の道具の向き合い方【バット編】

 プロ野球を見ていると用具に対する疑問が出てくることはないだろうか? 長年、NPB球団で用具担当などを務めた“裏方のプロ”に選手がどのように用具と向き合っているかを聞いた。元巨人の選手でスタッフとしてチームを支えてきた大野和哉さんからは、折れたバットの使い道をはじめ、選手やバット職人への思いが伝わってきた。【楢崎豊】

 選手を支える“裏方”として、各球団に用具担当のスタッフがいる。練習や試合に必要な野球用具を管理し、準備する。選手がグラウンドに出る前から動き出し、試合が終わると、グラウンドやロッカー、道具の片付けをするなど、仕事は多岐に渡る。“縁の下の力持ち”は野球に取り組む上で大切なことを教えてくれた。

 大野さんは1990年ドラフト外で巨人に投手として入団。外野手に転向し、96年に1軍初出場を果たした。99年の現役引退後からブルペン捕手やチームマネジャー、用具担当、副寮長などを歴任。裏方としてチームを支え、日本一にも貢献した。

 今回はバットについての話を聞いた。野球ファンからの質問でよく耳にするのが、折れた木製バットの行方だ。野球経験者ならば分かるが、まずはどういう状況でバットは折れるのか説明してもらった。

「ボールが(グリップ付近に当たり)詰まってしまうか、先端に当たった時、この2点だと思います。投手の立場からすれば、打ち取るためにバッターを詰まらせたい、芯に当てさせないようにしたいと直球や変化球を投げ分けてくるので、そういうことが起きます」

 力と力のぶつかり合い。一流投手と一流打者の対戦でも見られることがある。折れたバットは自身で持ち帰ったり、または球場やチームスタッフが拾いに来ているところをよく見る。

折れたバットは箸の製造メーカーに送るという

「まずは、球場のボールボーイがベンチ裏に持ってきてくれます。そして、私のような用具担当が回収します。事前に『折れたバットは自分のところに戻して欲しい』という選手もいるので、ビジター球場で起きた場合は東京ドームに持って帰ります。その他の場合は、兵左衛門(ひょうざえもん)さんという会社に送っています」

 兵左衛門とは箸の製造、卸し、販売の老舗メーカー。球団スタッフが運送会社に委託して、平均して1度に30〜40本くらい集まったところで専用ケースに入れて、送る。練習でもバットが折れたりもすることもあるため、1軍ならば、約2か月に1度のペースでそれくらいは集まるという。

「箸以外の使い方としては、ロッカーに置いておく人もいますね。プロの選手はバットに自分の名前が入っていますから、折れた部分を、テーピングで巻いて、繋ぎ合わせて、サインを書いて、メーカーさんに返している選手もいます」

 キャンプなどで折れたバットをファンにプレゼントする時も、一度、ベンチに戻し、テーピングで巻いている。持ち帰る際にけがをしてしまう危険性もあるため、最大限のケアをする必要がある。また、メーカーからスポーツ用品店に渡り、店内に飾ってもらうケースもある。そこには選手やメーカーからバットを作ってくれた職人への感謝の気持ちが込められている。

 箸やサインバットだけに変わるのではない。実際に大野さんが自宅で使っている写真を見せてもらいながら、説明してもらった。

折れたバットが靴べらに大変身、無駄にしたくない職人の技術

「自分は現役時代に使っていたバットは、靴べらになりました。メーカーさんにお願いして、今でも大切に使っています。捨てるくらいならば、スポーツメーカーさんに相談してもいいと思います」

 バット1本作るのに、どれだけの人の力と時間がかかっているかは、身を持って感じている。プレーヤーでなくても、野球に携わる人間として、それを失うことはない。

「主力選手になればなるほど、大事にしていると思います。梅雨時になれば乾燥剤を使ったり、ネットに掛けて干しておいてください、と頼まれたりしたこともありました。5グラム、10グラム、いや、1グラム単位の重さにこだわりや、繊細な感覚を持っています。選手も一流。バットを作る人も一流ですから」

 よくベンチでグリップを拭いている選手を見かける。滑り止めのスプレーが付着していたり、汚れやほこりがついていると、グリップの太さが変わり、感覚もずれて、バッティングに影響することもあるという。「選手も一流、作る人も一流」――高い技術はこのような感覚から生まれてくる。

「バットは大事な資源ですし、名人と呼ばれる作り手さんがいます。その人の思いが1本、1本に込められています。無駄にはしたくないです。例え折れても、リサイクルというか、魂のこもったものはいつまでも長く使ってほしいです。バットはボールを打つ道具です。ふざけあうものではないし、雑に扱って欲しくないですね。子供たちにも大切にしてもらいたいなと思います」

 折れたバットは生まれ変わることができる。形が変わったとしても、使った記憶とともにずっと心に残るものであってほしい。(楢崎豊 / Yutaka Narasaki)