ブルペン入りした楽天・松井裕樹【写真:荒川祐史】

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田中同様、大声を上げながらブルペン投球

 楽天に8年ぶりに復帰した田中将大投手が6日に沖縄・金武キャンプへ合流してから1週間余り。若手に積極的にアドバイスを送る姿が印象的だが、とりわけ言葉を交わすことが多いのが7歳下の松井裕樹投手だ。松井は田中将と入れ替わる形で2014年に楽天入団。これまで一緒にプレーしたことはなかったが、1年目のオフから毎年自主トレをともにしてきた“一番弟子”といえる存在だ。

 14日の練習中には田中将と組んで約70メートルの急こう配を駆け上がる“坂道ダッシュ”に取り組んだ。数メートル前からスタートした田中将を、松井があっという間に抜き去るシーンも。2人がクールダウンしながら肩を並べて会話しながら坂を下りてくる光景は、高校の部活動の仲の良い先輩・後輩といった雰囲気だった。

 田中将の復帰が決まった時から「近くにいてくれることで学べる時間が増える」と喜んでいた松井。実際に「昨日(13日)、ブルペンに入る前にお話をさせていただいて、お陰でいいブルペンになりました」と明かす。「この時期の過ごし方、練習の成果に対するメンタル、マインドの持っていき方について言葉を頂き、気持ちがすごく楽になりました」と言う。

 田中将はブルペンで捕手、審判、バッター役として打席に立つブルペン捕手らと意外に多くの言葉を交わす。納得のいかないボールが行けば、大声を上げて悔しがることも多い。松井も13日のブルペンでは、自分の投球と会話するかのように言葉を発していた。

 途中、西武の大砲メヒアを右打席に迎えたことを想定し、6球連続でフォークを投じた。最初は「今のは右中間スタンドだ、完全に」とうなだれ、続いては投球前に「メヒア…浮いたら終わる」と自分に言い聞かせるようにつぶやき、絶妙の高さに決まって周囲から「ナイスボール!」と称賛の声が上がると、「今のは振るわ。わかったぞ。思い出した!」とうなずいた。最後は「キタ〜! メヒア三振した、今!」と叫んでいた。

捕手に要望することで「もっといいバッテリーになっていける」

「本当に『思い出した』という感覚でした。シーズンオフにいつの間にか、ある程度挟んで投げれば落ちるだろうと漠然に思ってしまっていたのですが、6球続けたことによって、いい感覚が戻ってきました」と説明。ブルペンでも1球1球に魂を込めるストイックな姿勢が、田中将に重なってみえた。

 また、このキャンプでは、田中将が捕手陣に「ミットの音は気にしなくていいから、際どいコースをストライクに取ってもらえるようなキャッチングをしてほしい」と要望したことが話題になった。日本では捕球の際、ミットで「バシッ」と高い音を鳴らし、投手を乗せることも捕手の技術とされている。しかし、メジャーではほとんど関心がなく、際どいコースをいかにストライクに見せるかという「フレーミング」が重視される。

 松井は「僕はミットの音が鳴った方が気持ちいいですが……」とした上で、「それぞれの投手が何を一番にやってほしいのかを捕手に理解してもらえたら、もっといいバッテリーになっていけると思います」と、捕手とのコミュニケーションが増えることを歓迎した。

 一昨年38セーブを挙げて「最多セーブ投手」のタイトルを獲得したが、昨年は自らの希望で先発転向。今季はチーム事情もあって再び抑えの役割を担う。守護神復活に向けて、田中将の存在が心強い支えになっていることは間違いない。さらに“田中効果”は投手陣全体に広がろうとしている。(宮脇広久 / Hirohisa Miyawaki)