新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は呼吸器系の症状を引き起こすだけでなく、血液や心臓・肺・腎臓などの主要な臓器に影響を与えるほか、脳組織に損傷を及ぼすケースも報告されています。新たな研究により、COVID-19にかかった男性の生殖能力が低下する可能性があると示されました。

Evaluating the impact of COVID-19 on male reproduction in: Reproduction Volume 161 Issue 2 (2021)

https://rep.bioscientifica.com/view/journals/rep/161/2/REP-20-0523.xml

COVID-19 and male reproductive function: a prospective, longitudinal cohort study in: Reproduction - Ahead of print

https://rep.bioscientifica.com/view/journals/rep/aop/rep-20-0382/rep-20-0382.xml

Men May Be Less Fertile in The Aftermath of COVID-19 Infection, Scientists Warn

https://www.sciencealert.com/researchers-warn-men-could-be-less-fertile-in-the-aftermath-of-a-covid-19-infection

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)は人の細胞内に侵入する際、アンジオテンシン変換酵素2(ACE2)と呼ばれる酵素を利用することが知られています。ACE2は人体の広範囲に存在し、特に肺・胃腸・心臓に豊富に存在するほか、男性では精巣にもACE2が高い割合で存在するとのこと。そのため、「睾丸(こうがん)にSARS-CoV-2が隠れることにより、男性ではCOVID-19が重症化しやすい」という仮説も唱えられています。

「睾丸」が原因で男性の新型コロナウイルス感染症が重病化しやすいという仮説 - GIGAZINE



中国・武漢にある華中科技大学の研究チームは、SARS-CoV-2が男性の生殖能力に影響を与える可能性について、既存の研究を分析することで調査しました。その結果、COVID-19の影響で出生率が低下したとは断言できないものの、「私たちはCOVID-19から回復中の男性患者を追跡する緊急の必要性があると提案します」と述べ、SARS-CoV-2が生殖能力の低下を引き起こす可能性には細心の注意を払うべきだと研究チームは主張しています。

また、ドイツのユストゥス・リービッヒ大学ギーセンとイランのアッラーメ・タバータバーイー大学の研究者は、COVID-19と診断されて回復に向かった84人の患者から精液を採取し、健康な105人の対照群から採取した精液と比較する研究を行いました。

両者の精液は10日間隔で約60日間にわたり採取され、精液中のACE2活性度や精子の炎症および酸化ストレスのマーカー、精子の質について分析が行われました。その結果、両者の間には明らかな違いが見られ、COVID-19と診断された男性では精液のさまざまな面に問題が生じていたとのこと。

たとえば、COVID-19にかかった男性では同年齢である対照群の男性と比較して、精子の炎症と酸化ストレスのマーカーが2倍以上も増加していることが判明しました。また、COVID-19陽性の男性では精液の量、精子の運動性、精子の数、精子の濃度といった面でも、健康な男性より大幅に劣っていることがわかったそうです。



ユストゥス・リービッヒ大学ギーセンのスポーツ科学者であるBehzad Hajizadeh Maleki氏は、「精子細胞に対するこれらの影響は、精子の質と生殖能力の低下に関連しています」と指摘。精子の質への影響は時間と共に改善する傾向があったそうですが、それでもCOVID-19患者の生殖能力に対する影響は持続的であり、悪影響の度合いはCOVID-19の重症度に関連していたと述べています。

今回の研究結果は60日間にわたってCOVID-19から回復した男性を追跡しましたが、それ以上の期間で男性にどのような影響があるのかは不明です。研究チームは、今回の研究から導き出された結論を検証してCOVID-19が男性の生殖能力に与える影響を正確に評価するには、より広範な研究と追跡が必要だと主張しました。