若い星の周囲で形成されるガス惑星を描いた想像図(Credit: ESO/L. Calçada)


理化学研究所の大橋聡史氏らの国際研究グループは、惑星がこれまでの予想よりも早い段階で形成され始め、恒星とともに成長する可能性を示した研究成果を発表しました。研究グループでは、従来は恒星が形成された後に惑星が形成されると考えられてきたものの、今回の研究成果はその理論に疑問を提示するものであり、近年若い星の周囲で見つかっているリング構造も説明できるとしています。


■若い原始星円盤で見つかったリングの場所が分析結果と一致

ガスや塵が高い密度で集まった分子雲が自らの重力で収縮し始めると、原始星が形成され始めます。原始星は回転しながら落下していくガスや塵に取り囲まれていて、その一部は星の周囲で原始星円盤と呼ばれる構造を形成します。原始星円盤も周囲のガスや塵を集めて成長しますが、やがて原始惑星系円盤と呼ばれる段階になると成長が止まり、その中で惑星が形成され始めると考えられてきたといいます。


ところが、チリの電波望遠鏡群「アルマ望遠鏡」などによる近年の観測により、形成され始めたばかりの原始星円盤において惑星の形成を示唆するリング状やらせん状の構造が見つかっており、従来の想定よりもずっと早い段階で惑星が形成され始めている可能性が示されていたといいます。そこで研究グループは、惑星の材料になる塵どうしの付着成長過程をシミュレーションで再現しました。


シミュレーションで再現された「塵の成長前線」が内側から外側に広がっていく様子。オレンジ色のリング内側では塵の付着成長が進み、外側では進んでいない。円盤形成開始からの経過時間は左から6400年、1万3000年、2万6000年(Credit: 理化学研究所)


研究グループによると、原始星円盤の塵は惑星と同じように星に近い内側ほど速く外側ほど遅く運動(ケプラー運動)していて、内側にある塵のほうが付着しやすく、外側ほど時間がかかるといいます。こうした星からの距離で変わる付着成長時間の違いを考慮して分析した結果、塵の付着が進んでセンチメートルサイズまで成長した内側と成長が進んでいない外側との境界がリングとして観測され(研究グループは成長前線と表現)、時間とともにリングが内側から外側へと広がっていくことが判明したといいます。


また、これまでにアルマ望遠鏡やアメリカの「カール・ジャンスキー超大型干渉電波望遠鏡群(VLA)」による観測で発見された23個の円盤と今回の分析結果を比較したところ、形成開始から100万年未満とみられる若い原始星円盤で観測されたリングの場所が、研究グループのシミュレーションで示された成長前線と一致したといいます。


研究グループは今回の結果について、惑星の形成開始が従来考えられていた時期よりもずっと早い可能性を具体的なシミュレーションモデルによって示すものであり、惑星形成に関する理解を大きく変える可能性があるとしています。


惑星形成に関する従来のモデル(左)と今回の研究で示された新しいモデル(右)。従来は円盤が成長してから惑星が形成されると考えられていたが、今回の研究では原始星や円盤が成長している頃から惑星形成が始まるとしている(Credit: 理化学研究所)


■450光年先の原始星円盤で見つかった「塊」も説明可能

研究グループが特に注目したのは「おうし座」の方向およそ450光年先にある原始星「IRAS 04368+2557」です。この原始星は星そのものが成長途中であり、その周囲にはやはり成長中の原始星円盤が存在することが判明していますが、アルマ望遠鏡やVLAによる最近の観測において原始星から15天文単位(※)ほど離れた場所に2つの塊が検出されているといいます。


※…1天文単位=約1億5000万km。太陽から地球までの平均距離に由来する


研究グループでは、今回のシミュレーションで示された塵の成長前線のリングを横から観測していると仮定すれば、IRAS 04368+2557の周囲で検出された塊を説明できると考えています。検出された2つの塊はIRAS 04368+2557から半径15天文単位以内の領域において塵の成長が進んでいることを示唆しており、研究グループは成長途中の円盤で惑星形成が始まっている様子を示すことができたのは初めてのことだとしています。


原始星「IRAS 04368+2557」周囲の実際の観測結果(左)と今回の研究におけるシミュレーションモデルの比較。リング状に広がっていく塵の成長前線(右)を横から見ている(中央)とすれば、原始星(☆印)の上下に検出された塊を説明できるという(Credit: 理化学研究所)


 


Image Credit: ESO/L. Calçada
Source: 理化学研究所
文/松村武宏