離れている家族の訃報。それも、一人暮らしをしている親だとしたら…? 日頃から気にかけていたとしても、そんな突然の知らせがいつか届くかもしれません。

一人暮らしをしていた父が孤独死したというライターの長根典子さんが、突然のことにどう対応をしたのか、つづってくれました。


離れて一人暮らしをする家族が亡くなったという知らせ。遺族はどう対応すれば…?(※写真はイメージです。以下同)

一人暮らしの父が亡くなったとの知らせ。突然のことに娘が一人で対応してきたこと



一人暮らしの父は2年前の夏、2018年7月3日に73歳で自宅で亡くなりました。
父の家は私の家から車で30分ほど離れた場所にあり、私は自宅で仕事をするライター。母は5年前にすでに亡くなり、唯一の家族である姉も遠方に住んでいるため、自然と最初の対応は私の役目になりました。

自宅で亡くなるとその後の対応は正直大変でした。今回は当時のことについて、お伝えしていきたいと思います。

●父が自宅で亡くなった。だれが警察に連絡するもの?



「お父さん亡くなったから。すぐヘルパーさんに連絡して」

事の発端は、遠方に住む姉からの電話でした。父の家に通っているヘルパーさんから「お父さんが亡くなっているので、すぐ来てください」と連絡があったと、興奮した口調で電話してきました。

「近くにいる妹(=私)もすぐには行けないから、警察に電話してってお願いしたんだけど、ヘルパーさんは家族から警察に電話してほしいって」

姉から急ぎ教えられたヘルパーさんの番号に電話すると、「警察や救急隊へは家族が連絡するよう規則で決まっている」とのご説明が。
母が亡くなる直前に在宅療養をした際にも、看護師さんは救急車を呼べない規則だと説明されたものでした。

●すでに亡くなっていたら、救急車か警察か?どちらを呼ぶべき?



私の自宅から車で30分強かかる父の家に着いたのは連絡を受けてから小一時間後。なにはともあれ父の寝室に上がりました。強烈な尿の臭いが鼻につきます。亡くなるといろいろなものが体から流れ出すのだと、どこかで読んだのを思い出しました。

ベッドに横たわった父は口を少しあけたまま目を閉じており、顔色は真っ白。一目で絶命していることがわかりました。

救急車を呼ぶか警察を呼ぶか迷う場合は、救急車を呼ぶそうです。そこで完全に亡くなっている場合は救急隊はなにもせず、警察を呼び直すという流れなんだそうです。今回は、ヘルパーさんがご自身の判断で警察に電話をしてくれました。

●警察による現場検証開始。発見者のヘルパーさんに目を向けられて…



警察官2人が到着したのは、私が父の家についてから30分ほど後のことでした。ざっと遺体を確認してから1人は先に帰り、1人が残ります。「もう亡くなっているので、救急車は呼びませんがよいですね」と警察官。もちろん、異論はありません。

それから現場検証として、父の持ち物をチェック。警察官はものの多い家から父の手帳と財布をあっという間に見つけ出し、私の目の前で中を開きます。そこで見つけたレシートから、前日の父の動きを推測するのです。
「前日にスーパーに行って、鶏肉と解熱剤を買ってますね。熱があったので薬を飲もうとしたのでしょう」


そんな「推理」を目の当たりにして、若干テンションが上がってしまったことは正直に告白します。最後に私とヘルパーさん、2人一緒に色々な質問を受けました。

警察官が一番気にしていたのは、当日どうやってヘルパーさんが家に入ったのかでした。たしかに父は亡くなっていたのですから、父の遺体をどうやって「発見」したのか経緯が気になります。
と、いいながらも、真相は父がヘルパーさんの訪問日にはあらかじめ鍵をあけておいた、とのことでした。

「朝は起きられないので勝手に入ってくださいと、言われていたのでこれまでもそうしていたんです」(ヘルパーさん)

不用心この上ありませんが、仕方がなかったのでしょう。なにより具合が悪いのに娘の私に電話をかけてこなかったことが、なんとも切ない話でした。

最終的に父の死因は熱中症と判断されました。真夏にも関わらずエアコンがついていなかったこと、遺体の体温が37度もあったこと、アルコール臭があったこと、前日に熱が出ていたらしいことなどから、導き出された結果でした。

●だれが遺体を警察まで運ぶのか?



現場検証の次は遺体を警察に運び、「死体検案書」をつくってもらうことになります。死体検案書は医者でもらう「死亡診断書」と同じで、遺体の埋葬に必須の書類です。
ところが警察では遺体の運搬までは行わないので、自分で遺体を運んでほしいと言うのです。

「え、父を私が自分で運ぶんですか?」
「いやいや葬儀屋さんに頼むとやってくれます」

すると警察官は1枚の紙を出してきました。それは葬儀社の連絡先リストで、最寄りの葬儀社のリストが書かれていました。
なるほどそういう段取りなのか…。だとすればお葬式もそこに頼むのが自然でしょうし、実際そのままお葬式もお願いすることにしました。

●一人暮らしだった父の遺体は自宅には戻さず



警察官が帰ってから約1時間後、葬儀社が到着し、手際よく父の遺体を運び出しました。警察での検死が終わるのを待って、死体検案書と遺体を再びこちらに戻してくれるのだそう。ちなみに死体検案書の発行には手数料がかかりますが、これもいったん立て替えてくれるとのことでした。

しかし、ここで問題発生です。その後、遺体を戻すとなると、父の暮らしていた家になります。祭壇をつくって毎日お線香をあげるのはもちろん、なにより当時は真夏。遺体が腐敗しないよう、葬儀屋さんに毎日来てもらい、ドライアイスを入れ替える作業があります。
私はライター業なので時間の融通がきくとはいえ、私も仕事をしているので毎日その作業に同席するのは厳しいものがあります。

すると葬儀屋さん、まさに手をポンとたたかんばかりにおっしゃいました。
「そういう方へのサービスとして、ご遺体のお預かりもありますよ。弊社でご遺体を葬儀までお預かりするんです」

そんなサービスまで用意しているとは…葬儀社さんは頼りになります。ただでさえ父が自宅で亡くなり、わからないことばかりだった私には、葬儀屋さんというプロが来てくれ、安堵の気持ちでいっぱいでした。

父の遺体を乗せて走り去る葬儀社の車を見送り、ひと休みしたいところでしたが、もうひと仕事残っていました。そう、父の布団です。あの尿を吸い取った布団をなんとかしなくては…。真夏の暑さのなか、時間が経つと大変なことになるのは目に見えています。

●「自宅死」ならでは、父の住んでいた部屋の整理




父の寝室に戻ってベッドを確認すると、ぱっと見はわかりませんが、布団が湿っていました。出たものすべて吸い込んだというわけです。

窓をあけて、ゴム手袋をつけます。夏だったので幸いにもかけ布団は薄い肌がけのみ。ただ足元に大きな毛皮が敷かれており、持ち上げると絞れそうなほど濡れていました。

毛皮やシーツ、布団を二重にしたゴミ袋にぎゅうぎゅう押し込みます。すぐに7つ袋ができあがり、捨てる場所もないのでそのまま積み上げました。いくらか臭いはマシになったのでしょうか。
色々片づけて気づいたのは、父が寝ていたベッドは電動式で、レンタル番号や連絡先が書いてあったこと。もしこのベッドがレンタル品だったとしたら、こんなに尿を吸い込んでしまって返却できるのでしょうか? 小さなことですが、処理しなければならないことがどんどん積み上がり、ひとりで憂鬱になっていました。

時計を見ると午後1時前。すでにここに来てから3〜4時間たっていました。とりあえず一回休憩をとることにして、姉にこれまでの経緯をLINEしました。

ところでヘルパーさんのお話で一番驚いたのは、父が若いときと変わらず、毎日晩酌をしていたことでした。50代で糖尿病になった父の飲酒を私はしばしばたしなめていたため、父は私には「飲んでいない」と言っていたのです。

父は支援の段階としては最も軽い「要支援1」の認定を取っていました。自分で歩け、車も運転していたので、介助よりヘルパーさんとの会話を心待ちにしていたようでした。寂しかったんだろうなと思ったものの、正直このときは、悲しみに暮れる余裕はありませんでした。

●離れて暮らす家族の孤独死でわかったこと



突然の家族の死は、わからないことが多く、バタバタと対応してしまいました。果たしてこの対応は正解だったのでしょうか。

・警察や救急車への電話は家族がするのが普通

この父の孤独死について大手葬儀社・公益社の1級葬祭ディレクター・安宅秀中さんに伺いました。ヘルパーさんなどを利用していた場合、警察や救急への通報は家族が行うのが多いとのことです。

「万が一体調不良の見逃しなどがあった場合、のちに係争になるのを防ぐ目的もあるんです。ご家族にとっては、第一発見者が通報してほしいところですが。また警察か救急かどちらを呼ぶのか迷う場合は、救急車を呼んでくださいね」(安宅さん)

・葬儀社は落ち着いてから探してもよい

もう一つは警察の対応について。警察の仕事は事件性がある・なしを判断することに絞られているため、遺族に対する説明は不十分なことが多いといいます。

「残念ながら、警察紹介の葬儀社が必ずしもよいとも限りません。緊急措置として検死と遺体の安置を依頼したのちに、落ち着いてから別の葬儀社を探しても問題ないですよ。葬儀社はプロなので、さまざまな相談に乗ってくれます」(安宅さん)

いざというときのために、知っておいたほうがよさそうですね。参考にしていただけると幸いです。

※ここで紹介した内容はあくまで一個人のケースになり、会社や地域によって当てはまらない場合もございます。

【長根典子さん】



1971年横浜生まれ。制作会社勤務、50代向けファッション通販誌副編集長などを経て、フリーランスライターに。1人息子とプラハへ移住するもコロナ禍で帰国。ビジネスや投資のほか、子育て、ライフスタイル、ファッションなどの分野でも執筆。著書に『成長する組織をつくる目標管理
』(労務行政)、『誰が司法を裁くのか
』(リーダーズノート新書)など。趣味は英語、FX、アート。