トランプ大統領はいまだ敗北を認めることなく、選挙に不正があったと主張し、抵抗を続けている。日本での報道は断片的で、現地で何が起こっているのかを理解するのは難しい。『なぜヒラリー・クリントンを大統領にしないのか?』(講談社+α新書)などの著作で知られ、NY在住46年のジャーナリスト・佐藤則男氏が、現地で直接触れてきたアメリカ人の懊悩を、プレジデントオンライン読者のために特別レポートする──。

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2020年12月、陸軍士官候補生に囲まれ、第121回陸海軍アメリカンフットボール大会の前半戦を見守るトランプ大統領 - 写真=AP/アフロ

アメリカ民主主義「終わりの始まり」

この4年間、アメリカにいったい何が起こったのだろうか? 民主主義の原則を無視した国内政策、外交政策が採られ、アメリカが世界に誇ってきた価値観、品格が否定され、アメリカの名誉と威信が大きく傷ついた。

そのような状況をつくったのは、ドナルド・トランプ大統領その人であることは間違いない。数々の非民主主義的発言、政策を試みたが、そのほとんどが失敗に終わった。アメリカの国際的信用を大きく損ね、再選をかけた大統領選挙にも敗れたが、敗北宣言を拒否している。12月も末になろうとしているのに、ジョー・バイデン新大統領を認めず、承認を迫る民主党に反抗している。

大統領選挙後6週間、不正、八百長、謀略などと証拠もなく決めつけ、大金を使い、各選挙区の選挙管理委員会や市長、州知事をやり玉に挙げ、自分が勝利したと結果を変えさせようと試みている。

そんなトランプ大統領を支持してきた共和党だが、12月15日、ようやく上院議会共和党多数派のリーダーであるミッチ・マコーネル氏がバイデン氏の勝利を認める発表をした。だが、トランプ大統領にそんな気配はまったくない。

このことからマコーネル氏とトランプ大統領の間に亀裂ができたという見方もあるが、そうは思わないほうがよい。両氏の目的は共通で、それは次期大統領選挙に勝利することである。

政治的カオス状況が続くアメリカに新型コロナウイルスが襲い掛かり、現在アメリカは、歴史上経験したことのない苦境に陥っている。筆者が永住してから46年になるが、こんなひどいアメリカは見たことがない。

■いったい誰が悪いのか?

筆者は、NYマンハッタンに暮らしている。新型コロナウイルスの攻撃の前に、ニューヨーク市はなすすべを知らなかった。12月22日現在、ニューヨークの感染者は38万人、死者は2万4000人をそれぞれ超えたといわれる。国全体では感染者は1800万人、死者31万人に達しているといわれるが、「真実」はわからない。それを知ることも恐ろしい。

ある日、長年通う歯科医院の待合室で順番を待っていると、1人の老婦人が入ってきた。マスクをし、マフラーで顔を覆っている。今ではマンハッタンでマスクをしていない人は、ほとんど見かけなくなった。

ソーシャルディスタンスを取るよう注意を促す紙が2脚の椅子の上に置いてあり、患者は2席分を隔てて腰かけなければならない。老婦人は、足元に注意しながら座ると、「まったくひどい大統領だ……」と、筆者につぶやくように話しかけてきた。

■日常と隣り合わせの「死」

老婦人はエレンという裕福な人物で、それをきっかけにしばらく話をした。通いの家政婦を雇い、1人でコンドミニウムに住んでいたが、その家政婦が新型コロナで亡くなってしまったという。代わりの家政婦がなかなか見つからず、掃除、洗濯、食事を自分でしなければならないため、「とても困っている」と嘆く。

わが家も同じような問題にぶつかっていた。

25年間にわたり、マンハッタンのわが家の掃除、洗濯を担ってくれていたクリーニング・レディが新型コロナを恐れ、母国に帰ることになった。代わりに彼女の夫が残り、仕事を引き継いでくれていた。

ところがある日、突然彼から電話があり、「体の調子が悪い」と言ってきて休むことになった。その1週間後、クリーニング・レディから連絡があり、「夫は新型コロナで亡くなった」と言う。病院で1人で亡くなったのだ。つらかったであろう。それを知って胸が痛んだ。

「死」というものが日常と隣り合わせになっているのが、われわれが暮らしているこの街の現在だ。トランプ大統領が新型コロナウイルス問題に“ふた”をし、迅速に十分な対応をすることなく、放っておいた結果である。

■大統領を選んだのは誰か

歯科医院の待合室でそんな話をあれこれしていると、歯科医の助手、看護師の3人が加わり、トランプ大統領のつるし上げが始まった。トランプ大統領は悪の権化となり、悪人以外の何者でもなくなった。

しかし歯科医が出てきて話し合いに加わり、「あんな大統領を選んだのは、われわれ選挙民なのだ。われわれにも責任があるのだ」と言うと、みなシーンと押し黙ってしまった。歯科医の言うことが正しいのである。

「トランプのように、メディアを操作して大統領になる時代になった。彼がどんな人間であるかを見逃した。メディアをだませば、大統領になれる世の中だ」と歯科医は続けた。これまでも通院するたび機会を見ては、社会の出来事、世界情勢について話してきていたので、彼が言いたいことはよくわかった。

■子供たちにまで広がる「Fake」

マンハッタンの自宅近くの公園で、5〜10歳くらいの子供たちが砂場で遊んでいた。疲れた頭を休めるには、元気な子供たちの姿を見るのがよい。そんなわけで、筆者はたびたび公園に足を伸ばす。

ところが最近、子供たちのある変化を感じるようになった。アメリカの子供は遊んでいる時、「Cheating(だます、ずるい)」という言葉をよく使うが、最近は「Fake(フェイク)」という言葉をよく聞くことに気づいたのだ。Fakeはトランプ大統領ならではの言葉遣いで、公に使われることはない言葉だ。ところが今では、外国も含め平気で公の場で使用されるようになっている。

トランプ大統領の登場とともに、まるで新型コロナウイルスのように静かに広まった。いつ使っても、何に対して使っても一脈通じるところがある。筆者自身、友人と話す時に使うようになった。みんなで笑える、よい冗談になるのである。

■「ピック・アップ・トラックの人たち」にウケる言葉

もちろん、それでも良識ある大人として公の場での使用は避けるべき用語である。ところがトランプ大統領は、公的な場であろうとおかまいなし、しかも合衆国大統領としての演説でも平気で使うからたちが悪い。

彼の演説は口語調で、相手への批判はとどまるところを知らない。まじめなのか冗談なのかわからないことが頻繁にある。良識ある一般的なアメリカ人の感覚では、聞いているほうが恥ずかしくなることもある。とくに女性に関する話題が出るとそう感じる。

もともと不動産業や建築業を営んできたことから、社会の底辺の人々の言葉を知っているし、彼らが好む言葉、内容で、いくらでも話ができるのである。ダーティジョークも含め、ジョークはお手のもの。白人労働者の前に行けば同類のにおいが漂い、南部に行けば、ジーンズを着て、トラックを運転し、農業で生活している「土のにおいのする人々」にも通じた。

ちなみに、このような農業の人々を称して、「ピック・アップ・トラックの人たち」という。彼らの楽しみは、南部の自動車レース「NASCAR(ナスカー)」である。

トランプ氏がこうしたブルーカラー層を集めて集会を開くと、多くのファンが押し寄せる。集会は、熱狂を超えてまるで暴動のような騒ぎになる。男性ばかりではない、主婦をはじめとする女性たちの心も捉えてしまうのである。

その勢いで、前回の大統領選挙は勝てた。しかし今回は、この層の支持を失った。理由は、公約を実施しなかったからだ。確かに今回の選挙では、約7400万の獲得票数を得た。その数は大きい。だが、熱烈に支持したブルーカラー層は後退した。“Fakeの神通力”は消えたのである。

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■待ち受けるジョージア州の決戦

大統領選挙をめぐる軋轢はまだしばらく続くだろうが、1つ重要なポイントがある。上院の多数派を共和党が維持できるかどうかだ。これは、ジョージア州で2021年1月5日に開かれる特別選挙にかかっている。ちなみにジョージア州アトランタは、あの名作『風と共に去りぬ』の舞台となった土地である。

12月第1週、共和党候補の2人を応援するため、トランプ大統領がジョージア州にやってきた。多数の観衆を集め、得意の大集会を開くと、トランパーズ(熱狂的なトランプ支持者)たちが大歓迎でこれを迎えた。

トランプ大統領は、大統領選挙が終わってから2億ドル以上の資金を集め、意気揚々であった。この資金をどう使うのか。反バイデン、反民主党に使われることはわかるが、具体的にそれが何かわからないところが不気味である。

トランプ大統領は、今回の大統領選挙は八百長だと決めつけ、無効を唱え続けている。自分が勝利したことを訴え、バイデン氏が次の大統領職に就くことをいまだ認めていない。この事実が、ジョージア州の上院議員特別選挙に大きな影響を及ぼしている。共和党候補の2人は板挟みになって苦悩している。

■共和党vs民主党の行方

トランプ大統領が「自分が勝った」と主張したところで、実際の選挙ではそのような結果は出ていないのである。だが、共和党の候補者は、トランプ大統領を支持するトランパーズの票と、彼らに反対する共和党支持者の両方の票を取らなければ、上院の特別選挙で民主党の候補には勝てない。

特別選挙で争われているのは2議席。いずれも現職は共和党だ。

1議席は、現職の共和党デービッド・パーデュー氏と民主党ジョン・オソフ候補が争う。大統領選挙と同時に行われた上院議員選挙でも大接戦が繰り広げられた。この時は1.7ポイントと僅差ながら、得票率49.7%のパーデュー氏がオソフ氏を上回ったものの、得票率が過半数に達しなかったため、勝敗が来年1月5日の決選投票に持ち越されることになった。

特別選挙のもう1つの議席は、得票率で上位2人となった民主党のラファエル・ウォーノック候補と共和党現職のケリー・ロフラー氏が、こちらも決選投票で争うことになる。

筆者は、黒人牧師であるウォーノック氏と、ブロンドの美しい女性であるロフラー氏のテレビ討論会のテレビ中継を見た。2人はバックグラウンドからキャラクターまで、あまりに対照的である。ロフラー氏は、ビジネスで大成功した大金持ちでもあり、ジョージア州の特徴である「お金持ち」と「庶民」の対象社会をよく表す組み合わせである。

討論会を見た限り、ロフラー氏はアメリカ国内外の知識があり、世界情勢についても十分討論ができる。その一方で討論できる話題の幅は限られており、正直なところ力量は劣るように見えた。だが、2人の候補の争いは、「ネック・アンド・ネック(接戦)」で最後までわからない。

■「ねじれ」は善いこと

日本でも「ねじれ国会」という言葉があるが、アメリカとは少々ニュアンスが異なるようだ。アメリカの政治では、「ねじれ」は不都合なものでなく、むしろ歓迎する傾向が強い。「今回の選挙では、ホワイトハウスを民主党が取ったのだから、上院は共和党が取るほうがよい」という認識がある。良識ある選挙民ほど、そういう見方をしがちである。

さもないと一党独裁政治が行われやすく、アメリカにとってそのような状態は防いだほうがよい、とするのが一般的なアメリカ人の考え方だ。

トランプ氏が大統領に就任し、共和党がホワイトハウスだけでなく上院までも牛耳った4年間で何が起こったか。たとえば、不正ではないが、前任者の死去で空席の出た連邦最高裁判事の決定で共和党は強引なことをした。通常、大統領選挙が行われる年は、選挙が終わるまで新しい最高裁判事は選定、任命しない伝統だが、共和党とトランプ大統領は、ホワイトハウスと上院をコントロールしているため強引に任命。これを承認してしまった。

共和党は、トランプ大統領が退任後、裁判にかけられ、最終決定が最高裁で行われる場合を想定したのだと思う。9人の判事のうち保守派6人、リベラル派3人と、まったくバランスを欠く構成になった。なんと姑息なことであろうか。4年間はほとんど「こういうこと」ばかりである。

だからこそ、緊張を持たせるために「ねじれ」が必要なのだ。大統領選挙の決着とともに、上院議員特別選挙が重要なのはそのためだ。

■トランプ大統領の大恩赦

アメリカでは今、トランプ大統領が自分自身に恩赦を与えるということがまことしやかに噂されている。筆者としても、このあり得ない状況におおいに関心を抱いている。

とっさに出てくるトランプ氏の戦略(というか奇策)を、筆者は「カオス戦略」と呼んでいるのだが、自分が不利になると、カオスをもたらす戦略を採用し、自分のペースをつかみ独断的に事を運ぶのである。

アメリカのメディアは、トランプ大統領の恩赦をめぐり、「贈賄工作があった疑いがあるとして司法省が捜査を行っている」ことが12月1日に開示された裁判所の文書から明らかになった、と報道している。

ハーバード・ロースクールを優秀な成績で卒業した旧知の弁護士に、この報道をどう思うか尋ねた。答えは、大統領の犯罪を追及するという意味では、トランプ氏を揺さぶる作戦であり、大統領職の引き継ぎを拒む氏に対する効果的な攻撃ではないか、というものだった。

写真=iStock.com/Brad Greeff
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報道によれば、ワシントンの連邦裁判所が明らかにした文書で、ホワイトハウス高官との接触を試みるなどの「秘密のロビー活動計画」に関する捜査を当局が8月に開始し、司法省は「犯罪行為があった可能性を示す内容が含まれている」として、通信記録や電子メールの閲覧を裁判所に求めたという。

「この事実が証明されれば、トランプは万事休す、なのではないのか」と筆者が問うと、「いや、そうとも限らない。それらの証拠を実際に閲覧し、十分その証拠固めをするのは容易ではない」とその弁護士は指摘する。

ワシントンのニュースレター「The Hill」は、今後政権が交代した場合、バイデン政権下で、ロバート・モラー特別検察官がロシア捜査で報告した司法妨害のケースや、トランプ大統領の元顧問弁護士マイケル・コーエン氏を有罪へと導いた選挙資金法に関する疑惑、ニューヨークタイムズが9月に報じた税金詐欺、大幅な脱税の可能性について追求される可能性を指摘する。

これらの不法行為が裁判所で争われた際は、多くが証拠不足で追及は難しいのではないかと思われる。だが、トランプ大統領の脱税問題については、大きな不正行為が浮き彫りになっている。巨額の脱税が行われなかったならば、「税金ゼロ」は成立するはずがない。トランプ大統領は違法すれすれで勝負し、有罪、無罪どちらでも取れるところで戦っているとしか思えない。

くだんの弁護士も、「その方法は、負債と減価償却をうまく使うやり方で、論議を呼ぶだろう」と指摘する。筆者の知人にも、この手法でぜいたくな生活をしている人物がいる。この人も最高学府で法律を学び、成績はトップであった。

■自分への恩赦は犯罪を認めるのと同義

さらに重要なことがある。ロシア疑惑に関することである。

この事件を担当したモラー特別検察官は、2019年4月に提出したロシア捜査報告書で、「現職の大統領は刑事訴追を免れる」という司法省の見解を受け入れるとしたうえで、「徹底的な捜査の後に、大統領が明らかに司法妨害をしなかったという事実に自信があるならば、われわれはそのように表明をする。事実と法的基準を基に、われわれはこの判断にいたることができなかった」とし、「報告書は大統領が犯罪をしたことを結論づけないが、容疑を晴らすものではない」と述べた。なんと甘い結論であろうか。

また、バイデン氏が恩赦をする可能性に言及する人もいるが、バイデン氏はすでに「大統領は、大統領を恩赦はできない」と明確にしている。

大統領の恩赦を認める法律は、この問題に対する結論を出すに十分ではない。あいまいなのである。

ひとつ言えるのは、トランプ大統領が自分に恩赦を与えること自体、自分の罪を認めることにほかならないということだ。「犯罪と認めている」からこそ「恩赦を考える」のである。

■二面性の男

トランプ大統領の性格は、一時的に合理的かつナチュラルなコミュニケーションを可能にする。日本の安倍前首相、北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長、ロシアのプーチン大統領などは、彼のリズムに乗ったため一時的には会話ができた。

だが、よい時はいいのだが、何かの拍子で悪くなると相手に対し決定的に冷たくなる。そして、自分の考えが認められないとか、自分がほめそやされないと感じると一気に不機嫌になり、アンフレンドリーとなり、悪口を言い始める。

側近になると、たまらない。絶対的な服従が強要され、自身にとってマイナスと判断した場合、即刻クビにする。反論するスタッフは許されないのである。トランプ大統領の下で、国家安全保障担当大統領補佐官であったジョン・ボルトン氏は、そのような状態に陥ってしまい、案の定クビになった。

しかし、これはリスクの高い解任だった。ボルトン氏はすぐさま本を書いて、トランプ政権の内幕を暴露してしまったのである。ボルトン氏は、名門イエール大学出身で、頭脳明晰な人である。

■「トランプの復讐」は続く

さらに、トランプ大統領は、民主党のヒラリー・クリントン氏が国務長官時代に私用電子メールを使用した問題について、「オバマ前大統領もすべて知っていた」として、捜査対象とすべきだと主張し始めた。

佐藤則男『なぜヒラリー・クリントンを大統領にしないのか?』(講談社+α新書)

バイデン氏に対しても、ウクライナ疑惑に絡んでいるといわれる息子ハンター氏の捜査に力が注がれることになるだろう。事実、検察当局が税金問題でハンター氏を捜査していることが明るみになった。

これらの事実が示すようにトランプ氏は、「復讐」にかけては、世界のリーダーの中で、誰にも劣らない情熱を燃やす人物なのである。大統領には再選し損ねたが、自分に咎めがあるなどとはみじんも考えず、負けたことに対する怒りと悔しさが彼の復讐心を掻き立てている。今後、さらなる行動に移ることは間違いない。

トランプ時代は終わったのだ。しかし、トランプ大統領は民主党を社会主義政党と決めつけ、今後も左翼を締め上げる動きを取り、拡大する新型コロナウイルスの黒い雲と重なり合い、人々の生活を危うくすることになる。アメリカ社会に暗い影が広がることを懸念するアメリカ人は多い。

各国もアメリカの先行きに対する懸念を深めていることは間違いない。なかでも対立が深まる中国は困惑しているだろう。

対中外交に関しては、筆者は、米中国交回復交渉に成功したヘンリー・キッシンジャー元国務長官にインタビューし、直接聞いた。外交交渉では、話し合いの大枠を時間をかけ決めること、そして十分な信頼関係を築いておくことが肝心とのことであった。果たして、バイデン政権に中国と互角に渡り合える外交官がいるかどうか。そこが決め手である。

答えは、新政権が発足して間もなくわかるだろう。筆者の見方は控えるが、交渉は難航するだろう。

■最大の謎

さて、ここで大きな疑問が浮かんでくる。

正規のルールにのっとって投票が行われ、その結果が出れば、それでおしまいではないか。いったいなぜ、トランプ大統領も共和党もいつまでも無駄な試みを続けようとしたのだろうか? 単に「復讐」だけなのか?

この問題に深く突っ込むアメリカのメディアの記事を見たことがない。なぜアメリカのメディアがそうしないのか。触れてはいけない何かがあるのか。

1つの推測として、バイデン氏の健康状態が悪くなり、大統領としての執務能力の低下は不可避と判断されているのではないか。バイデン氏は、40歳代で脳の手術を2回受け、危篤状態になったことがある。だが、このような重要な問題を今、論じるのは不謹慎であり、不道徳であるとする傾向がある。

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もし、大統領就任後のバイデン氏に何か起これば、ハリス副大統領が取って代わることは決まっている。だが、一般的なアメリカ人は口外しないが、ハリス氏では、とてもアメリカの内外政策を任せられないとする向きもある。ハリス氏の前歴はカリフォルニア州の司法長官である。大統領の重責を担うには経験不足だと思われる。

さらに民主党では今、極左勢力が力を強めつつあり、騒ぎが起こっている。アメリカでは人々は自分で苦労し、懸命に働き、ビジネスで成功することを若いうちから考える。そのために自分自身に鞭を入れ、努力を重ねる。だから社会主義者は、アメリカでは嫌われる。民主党もとうてい一枚岩とはいえないのである。

バイデン政権は前途多難である。共和党支持者が、最大級の攻撃を仕掛けてくるだろう。共和党は今後4年間、民主党やバイデン新大統領がやることをよく見て、弱点を見つけ追い詰める戦略を取るだろう。

分裂し、派閥化するようになれば民主党は弱体化する。それは十分推測できる事態だ。ならば4年後の大統領選挙で政権は取り戻せる、と共和党は考える。だから、「肝心なことは、民主党と敵対しておくことだ」という作戦の基本ができてくる。次の4年を見据えた闘いは、すでに始まっているのである。

アメリカのメルトダウン

最後に。

一部でこんな噂がある。1月20日に大統領就任式があるが、トランプ大統領はそれ以降もホワイトハウスに残る作戦を練っているというのだ。そのために軍隊をホワイトハウスに入れて、クーデターのような状態をつくるというのだが、左翼系メディアのFake記事である。

確かに大統領は、全軍の最高指揮官である。しかし、だからといって勝手に軍隊を使って、国を乗っ取ることは許されない。主権は民のものだ。国家騒乱罪に値すると思う。

トランプ大統領に恩赦を受け、トランプ氏の元に戻ったマイケル・フリン元国家安全保障担当補佐官の進言であるといわれる。なんと民主主義の原則を無視した論議であろうか。

新型コロナウイルスが新たに大暴れを始め、患者、死者が増えている中でこのような愚かな会議を開いているホワイトハウスは、いったい何を考え、わきまえているのであろうか。天下の座にいる自覚がないのであろうか。それこそ、アメリカのメルトダウンへの道である。

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佐藤 則男(さとう・のりお)
ジャーナリスト
早稲田大学を卒業し、1971年に朝日新聞英字紙 Asahi Evening News(現International Herald Tribune/The Asahi Shimbun)入社。その後、TDK本社勤務、ニューヨーク勤務を経て、1983年国際連合予算局に勤務。のちに国連事務総長に就任するコフィ・アナン氏の下で働く。1985年、パートナーと国際ビジネスコンサルティング会社、Strategic Planners International, Inc.,ニューヨーク州法人を設立。アメリカ企業、日本企業をクライアントに、マーケティング、日米市場進出、M&A、投資などのビジネス戦略立案、および実施などを担う。同時にジャーナリズム活動に復帰。「文藝春秋」「SAPIO」などにNY発の鋭い分析を基にした記事を寄稿。米国コロンビア大学経営大学院卒。MBA取得。
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(ジャーナリスト 佐藤 則男)