編集者、ライター、スタイリストとして、長らくファッション界の第一線で活躍してきた大草直子さん。ご自身も40代後半という大草さんに、ESSEonline読者も迷いがちな40代、50代からのおしゃれについて伺いました。


スタイリスト・大草直子さんに「大人のおしゃれ」についてインタビュー

どんな服を選ぶかはその人の選択!色合わせや素材合わせに「間違い」はありません



――まず、「ファッションのプロ」である大草さんが40代、50代の女性のファッションやスタイルを見る際、どんなところをいちばん見ていらっしゃいますか? 大草さんが「このファッションはすてき」「これは残念かも」と思われる基準はなにかあるのでしょうか。

大草直子(以下敬称略) 長年ファッションの仕事をしてきたので、「このコーディネートはいい? 悪い?」みたいなことを聞かれることもあるのですが、じつは私、人のお洋服について、特別すてきだとか、特別変だとか思うことがないんですよ。その人がなにを着ているかは、その人の選択。リスペクトすべきものであって、そこには正解も不正解もないと思っています。だから、色合わせが間違っているとか、素材感がおかしいとか、そんなこともありません。服は服、みんな、自分が好きなものを着ればいいと思うんです。ただ、もともと好きで選び、好きで着てきたはずのお洋服なのに、

「最近なんだかしっくりこない」

「いまいち似合わない気がする」

と感じることがあるようなら、見直してほしいことがあります。

●似合わないほとんどの理由は「サイズ」にあります!




色や形、サイズ…。ご自身によく似合うアイテムを知っている大草さんのファッションは本当にすてき(写真は書籍より)

――たしかに、ずっと似合ってきた服なのに、「あれ?」って思うことあります! 理由はなんですか?

大草 ズバリ、「サイズ」です! 40代…というか、30代の後半から、女性の身体は明らかに「肉づき」が変わっていきます。体重が変わらなくても、体の「輪郭」が変わっていくんですよね。身体のお肉の変化にともなって、体のラインもやわらかく、丸くなっていくんです。これはもう、生物学的にそういうものなので、仕方のないこと。ただ、そんなふうに体が変わってきているのに、今までの服を同じサイズ感で着ていると、違和感が出てくることがあるんです。

ウエストのファスナーは以前と変わらずに上がるけれど、じつはその上にふわっとお肉が乗ってしまっていたり、アームホールに腕は通るけれど、二の腕部分がじつはパツパツでゆとりがなくなっていたり。見えづらい部分でもあるし、「同じサイズが入るから気づかない」ということがとても多いのです。ただ、残念ながらシルエットは確実に、若い頃と同じではなくなっているんですね。

それが、いちばん残念!!

色合わせや素材合わせは「その人のセンス」と受け入れられる私が、どうしても気になってしまうのが、この「サイズ問題」なんです。正直、「サイズ選び」が適切だったら、この方はもっとすてきなのに、と思うことはよくあります。

●ほとんどの中高年女性は、サイズをひとつ上げたほうがいい




服のサイズを人に知られることってあまりありません。それよりも、人に美しく見られる方が大事!(写真は書籍より)

――つまり、サイズを上げたほうがいいということでしょうか。

大草 そうなんです。解決策は、「サイズを1つ上げる」ことなんです。Sだった人はMに、Mだった人はLに、サイズアップしたほうが服をきれいに着られる場合が多いです。サイズを上げるって、抵抗を感じる方が多いと思います。でも、脱いだお洋服のタグを見て、サイズを確認されるなんてこと、まずないですよね? だったら、外から見たときにサイズが合っていて、きれいに着られているほうがいいと思うんです。

――試着したときに見るべきポイントはどんなところでしょうか。

大草 いちばんよく見ていただきたいのは「背中のライン」ですね。 お肉はだいたい後ろ側につきます! だから見えにくい(笑)。 なので、試着の際には丁寧に確認して、背中がパツパツに見えないか、肉感を拾っていないか、よく見てほしいと思います。

それから、「ヒップライン」。こちらも、あまりにラインや肉感を拾うようなものは避けたほうがいいです。そして、ウエストは、先ほどもお話ししましたように「絞ったウエストラインの上に、お肉が乗っていないか」をよくチェックして欲しいと思います。

さらに見逃しがちなところで、「肩のライン」。ヒップやウエストはよく見ても、こちらはなかなか気にしなかった、という方も多いのでは? 肩まわりは、少し肩が落ちているほうがきれいな場合もありますし、ダーツやタックが入っているほうがきれいに見えたりもします。だれかに頼めるなら写真を撮ってもらうなどして、確認されるといいと思います。

サイズの合ったお洋服を着ていると、その人はとても優雅に、上品に見えるようになります。とくに
40代以上の女性の方には、ゆとりのある着こなしが、雰囲気まですてきに見せてくれると思います。

●40代、50代はまず、自分の身体のサイズを測ってみて




深い赤のバッグがコーディネートのポイントに!

――40代を迎えると、若々しく見られたい一方、「若づくりしている」と思われるのも抵抗感を感じます。「品よく見える」「雰囲気がすてきに見える」というのは、目標になりますね。サイズの大切さはよくわかりました。ただ、自分のサイズってなかなか把握できていないかも?

大草 そうですよね。そこで、みなさんにオススメしたいのが、ご自身のサイズをもう一度、改めて計り直しておくことです。最近は、「オンラインショップをよく利用している」という方も多いと思うのですが、オンラインショップは、かなり細かいサイズ表が載っていますよね。ご自身のサイズを正しく知っておくと、サイズ表に当てはめるのも簡単ですし、失敗のないお買い物をするのにも役立ちます。

測っておくと役立つのは、

肩幅・股下の長さ・腕の長さ・ウエスト・ヒップ

あたりでしょうか。

ただ、人間の身体はひとりひとり全然違うので、測ってみたサイズが、市販の「なんとかサイズ」に当てはまらないことも多いんです。小柄でやせていても、バストが大きい方もいますし、がっしりした体型でも、脚はとても細くて華奢、という方もいます。だから、市販のサイズがそのまま合う、ということはじつはなかなか珍しいことなのです。そのことをしっかりわかったうえで、もう一度サイズ選びを丁寧にしていただけたら、もっとすてきな着こなしができると思いますよ!

●服は人に着られて初めて「おもしろいもの」になると思う




服は、人が着て初めておもしろくなります! 鏡の前で全身をチェックして(写真は書籍より)

――サイズ問題をクリアしたとして、着こなしの際に気をつけることはありますか?

大草 自分に合うサイズの服を手に入れたら、最後は着こなしですよね。私、お洋服は、お店でハンガーにかかっている状態がいちばん「つまらないもの」だと思っているんです(笑)。実際に自分の身体を通したときに楽しくなるような服がいちばんいいんじゃないかな? そのためにも、ただ着るのではなく、着たあとのバランス調整にも、注意してもらえたらと思います。

お洋服を着て、鏡の前に立ったら、首元のボタンをあけてみたり、閉じてみたり。または、袖をまくって手首を出してみるなど、いろいろと試して、自分に似合うバランスをチェック! この習慣をつけることでも、「おしゃれ感」は変わってくると思います。

●まずは値札を見ないで価格を予想!この訓練で、服を見る目が養われます




安いからではなくて、自分にとってコスパがいい服を選びましょう(写真は書籍より)

――最後に、お買い物の際に「ここを基準にするといい」というポイントがあれば教えてください。

大草 はい。皆さんにぜひ、挑戦してみてほしいのが、

「値札を見ないで価格を予想する」

ということです。

まずは値札を見ずに触って手触りを確認する、縫製を見る。その後裏返した状態や色映りを見る……。それで、

「この服はいくらだろう?」

を考えます。

「この手触り、このディテールのニットなら、8900円くらいかな?」などと予想して、それから値札を確認します。その際に、予想価格より3割くらい安かったら…つまり、今回の場合なら6000円くらいかな? それくらいだったら、そのニットは、

「価格と価値のバランスがかなりいい商品」

ということになります。反対にこれが15000円だったとしたら、価格と価値のバランスはやや悪い。これを常にやってみてください。注意しなければならないことは、「980円かな?」と思ったものが1980円だったらとき…「1980円なら、まあいいか!」と買ってしまうのは、私のなかでは違うんです。

「安いからこれくらいでいい」

「値下がりしているからいい」

ではないんです!

あくまでも、価格と自分が感じた価値のバランスが合っているか。そのことをずっと考えてほしいのです。この「見極める目」を持っているか否かで、1000円のものが「コスパのいい買い物」にもなりますし、3万円のものが「コスパの悪い買い物」にもなります。どうせお買い物をするなら、自分にとって価値のあるものを手に入れて欲しいと思います。

●大草さんの大人のリラックススタイルをご紹介します




取材デーの大草さんのファッションは、長いニットの下にプリーツスカートを重ねばきしたレイヤードスタイル。
「上にアウターを着ることが多い冬は、“長方形”を意識したコーディネートにしておくと、いろいろなアウターに合わせることができます。今日は、ロングニット×ロングスカートで“長方形”。これなら、ウールのロングコートにも、ウエスト丈のダウンジャケットにもマッチするでしょ?」と大草さん。


足元は10年履いているというサイドゴアブーツ。スタッズをちりばめたハードな存在感で、フェミニンなだけではない、今っぽい着こなしに仕上げているところはさすが!


アクセサリーを重ねた手元、爪先にだけネイビーのラインを施したネイルも華やかですてきです。


大草さんの生き方やファッションについては、新刊『飽きる勇気 好きな2割にフォーカスする生き方
』(講談社刊)にも詳しく語られています。こちらもぜひチェックしてくださいね。

●教えてくれた人
【大草直子さん】



1972年東京生まれ。スタイリングディレクター。大学卒業後、婦人画報社(現ハースト婦人画報社)に入社。「ヴァンテーヌ」の編集に携わったが、サルサに出合い中南米へ遊学。帰国後はフリーの編集者、ライター、スタイリストとして活躍し、結婚。第一子を出産する。雑誌、カタログの仕事をこなす一方、広告のディレクションやトークイベントに出演するなど、多方面で活躍。その間、離婚、再婚し、現在はベネズエラ出身の夫と3人の子どもと暮らす。2015年よりウェブマガジン「ミモレ」を創刊編集長としてスタート。2019年よりセルフメディア「アマーク」をスタート。現在は商品開発やブランドコンサルタントとしても活躍中。 カジュアルでも品のある着こなしは、幅広い世代の憧れを集め、現在インスタグラム(@naokookusa
)のフォロワーは28.6万人。 自身の半生をつづった初めての生き方本『飽きる勇気
』を講談社より発売。

<撮影/林紘輝 取材・文/小川聖子>