最強パ・リーグの“アーチスト”は誰? 滞空時間で見るNo1打者は楽天助っ人
今シーズン、パ・リーグで記録された全614本塁打から滞空時間の長った本塁打トップ5
野球の花形であるホームラン。その中でも、高々とボールが舞い上がる滞空時間の長いホームランは、余韻を楽しめるという意味でも格別といえるだろう。ボールが一度空に吸い込まれるように小さくなったあと、再び徐々に大きくなって、まるで空から降ってくるように落下する。そんな大きな“アーチ”を描いた打者は誰だったのか?
今シーズン、6月19日の開幕から11月9日の最終戦までにパ・リーグで記録された全614本の中から、滞空時間の長かった本塁打トップ5を紹介しよう。
まず、5位に入ったのは、西武のルーキー・柘植世那捕手による一発。滞空時間は6秒80だった。過去に多数の滞空時間を計測してきた経験から、6秒を超えてくるフライであれば、体感的に「かなり上がったな」と感じることができる。映像をみれば納得できると思うが、このときの打球も十分高く上がっていた。
この本塁打は、柘植にとって記念すべきプロ入り初本塁打だったが、いきなり下からすくい上げるようにしてこの高い弾道を放ったことについて、私はまったく驚いていない。なぜなら、柘植は健大高崎高時代から甲子園で滞空時間の長いフライをポンポンと上げていたからだ。もちろん、このときからすでに空に向かって打ち込むようなアッパースイングである。
高校球児としては大変珍しい異色の選手だったので、その名は深く記憶に刻まれ、当時担当した雑誌の原稿に、「低い打球を推奨する高校野球界においては、『もっと叩かないと』といわれるかもしれないが、オレは応援するよ!」と書いていたほどだった。
そんな選手がようやくプロの世界で本領を発揮してくれたとあれば、喜ばずにはいられない。私心が入ってしまうことに恐縮しつつ、今後も密かに注目していこうと思う。
弾丸ライナーの印象が強いあの助っ人が4位
続いて、4位にはソフトバンクのデスパイネ外野手が入ってきた。今年の日本シリーズでも第2戦で満塁ホームランをかっ飛ばすなど、存在感をみせつけている選手だが、ランクインした6秒82という滞空時間の長い本塁打を打っていたことついては、5位の柘植とは逆に驚いている。
デスパイネといえば、どちらかというと地面とほぼ平行なバット軌道によるレベルスイングで、ホームランのときも低い弾丸ライナーが多いという印象があった。そのため、このときはどのような打ち方をしているのだろう? と動画を凝視したところ、若干体が上に向いているものの、ボールの少し下側を「こすった」打球であった。なるほど、それなら納得。かなりレアなケースと思われる。
きっと、並の選手であればスタンドまで届かなかったと思われるが、さすがの腕っぷし。パワーのある外国人選手ならではの芸当といえるだろう。
俊足で鳴らすFA選手が3位に
今季、フリーエージェントを宣言してソフトバンクからロッテに移籍した福田秀平外野手が、7秒超えの7秒01という滞空時間で3位に入ってきたのも意外な結果だ。福田といえば、類まれなスピードの持ち主であることが知られており、タイム計測の世界においては、打ってから一塁ベースに到達するまでの「かけ抜けタイム」で常に3秒台をキープする上位の常連である。
ところが、今回は打撃面の、しかもホームランの滞空時間である。まあ、滞空時間の長いホームランを打つには豊かなスイングスピードが不可欠であり、一応、「スピード」という単語がつくのだが。とはいえ、パワーを連想させるこの部門で入賞してくるとは思わなかった。フィジカルに関することには何にでも入ってくるなぁ、と感心するばかりである。
ここでようやく「入って当然」と思える選手が期待通りに入ってきた。120試合制ではあるが打率.342を記録し、29本塁打を放ったソフトバンクの柳田悠岐外野手が7秒13という滞空時間で堂々2位につけた。
現役選手でありながら、すでに伝説的な打球を何本もかっ飛ばしている柳田については、もはや言うことはあるまい。体がねじ切らんばかりのフルスイング。一度振り下ろしたバットをかち上げるようなフィニッシュとあらば、バットにボールにうまく乗ったときに果てしなく高く飛んでいく。
敵は故障だけ。もちろん、相手バッテリーのマークは年々厳しくなっているのだろうが、五体満足であれば、それを跳ねのけて打ち続ける「全盛期」がまだまだ続く気配だ。
番外編、規格外過ぎて計れない?
1位の前に、おなじみの番外編。最初は、今シーズンもっとも滞空時間の短かったオリックスのロドリゲス内野手のホームランを紹介しよう。そのタイムは3秒29。あっという間にスタンドに突き刺さるような打球であった。
ロドリゲスはメジャーリーグでのプレー経験はないものの、この本塁打にみられるようなパワーあふれる打撃が期待されたが、59試合で打率.218、6本塁打に終わり高い成績を残せず。12月初旬の報道では、オリックスが自由契約にしたと公示された。まだ29歳と若い選手なので、来年以降、またどこかでプレーする姿をみる機会があったら、弾丸ライナーの強打が出ることを期待している。
続いて、別の番外編がもうひとつある。西武のメヒア内野手と、本筋のランキングで2位に入った柳田による打球である。あまりに規格外な当たりのために、テレビカメラが打球を追いきれず、計測不能になってしまった。
ともに打球がどこかに跳ね返って外野のフィールドに戻ってきているので、場外ホームランではない。だが、打球の角度から推測するに、かなり高く上がった思われる角度である。もし、カメラが見失わずにとらえ続けていたら、このランキングが大きく変わっていたかもしれない。
観覧車をバックに7秒29を記録したあの選手が1位に
さあいよいよ、おまたせ第1位は、楽天のロメロ外野手による仙台の夜空に舞った滞空時間7秒29の美しきアーチだった。
昨年まで在籍していたオリックスから楽天に移籍し、再出発となったロメロ選手。今シーズンは、以前よりもバットを楽に構えて強振を控え、アジャスト重視のバッティングをする印象が強かった。とはいえ、オリックス時代の2018年にも、このランキングで2位(滞空時間は6秒72)に入っていたすくい上げるように振り抜く打法は健在。それどころか、以前よりもレベルを上げて王者に成り上がった格好だ。
ちなみに、ロメロにとって新たな本拠地となった楽天生命パーク宮城は、レフトスタンドの向こうに名物の観覧車がそびえ立つ。そのため、レフト方向に高い打球が出ると、観覧車が長い時間視界に入ってきて、実に非日常的な空間を演出してくれるのだ。
今年で3年目となるホームランの滞空時間トップ5だが、毎年の傾向として、やはりこの部門は外国人選手が入ってくることが挙げられる。やはり、並外れたパワーが必要ということだろう。では、ランキングに入るのが全員力自慢の選手か? と問われれば、決してそうではないのも野球の魅力のひとつだ。
しかし、いずれにせよ、どのような打者が打ったとしても、高く上がった打球の軌跡は美しいことに違いはない。来年は、誰が観客を魅了するのか。心待ちにしながらオフを過ごしたい。(「パ・リーグ インサイト」キビタキビオ)
(記事提供:パ・リーグ インサイト)