お金があれば将来は安泰なのか。作家で経営コンサルタントの矢内東紀氏は「お金を持っていようと持っていまいと、精神的に満たされている人は豊かだ。だからこそ、無意味な『通帳の数字を増やすゲーム』は今すぐやめるべきだ」という――。
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■お金がなくてもできる「生きるため」の投資とは?

「もう命を削って働くのに疲れてしまった」という相談が私のところにはよく来ます。「起業する能力も勇気もないです」とか、「身体を壊してしまったんです」とか。

いろいろな意味で、“ふつうに生きる”のが大変な時代です。しかし、ふつうでなくても我々は生きていかなければいけません。働く以外の方法で少しでも生活を楽にしていくしかないのです。たとえば、投資をするとか。

「いま生きるためのお金も足りないのに、投資なんてする余裕ないし、失敗したら一文無しになる」という人もいるでしょう。たしかに、何も考えずに投資の世界へ突っ込んでいくのは、裸で地雷原を突っ走るようなものなのでオススメしません。それは死ににいくのと同じです。

何のために投資をするのかというと、死なないために、生きていくために投資をするんですよね。ただ、単純に当たれば儲け、外れれば負け、というのはバクチと同じなので、何回かやると必ず負けることになります。大金持ちならば多少負けても、勝つまでやれば取り返すチャンスがありますが、我々にそんなタネ銭はないので、一度大コケしたら再起不能になってしまいます。

ただ、ちょっとした工夫をすることによって、できるだけ負けない、できるだけ死なない投資をすることはできるのです。

■BTS株で失敗した人たちが見落としたもの

数日前、韓国で、人気グループBTSが所属する芸能事務所の株が高値で上場した直後に大暴落して、韓国の個人投資家が自らの結婚資金を投じたり、借金してまでBTS株を高値で買ったりして、何億ウォンという含み損を抱えるハメになった、というニュースを読みました。

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株式投資が一概に悪いわけではないのですが、素人の投資家があいまいな知識で大儲けしようとするとこうなる、という非常にわかりやすい例です(BTS株は現在下がっているだけで、将来はわかりませんが)。そもそも、現金を投じて、それを即現金に戻して儲けようとするのは、システムが明解なぶん損をしやすいのです。

株を買うにあたってリスクを下げるなら、仕事などの関係で自分が非常に詳しい分野とか、自分がよく利用する応援したい企業の株を中長期的に持つほうが、目先の相場に飛びつくよりもよほど勝算があります。まず、自分が詳しいジャンルやよく行く店ならば、「最近、あの会社はどうも良くない方向に向かっているな」ということを他人より早く察知することができるからです。

そして、好きな会社、応援したい企業の株を買うということはつまり、「応援する気持ちを株を買うことで表す」ということになるわけですが、そもそも、株というのはそういうものですよね。投機的な意味を持ったのは後の話です。

■インフルエンサーに踊らされてはいけない

興味もない会社の株を、なんとかさんがブログで上がると書いてたから買い、かんとかさんがYouTubeで下がると言ってたから売る、みたいな雑な方法よりだいぶマシだと思いませんか。だいたい、なんとかさんやかんとかさんはあなたが損したところでお金を返してくれるわけではないのです。あなた自身が、あなたなりの根拠を持てる投資をしましょう。

「応援する気持ちを込めて投資する」を応用すると、もう投資の対象は企業でなくてもよいということになります。「ステイホーム期間中に時間があったので、自分への投資として英語の勉強をした」というような言い方がありますね。

この用法は辞書にも載っており、「比喩的に将来を見込んで金銭を投入すること。」(広辞苑「投資」◆砲覆匹判颪い討△蠅泙垢、「英語の勉強」でいうと投入したのは「自分の余暇の時間」ですので、元手は金銭でなくてもいいんですね。つまり「将来自分になんらかのいいことがあるのではないかと見込んで、なんらかの自分の持ち物を投じる」のが投資であるということです。

■絶対に損しない「感情株」へ投資すべし

もちろん、手持ちの現金や通帳のお金が増えるのは、減るよりはよいことでしょう。しかし、先述のとおり、現金を儲けようとする投資はリスクが高くなります。悪い人があなたのお金を騙し取りに来ることもあります。お金に名前は書いていないので、騙し取られた100万円に名前が書いてあったので元の持ち主に戻った、ということはありません。

ところが、「人間の感情」は非常に属人性が高くて、なかなか他の人に騙し取られるということはありません。なので「あの人にはいつもよくしてもらっている」みたいな感情は非常に大事です。

これが簡単にできるのが「ご近所作戦」です。引っ越し先で、近所中にご挨拶としてボックスティッシュを持っていく。近所の若者に暮れ正月に1000円ぐらいのお年玉をあげる、でもいいですし、ニコニコ挨拶をするとか、何か困っていることを手伝ってあげる、でもいいのです。

近所の腰が痛いAさんの荷物を、代わりに運んであげた。そうすると、Aさんはあなたにちょっと心理的な借りができますよね。これを「心理的債務」といいます。逆に言うとあなたはAさんに対する「心理的債権」を持っているわけです。

この「心理的債権‐債務」の関係は、お互いの状況によって値動きしますし、単純に打ち消し合わず持ち合うこともできるので、株のようなものとも言えます。「感情株」とでも呼びましょうか。いろんな人と「感情株」を持ち合うことで、あなたと利害関係がある人がどんどん増えていきます。

■ボーナス時の1万円より金欠のときの8000円が大事

「金は裏切らないが、人は裏切る。金しか信用しない」という人もいるかと思いますが、あなたが金しか信用しないから人が裏切るんじゃないですか、とも言えます。いろんな人の「感情株」を持っていると、当然評判や信用は高くなります。反対に、評判が高い人の心理的債務を不履行する人は、「あんなに世話になった人にこんな仕打ちをするなんて、なんてひどいやつだ」ということになって、評判や信用はガタ落ちすることになります。

また、「感情株」(心理的債権)をたくさん持っている人は、ピンチに陥ったときに心理的債務を負っている人が助けてくれます。これは、先述の通り「感情株」は値動きするからです。ピンチのときに心理的債務を返すと、絶好調のときに返すより効率的に返済できるのです。

たとえばあなたが誰かにお金を貸しているとして、あなたのボーナス支給日に10000円返してもらうより、めちゃめちゃ金欠のときに8000円でも返してもらったほうがうれしいですよね。ピンチのときに返してもらう債務は、好調のときに返してもらう債務より高い効果があるのです。ピンチの人を助けてあげると、よりたくさんの「感情株」を買うことが出来ますし、あなたがピンチのときには返してもらえるのです。

逆に言うと、絶好調のときに「感情株」は値上がりしています。絶好調の人はわざわざ他人に助けを借りる必要がないからです。

■普段から親しい人間関係を築く

調子のいいときだけすり寄ってきて、相手のピンチには適当にあしらうタイプの人は、「感情株」が高いときにわざわざより多くの心理的債務を負いに行って、ピンチで「感情株」が値下がりしている(=心理的債権の価値も相対的に下がっている=同じことをしてもより効率よく債務を返済できる)ときに全然返さない、という、投資としては一番ヘタクソな動きをしていることになります。困っている人は助けてあげましょう。

「感情株」(心理的債権)のいいところは、それ自身ほとんどお金がかからないということです。ニコニコ挨拶をするとか、相手が困っているときに助けてあげる、などは一銭もかかりませんよね。

ですから、お金がまったくなくてもできますし、何人もの株を持つこともできます。明確に額面が決まっているわけではないので、最初の額から上がった下がったという話でもありません。全員から回収しなくてもいいのです。ただ、たくさんの人の株を持っていると、そのぶん自分が困っているときに助けてくれる確率が上がることは間違いありません。

人生ずっと絶好調のまま、という人は独立資本でも生きていけるかもしれませんが、人間何があるかわかりませんよね、私も含めてですが。いざ絶不調になって、「なんとか生きていかなければいけない」というとき、もちろんお金も大事なんですが、「普段から親しい人間関係を築いておく」ということがいかに大切か、ということです。

■「通帳の数字を増やすゲーム」には意味がない

最初に「死なないために、生きていくために投資をする」と書きましたが、投資というのはあなたの持っている資産をフルに使ってやるものです。この「資産」というのは現金や証券や不動産だけを指すわけではありません。「感情株」ももちろん資産です。そして、最終的に自分の持つ資産の総量が増えれば投資は成功ですから、目先の通帳の数字が多少増えたり減ったりすることに一喜一憂してもしょうがないのです。

お金はとても大事です。私は商人なのでそれをよく知っています。しかし、だからこそお金ではどうにもならないこともよく知っています。お金を持っていようと持っていまいと、精神的に満たされている人は豊かです。老後の心配をせず、安心して日々を楽しく暮らすために投資をしたい、のが本来の目的ですよね。それがいつの間にか「通帳の数字を増やすゲーム」になってしまうと、心配とイライラでちっとも楽しくありません。

好きな人や作品や商品や企業を応援して、たくさんの人と仲良くして助け合い、穏やかな日々を送っている。本当に投資に成功している人というのは、そういう人のことを言うのだと思います。

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矢内 東紀(やうち・はるき)
作家、経営コンサルタント
別称えらいてんちょう。1990年生まれ。慶応大学経済学部卒。現在は作家、経営コンサルタント、ユーチューバー、投資家など幅広い分野で活動中。著書『しょぼい起業で生きていく』(イースト・プレス)がベストセラーに。その他『しょぼ婚のすすめ 恋人と結婚してはいけません!』『ビジネスで勝つネットゲリラ戦術【詳説】』『静止力 地元の名士になりなさい』『「NHKから国民を守る党」の研究』(いずれもKKベストセラーズ)、内田樹との共著『しょぼい生活革命』(晶文社)がある。
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(作家、経営コンサルタント 矢内 東紀)