東大生だけが知っている不都合な真実「東大に入ると人生が辛くなる」
※本稿は、池田渓『東大なんか入らなきゃよかった 誰も教えてくれなかった不都合な話』(飛鳥新社)の一部を再編集したものです。
■テレビがこぞって取り上げる「東大生」
「東大なんかに入るもんじゃないよね」
チャーハンを頰張りながら、僕と同じ東大卒の友人が言った。僕はといえば、口に入れた餃子が思ったよりも熱かったため、慌ててビールで口のなかを冷やしているところだった。
もとよりこちらの返事を期待していたわけではなかったのか、彼は独り言のように「こいつらバカだよね、東大なんかに入って」と続けた。
東京大学の本郷キャンパスからほど近い場所にある中華居酒屋・福錦。その天井近くに備え付けられた大型テレビの画面には、東大生を主役にしたバラエティー番組が映し出されていた。
どうやら友人はこれを眺めていたらしい。店から歩いて行ける距離にある「赤門」がVTRで流れ、スタジオのひな壇に並べられた若い東大生たちが明石家さんまにいじられて苦笑いをしている――。
テレビでは、東大と東大生を面白おかしく演出した番組がいくつも放送されている。それはトーク番組だったりクイズ番組だったりしたが、テレビをほとんど見ない僕がその存在を知るほどに、どの番組も高い視聴率をたたき出し、世間では話題となっていた。出演している現役東大生が半ばタレント化し、本を書いたり講演をしたりして、それがまた人気を博しているという話も聞いた。
■「東大に行けば幸せになれる」と信じられている
僕は書籍ライターの仕事をしているが、あるとき編集者との雑談のなかで「昨日の『東大王』見ました?」なんて話題が出た。
見ていないと答えると、「売れる本を書くためには、ああいう今ヒットしているテレビも見ておかないといけないんじゃないですか?」とチクリと刺され、とっさに十くらいの反論が頭に浮かんだけれど、いつものように「そうですね」と返すにとどめるということがあった。
世間で語られる東大のイメージの多くはポジティブなものだ。
「東大は日本の『知』の最高峰」
「東大生は頭がいい」
「コンプレックスとは無縁の最強の学歴」
「みんな一流企業に就職する」etc.
そして、それらのイメージによって、総じて一般家庭では「東大に入れば人生の幸福が約束される」と思われている。
■東大のイメージと現実はあまりにも違う
だから、東大は依然として日本中から志願者が集まる国内最難関大学という地位をキープしているし、書店の平台には「東大に合格する勉強法」とか「わが子を東大に入れる育て方」といった本が数多く並んでいる。
進学校や予備校も東大を志望する学生を重宝し、さまざまな誘い文句で学生たちを東大受験へと駆り立てている。
実際、かつて僕は母校の中高一貫校から、「最近、うちは医学部を志望する生徒が増えているのだが、学校経営の点ではあまり望ましいことではない。新入生の数を左右するのは東大合格者数だ。東大志望者が増えるよう、東大卒の君に講演をしてほしい」と頼まれたことがあった。
しかし、実際に東大に通っていた人間として、これらいわゆる東大の「表」のイメージには常々、大きな違和感を覚えてきた。世間で共有されている東大や東大生、東大卒業生についてのイメージと、現実のそれらはあまりにも異なっているのだ。
テレビのなかの明石家さんまは、ひな壇に並んで座っている東大生たちに向かって「自分らすごいなぁ〜。ええなぁ〜」とかなんとか言っていたが、とんでもない。
■東大に入ってしまったために、早死する人もいる
東大は人生の幸福を決して約束などしてくれない。
むしろ逆に、東大に入ったある種の人間は、東大に入ったがゆえにつらい人生を送るはめになる。個人的な感覚では、「人生がつらくなってしまった人の方が多いのではないか?」とさえ思う。
極端な話、東大に入ってしまったがために若くして死ぬことすらある。僕たち東大に通っていた人間は、そのことをよく知っている。
東大に入っても夢がかなうとはかぎらない。逆に、東大が独自に採用している「システム」によって、小さいころからずっと抱いていた夢が無残に絶たれてしまうこともある。
東大生だからといって「頭がいい」わけではない。講義に出席すらしない学生が大勢いて、日本の大学のなかでも際だった留年率をたたき出しているのが東大だ。
「東大卒」という学歴を持っていても社会生活で有利になることは少ない。むしろ、さまざまなシーンで東大の看板は大きな負担となる。
官公庁、東証一部上場企業、外資系コンサルタント会社に就職できたところで、幸せになれるかどうかは別の話だ。東大を卒業して、その類いの職場で働く知人の多くが「仕事を辞めたい」と訴えている。
■「裏の東大本」を書くことにした
自身が経験し、また、間近で見聞きをしてきたことだから、僕たちにとっては分かり切ったことだけれど、世間の認識はそうじゃないんだよな――改めてそこまで考えたとき、東大をやたらともてはやすテレビや本とは別の角度で東大について書いてみようという気になった。
東大に対して漠然とした憧れを抱いている人たちに、「本当はそうじゃないんだよ」と伝えたい。居酒屋でたまたま目にしたテレビが図らずも本書の執筆の動機となったわけで、やはり編集者の言った「テレビを見ておかないといけないんじゃないですか?」という苦言は正しかったのだ。
「東大受験攻略本」「東大子育て本」「東大式勉強法」「東大ノート術」「東大読書術」「東大文章術」「東大式投資法」……東大をポジティブにテーマに組み込んだ本は数多くあるけれど、この本は、それらとは別の角度から東大について書いたものだ。東大と東大生、東大卒業生の表には決して出てこないネガティブなエピソード集――「裏の東大本」とでも言おうか。
■東大に入ったがゆえの「生きづらさ」
本を書くにあたって取材をはじめてみると、材料は簡単に集まった。「話はしてもいいけれど、本に書くのは勘弁してほしい」と言われることもあったが、そのようなケースを除いてもエピソードには事欠かず、少々胸やけがするほどだった。
やはり多くの東大卒の人間が、東大に入ったがゆえの「生きづらさ」を感じていた。じっと耐えている人もいたし、そこから逃れようとしている人もいれば、うまく逃れた人もいた。そして、逃げる前に「壊れた」人もいた。
本書は僕自身の経験も含めて、東大の卒業生たちから聞いた話を、随時補足を入れながら淡々と綴(つづ)ったものだ。実際、東大に通っていたことのある人なら、この類いの話はごく身近で起きていたこととして納得できるだろう。
冒頭の友人との会話は、こんな言葉で締めくくられた。
「東大に入ってもキツいばっかりやで」
「まぁね。入る前に知っておきたかったよね」
東大合格を目指して勉強に励んでいるあなた、自分の子どもはなんとしても東大に入れたいと思っているあなた、身のまわりにいる東大卒の人間のことをもっとよく知りたいと思っているあなた、東大を出たのに落ちぶれた連中を見てスカッとしたいあなた、そして、日々に生きづらさを感じている東大卒のあなた――この本が、そんなあなたの役に立ちますように。
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池田 渓(いけだ・けい)
ライター
1982年兵庫県生まれ。東京大学農学部卒業後、同大学院農学生命科学研究科修士課程修了、同博士課程中退。出版社勤務を経て、2014年よりフリーランスの書籍ライター。共同事務所「スタジオ大四畳半」在籍。
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(ライター 池田 渓)