本誌の取材に答える松田さん(仮名)

「僕たちは日大ラグビー部がもっと強くなるために、二度とこういった不祥事が起きてほしくないと思っています。だからこそ暴行の件は、きちんと明らかにしてほしいです」

 そのように話すのは、日本大学ラグビー部のOBで、現在は社会人ラグビーチームに所属する松田さん(仮名)だ。

 日大ラグビー部については8月初め、前ヘッドコーチ・A氏による暴行が明らかになった。一部報道では、部員の頭につまようじが刺さった写真とともに、苛烈な暴行内容も伝えられた。

 だがAコーチは、2020年3月に「一身上の都合」で辞任しており、その際、暴行についての説明や謝罪はなかったという。松田さんも、何度もAコーチから “言葉の暴力” を受けた。

「4年のときの合宿で、ミーティング中に意見を言ったんです。それが気に食わなかったのか、ミーティング後に『ラグビーに向いていない』『早く東京に帰れ!』と、次々にAコーチの罵声を浴びました。

 ふだんからAコーチの言葉で精神的に参っていて、この言葉で本当に『ラグビーをやめよう』と思ってしまったんです。『Aさんの言うことは気にするな』と声をかけてくれていた、ほかのコーチたちも、Aコーチを前にすると、まったく逆らえませんでした」

 加入が内定していた社会人チームに、松田さんは辞退を伝えた。だがチームは、「そんな部はすぐに辞めて、うちにおいで」と声をかけてくれた。

「そのおかげで、今もラグビーを続けられています。ですが、その後もAコーチからは『お前が行くチームには知り合いがいるから、内定を潰してやる』と、脅しの言葉を浴びせられました」(松田さん)

 それでも松田さんは、「僕はまだマシなほうですよ……」と話す。松田さんの後輩で、2019年まで日大ラグビー部に在籍し、今は社会人チームで活躍する横山さん(仮名)は、Aコーチのさらなる “鬼畜行為” を明かしてくれた。

「2019年8月中旬に、岩手県北上市でおこなわれた合宿でのことでした。被害に遭ったのは、僕の同級生です。もともと彼は、Aコーチからプレー面などを評価されていました。

 しかし、大学のテストの都合で合宿への合流が数日遅れたことが逆鱗にふれました。彼がAコーチのもとへ謝罪に行くと、コーチは突然、彼に馬乗りになり、あろうことか耳に噛みついたんです」

 その瞬間について、後日その同級生は横山さんに、「ただ驚きで、恐怖しかなかった」と、心境を明かしていたという。

「彼は顔面蒼白。耳は噛み切られて、出血していました。部屋にすぐ戻り、一緒にいた数人で傷口にガーゼを巻きましたが、宿舎が山奥にあり、病院には行けませんでした。そして、その夜に彼はひとりで、東京・稲城市の寮に戻ったんです。

 Aコーチは何か起きると、すぐに『連帯責任』を口にします。なので、『チームに迷惑をかけるのが怖いから……』と、アイツはすべてひとりで背負い込んだようでした」(横山さん)

 この被害を受けた元部員に取材を申し込むと、対面取材はかなわなかったが、事実の公表については了承してくれた。

 日大は一連の報道後、ラグビー部のホームページに「謝罪文」を掲載しているが、「隠蔽はない」としている。そこで、大学に事実確認を求めたが、「所管の関係機関と対応中の案件のため、個別の取材については回答いたしかねます」とのみ返答した。

 松田さんたちは、「後輩たちはいいチームなので、期待したいんです」と話す。学生のため、日大は “恐怖政治” と決別してほしい。

(週刊FLASH 2020年9月8日号)