「空自15分全滅説」の根拠 航空基地に「掩体」なぜ必要? 現代戦の定石から機を守れ!
海外の空軍基地などでは当然のように見られる「掩体」、日本の航空基地などではほとんど見られません。これがなかったために、たとえばエジプト空軍は過去、とても苦い経験をしました。どういうもので、なぜ必要なのかを解説します。
戦争の行方を左右する…かもしれない「掩体」とは?
あらゆるタイプの軍事基地において、最も大規模で最もお金を必要とするものは航空基地です。配備機種によっては数千m規模の滑走路が必要であり、駐機場、格納庫、各種整備に必要な装置や施設に加え、勤務する隊員の厚生施設に至るまで、ほんの数十機の航空機を運用するだけでも大変なお金と設備が必要になります。
掩体で防護されている台湾空軍の幻象2000-5(ミラージュ2000-5)。台湾もまた中国による飛行場の先制攻撃への対処が大きな問題となっている(関 賢太郎撮影)。
特に戦闘機を配備した航空基地において重要な設備に「掩体(えんたい)」があります。掩体とは戦闘機用の防空壕を意味します。鉄筋コンクリート製で、場合によっては鋼鉄の扉を持ち、内部に1機から2機の戦闘機を格納します。「強化ハンガー」または「バンカー」とも呼称し、その目的は飛行場攻撃において爆弾やミサイルから戦闘機を防護することです。
過去、掩体の存在が戦争の趨(すう)勢に大きな影響を与えることさえあったにも関わらず、航空自衛隊はその発足以来、慢性的に掩体が不足している致命的な問題を抱えています。
掩体が無い場合、戦闘機は駐機場か格納庫内で運用されることになりますが、これは大変危険です。なぜならば最新鋭のステルス戦闘機であろうとも、駐機場にあるあいだは単なる炭素と金属の塊に過ぎず、手投げ弾程度の爆薬でも十分に破壊できるからです。航空兵器として広く用いられている227kg爆弾の加害半径は約300mもあり、1発の爆弾さえあれば直撃しなくとも、格納庫内にある全機を破壊するに十分すぎるほどの威力を有します。
「掩体」がなかったためにタイヘンなことになった過去の事例
航空自衛隊の多くの航空基地には、2個飛行隊約40機の戦闘機が配備されていますが、掩体のない基地は、数発の爆弾さえあれば戦闘機をほぼ全滅させることが可能な状況にあります。
一方、掩体において戦闘機を防御している場合は、こうした心配はほぼ無用になります。掩体は破片を無効化するため至近弾を防ぎ、一度に何機も失われる可能性を完全に防ぐことができます。掩体内部の戦闘機を破壊するには鉄筋コンクリートを貫通可能な「バンカーバスター」などを「直撃」させなくてはなりませんから、戦闘機40機を全滅させるには全弾直撃したとしても、最低40発が必要です。
航空機が当たり前の存在になった20世紀以降、飛行場への奇襲攻撃は大規模な戦争においてほぼ必ず行われる作戦であり、しかもそれを事前に察知することは困難です。
たとえば1941(昭和16)年、第2次世界大戦の独ソ戦においては、ドイツ空軍の奇襲攻撃によって1日でソ連空軍機2000機が地上で破壊されてしまいました。太平洋戦争では日本軍がフィリピンの航空戦力を、ほぼ1日で事実上の壊滅に追い込みました。さらに1967(昭和42)年の第3次中東戦争では、イスラエル空軍が1日でエジプト空軍機450機を地上撃破するなど、こうした例は枚挙にいとまがありません。
初手で航空基地を叩くのは現代戦の「定石」…やはり必要な「掩体」
独ソ戦も太平洋戦争も第3次中東戦争も、「後になって考えてみれば」戦争の前兆はいくらでもありました。しかし未来を正確に予知することは極めて困難です。ある日、前触れもなく突然、戦争となり、数千億円、数兆円の戦闘機がたった1日で失われてしまうシナリオは、2020年現在においても十分に考えられます。
第3次中東戦争の当事者となったエジプト空軍は約400機あまりの戦闘機を全機、掩体運用で防護しています。日本の周辺国においても、北朝鮮や中国という現実的な脅威を抱える韓国空軍や台湾空軍、在韓アメリカ空軍戦闘機は、少数を除きほぼ完全に掩体運用しています。
駐機場において「列線運用」される航空自衛隊F-15。これらを全機破壊するには1発の小型爆弾があれば十分である(画像:航空自衛隊)。
2020年現在、航空自衛隊戦闘機の運用は以下の通りです。1個飛行隊あたりの配備数は約20機です。
●2020年8月現在 航空自衛隊の戦闘機運用状況
・千歳基地 F-15 2個飛行隊 1個飛行隊のみ掩体
・三沢基地 F-35 1個飛行隊 完全掩体
・松島基地 F-2 1個飛行隊 掩体無し
・小松基地 F-15 2個飛行隊 1個飛行隊のみ掩体
・岐阜基地 飛行開発実験団 掩体無し
・百里基地 F-2/F-4 2個飛行隊 掩体無し
・築城基地 F-2 2個飛行隊 掩体無し
・新田原基地 F-15 1個飛行隊 掩体無し
・那覇基地 F-15 2個飛行隊 掩体無し
+岐阜、松島を除く各基地4機分のアラート待機(対領空侵犯措置)用掩体
以上のように、航空自衛隊戦闘機の大部分はほぼ無防備の状態で置かれており、また那覇基地のように拡張する土地そのものがなく、現実的に掩体運用の難しい基地もあるようです。
冷戦時代より「航空自衛隊は15分で全滅する」などと自嘲気味に語られる現状は、いまもあまり変わっていません。