ミグとスホーイ統合でロシア戦闘機どうなる? その背景と現状 そして今後は…
旧ソ連およびロシアの戦闘機開発を長年にわたり担ってきた、ミグとスホーイの両航空機メーカーが統合に向け大きく前進しています。いずれも世界を舞台に活動していたメーカーでしたが、背景に何があり、そして今後どうなるのでしょうか。
ロシアの戦闘機メーカー ミグとスホーイがひとつになって…どうなる?
2020年2月7日、ロシアの航空機メーカーであるユナイテッドエアクラフトは、その傘下にある戦闘機開発メーカー、スホーイの最高経営責任者(社長・経営責任者)に、ミグ社最高経営責任者であるイリヤ・タラセンコ(Ilya Tarasenko)氏を選出し、スホーイ・ミグ両社の経営者のポストを統合したことを発表しました。スホーイ・ミグ両社の統合はかねてより計画されていましたが、これにより今後、ロシアの戦闘機開発は完全に一本化することになります。
大型戦闘機スホーイSu-27と比較的小型のミグMiG-29。どちらも同じ設計思想のもとに開発開始されスホーイは大型機を、ミグが小型機を目指した(関 賢太郎撮影)。
2020年8月現在、ロシアの航空機メーカーは、最も上部の組織として2006(平成18)年に発足したユナイテッドエアクラフトがあり、同社はスホーイ、ミグ、イリューシン、ツポレフ、ヤコブレフ、ベリエフといった、旧ソ連時代に「設計局」と呼ばれていた航空機メーカーを傘下に収めます。タラセンコ氏はスホーイ・ミグの最高経営責任者であるとともに、ユナイテッドエアクラフトの副社長を兼任しています。
タラセンコ氏は1980(昭和55)年生まれの現40歳。スホーイにおいてキャリアをスタートしたスホーイの生え抜きであり、2009(平成21)年には29歳にして早くもミグ副社長、2016年にミグ最高経営責任者へ就任しており、すでにこの時点から、将来的に若いタラセンコ氏を中心としてスホーイとミグを統合する方向性が示されていたと見られます。
事実上はスホーイがミグを吸収合併…背景になにがあった?
旧ソ連時代においては東側戦闘機の代名詞的存在だったミグ設計局は、冷戦終結後、その主力製品であるMiG-29シリーズ及び再設計によって大規模性能向上をはかったMiG-35の販売不振に見舞われ、長期にわたって苦戦を強いられていました。
一方、スホーイはSu-27シリーズの輸出が好調でした。そして2010年代は石油価格の高騰からエネルギー輸出に依存するロシア経済がかつての経済危機から復活、同時にロシア空軍は主力だった古い旧ソ連時代の戦闘機を一気に退役させ、スホーイSu-27SM、Su-30SM、Su-34、Su-35といった近代改修型を大量発注しました。
この時期、スホーイの戦闘機販売実績はミグを大きく引き離していました。今回の統合は事実上、スホーイ優位によるミグの吸収合併であるといえます。
一方で、ロシアの航空戦力刷新はほぼ完了しており、今後ロシア製戦闘機の生産、開発はほぼ確実に縮小する見込みとなっています。スホーイとミグの統合の目的は、2020年代以降の戦闘機市場縮小に備えた措置であると考えられます。
「ミグ」の名は消えてしまうの?
今後どのように推移するのかは分かりませんが、いますぐにミグが無くなるということはありません。
ミグ、正式名称「ロシアエアクラフトコーポレーション ミグ(RAC MiG)」は、少数ではありますがいまだ生産と近代化改修が続くミグ戦闘機ブランドを統括するとともに、現在はロシア製旅客機スホーイスーパージェット100(SSJ100)の整備拠点を建設しており、今後SSJ100の整備業務を担う見込みとなっています。また大型迎撃戦闘機MiG-31の後継機開発計画「PAK-DP」は、通称MiG-41とも呼ばれています。
MiG-31大型迎撃戦闘機。間もなく後継機PAK-DPの開発が本格化すると見られるが、どのような名称となるかは現在のところ不明(関 賢太郎撮影)。
2020年8月現在、ユナイテッドエアクラフトの組織内におけるスホーイ、ミグの位置付けは、以下のようになっています。
●株式会社ユナイテッドエアクラフト
・株式会社 ロシアエアクラフトコーポレーション ミグ
エンジニアリングセンター「ミコヤン実験設計局」(航空機開発部門)
・株式会社スホーイカンパニー
株式会社スホーイ設計局(軍用機開発部門)
・株式会社イルクートコーポレーション(旧 株式会社スホーイシビルアビエーション〈民間機開発部門〉、2020年2月27日、スホーイより分離のうえイルクートへ統合)