戦後75年、第二次世界大戦を振り返る映画10選〜邦画編〜
日本で第二次世界大戦が終戦を迎えてから、今年で75年。語り継がなければいけない戦争の姿を描いた映画を、邦画のなかから厳選してピックアップ。外出を控えたい夏休み、家で映画を観ながらいま一度、平和について考えてみよう。(文・早川あゆみ)
『戦場のメリークリスマス』(1983)
ジャワ島の日本軍捕虜収容所を舞台に、極限状態で芽生える奇妙な友情や、東洋と西洋の価値観の違いからの対立など、男たちの交錯を描いた人間ドラマ。『御法度』の大島渚がメガホンを取り、デヴィッド・ボウイ、坂本龍一、ビートたけしら異業種の才能を集めたキャスティングは大きな話題を呼んだ。あまりにも有名な主題歌は音楽監督も務めた坂本の作曲。また、ラストシーンのたけしのアップはいまだに語り草になる名シーンだ。美しさが際立つボウイと坂本のキスシーンや、戦争映画なのに戦闘シーンがないことなど、さまざまな意味で異色作。
『火垂るの墓』(1988)
野坂昭如の半自伝的短編小説を原作に、『かぐや姫の物語』などの高畑勲が監督と脚本をつとめたアニメ映画。戦時下の神戸で、孤児となった4歳と14歳の兄妹が必死に生きようとするも悲劇的な最期を迎えてしまう姿を切なく描く。妹が好きだったドロップの缶や、2人が見る儚く美しい蛍、さらに現代と戦時下の街の対比などで、ささやかな幸せを奪う戦争の悲惨さを如実に示している。公開時は『となりのトトロ』と同時上映で、ともにスタジオジブリの名を世に知らしめた名作だが、ほのぼのとした『トトロ』とのあまりのテイストの違いに衝撃を受けた観客も少なくない。
『TOMORROW 明日』(1988)
井上光晴の原作をもとに、『美しい夏キリシマ』の黒木和雄監督が主演に桃井かおりを迎え、原爆が投下される直前の1日を描いたヒューマンドラマ。1945年8月8日の長崎、結婚式があげられたその場で、産気づく新婦の姉、妹の恋人には赤紙が届き、捕虜の手ひどい扱いに憤慨する青年。人々は今日と同じ平穏な明日が来ることを疑わずにいた。戦時下とはいえ穏やかに続く市井の日常が丁寧に描写され、日々の小さな出来事がかけがえのない幸せなのだと実感できる分、たった1発の原爆ですべてが消失してしまうことの理不尽さが際立つ。軍艦も死体の山もないが、まごうことなき戦争映画だ。
『きけ、わだつみの声 Last Friends』(1995)
第二次大戦末期に戦没した学徒兵の遺稿集「きけ わたつみのこえ」をもとにした戦後50年記念作品。1995年、タックルを受けて気を失ったラガーマンが気づくと、そこは学徒出陣の壮行会場だった。同じラガーマンたちと親交を深めるも、彼らはみな出陣し、過酷な戦いに身を投じていく。出演は織田裕二、仲村トオル、風間トオル、緒形直人ら当時の若手人気俳優たち。キラキラした彼らが演じたからこそ、青春を封印されて戦いに赴く悲劇がクローズアップされた。タイムスリップというSF的展開ではあるが、遺稿集が原作ならではの生々しい描写も胸に迫る。
『男たちの大和/YAMATO』(2005)
作家・辺見じゅんが、沈没した戦艦大和の生存者や遺族に取材した「男たちの大和」を原作に、『人間の証明』などの巨匠・佐藤純彌監督が手掛けた終戦60周年記念の超大作。大和の沈没箇所に生き残りだった祖父の散骨をしようとする女性を案内した漁師もまた、かつて大和の乗組員だった。反町隆史、中村獅童、松山ケンイチ、渡哲也、鈴木京香ら豪華な顔ぶれで、愛する人を守るという大義のもとに戦いに赴く、熱く悲しい青春群像が描かれる。艦首から艦橋付近まで原寸大で再現された大和のセットで撮られた映像は圧巻。長渕剛が情感たっぷりに歌う主題歌も戦争の悲劇性を盛り上げる。
『永遠の0』(2013)
百田尚樹のベストセラーを『ALWAYS 三丁目の夕日』シリーズの山崎貴が監督した大ヒット映画。戦争という極限状態での命の重さについて描いた物語だ。家族のもとに帰ることにこだわり、天才的な技術を持ちながら“海軍一の臆病者”と呼ばれた特攻隊員を岡田准一が毅然とした佇まいで好演し、生きることを諦めなかった彼がなぜ特攻したのかを探る孫は、先ごろ亡くなった三浦春馬が熱演している。山崎監督らしい細部まで凝ったVFXはリアルな戦争を疑似体験させてくれるだろう。この年の日本アカデミー賞で作品、監督、主演男優など8部門で最優秀賞を受賞した。
『少年H』(2013)
妹尾河童の自伝的小説を『コンフィデンスマンJP』などの古沢良太が脚本、『鉄道員(ぽっぽや)』の名匠・降旗康男が監督したヒューマンドラマ。神戸を舞台に、時代に翻弄されながらも信念を貫いた家族の戦前から戦後までの20年を描く。主人公は、「H」と呼ばれた少年・肇の父で、演じるは水谷豊。実際にも水谷の妻である伊藤蘭と夫婦を演じたことも話題となった。スパイとして逮捕される父、学校での軍事教練、疎開、空襲……家族の日常は戦争によって次々と奪われていくが、決してくじけずに立ち上がる姿に勇気をもらえる。
『日本のいちばん長い日』(2015)
半藤一利の同名ノンフィクションを『クライマーズ・ハイ』の原田眞人監督が映画化。1945年、連合国にポツダム宣言受諾を要求された日本は降伏か本土決戦かの決断を迫られていた。原爆が投下され、一億総玉砕がとりざたされる中、若手将校らのクーデターが画策される。8月15日の玉音放送で無条件降伏が発表されるまでの歴史の裏側を、緊張感あふれる筆致で描く衝撃作。役所広司、松坂桃李、堤真一、山崎努ら実力派が、阿南惟幾陸相など歴史を動かした実在の人物を熱演。なかでも、邦画史上初めて描かれた明確な姿の昭和天皇を演じた本木雅弘の佇まいに賞賛が集まった。
『この世界の片隅に』(2016)
こうの史代の同名コミックを原作に、『アリーテ姫』の片渕須直が監督した長編アニメ。1944年、広島から呉に嫁いだ18歳のすず(声:のん)が、持ち前ののんきさで素直に明るく暮らし、不自由ながらも豊かに生きようとする姿を描く。穏やかで温かい水彩画風のタッチで、戦時下であろうと日常はいま現在とも地続きであることを示唆、日々を地道に生きていくことの大切さを声高ではない形で見せる。クラウドファンディングで製作資金が集まったことでもわかるように、準備段階から多くの人が本作を支持、公開されてからも口コミでの高評価により異例のロングランヒットを記録した。
『アルキメデスの大戦』(2019)
原作は、戦艦大和の建造計画をめぐる政治的攻防を描く三田紀房の同名コミック。『永遠の0』の山崎貴監督が、得意のVFXと抜群のリサーチ力で史実を忠実に再現した、第二次世界大戦での大和沈没の映像は大迫力だ。山本五十六役の舘ひろしをはじめ、田中泯、橋爪功、小林克也、國村隼ら実力派俳優陣に一歩を引けを取らず、流れるように数式を語る主人公の天才数学者を演じる菅田将暉の熱演が光る。彼が現実的かつ効率的に大和建造計画の誤りを説けば説くほど、計画を推し進める軍という組織の理不尽さがあぶり出されていき、最後に明かされる闇の深さに戦慄させられるだろう。