世の中には、さまざまなパートナーシップのかたちがあります。すでに名前のついている関係だけでなく、人が2人集まれば、その関係性なんて千差万別のはず。

編集部は、世間的にはまだ珍しい選択をした1組のカップルと出会いました。

めいちゃん/荒井めい (@farb_) | Twitter
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荒井めいさん。大学の通信課程でジェンダー論などを学ぶ大学生。荒井由実の音楽が大好き

まきを(@mmaquiwo)| Twitter
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まきをさん。フリーランスのエンジニア。美術とカードゲームが好き

めいさん、まきをさんの2人が選んだパートナーシップは、「養子縁組を結んで、家族(親子)になる」というかたち。

27歳にして、成人の娘を持ったまきをさんは「結婚こそ最高の制度だと思われているけど、本当にそうなのかな?って気持ちがある」と語ります。

果たして、どんな思いで恋人と養子縁組を結んだのか。お話を伺うなかで、「人間同士の向き合い方」のヒントを得ることができました。

〈聞き手=いぬいはやと〉



養子縁組制度を“カードゲーム的に”使えば、いろんなパターンの家族が作れる?

いぬい:
今日は、「養子縁組」で家族になったおふたりに、いろんなお話を聞きたいです。

そもそも僕がおふたりのことを知ったのは、めいさんが書いたこのnoteがきっかけで。

好きな人と養子縁組して家族になりました(そして日常は続いてゆく)|荒井めい|note
https://note.com/shinmei/n/n95141e3644b2

めいさん:
ありがとうございます。SNSでも、たくさんの人が好意的なコメントをくれて…意外でした。


取材を受けるのは初めてということでちょっぴり表情が固いおふたり。慎重に話を聞いていかないと…

いぬい:
まずは、おふたりの馴れ初めから伺ってもいいですか?

まきをさん:
最初は、「Twitterに面白い女の子がいるな」と思って、フォローしたのがきっかけでした。

それから、彼女が主催しているイベントやパーティーに参加して、仲良くなっていった。

めいさん:
私は最初に会ったときから不思議な人だなと思って、一目惚れに近かったです。

一度は「付き合う気はない」と断られたけど、そのあとにラブレターを送ったら、返事をくれて。恋愛関係になったのは、今年の2月くらいからですね。


パーティー…ラブレター…。素敵で、都会的な恋愛だ…

まきをさん:
一緒にいるなかで、だんだん「この人と家族になったら楽しいかもな」と思うようになって…

いぬい:
あれ、これ結婚する流れじゃないか…?

まきをさん:
養子縁組をして、僕の娘になりませんか?」と伝えました。

いぬい:
どうしてそうなるんですか???

めいさん:
私も「面白そうだな」と思って、はい、と返事をしました。

いぬい:
トントン拍子すぎません???

家族になりたいと思ったら、「結婚」が浮かびやすいと思うんですが…どうして「養子縁組」を?



まきをさん:
僕はこれまで何人かの女性と付き合って、「1対1で付き合うと、相手に依存してしまう」と思ってたんです。

本当は、「友達6人くらいで同じ場所に暮らして、たまに集まって食事をしに行く」くらいがちょうどいいなと。

結婚だと相手への依存度がすごく高いし、契約が多すぎる。結婚だけの価値観に縛られない、ほかの家族のかたちを考えてみたかったんです。

いぬい:
「自分にとって無理のない、人との関わり方」を模索していたんですね。

まきをさん:
そんななかでいろいろ調べていて、「養子縁組」って不思議な制度だってことに気付いたんです。

そもそも、僕はカードゲームが好きなんですけど…

いぬい:
カードゲーム?

まきをさん:
カードゲームって、ルールの中で「いかにズルく、楽しくするか」を考えるのが醍醐味なんです。

現実の生活でも、世の中のルールを活用して楽しい暮らしを実現できたらいいなと思って。

いぬい:
ライフハック的な発想ということですかね? 養子縁組とはどんなつながりが?

まきをさん:
まず、“養子縁組制度”(※1)について簡単に説明すると、「養子となる人の実親との関係を残しつつ、誰かと新しい親子関係を結ぶ制度」です。

養親が成年以上で、養子が養親より年下であれば、本人同士の同意の元に親子関係を結ぶことができます。そして、お互いの同意のもとに役所に届け出れば、いつでも関係を解消(=離縁)できる。


※1 参考=厚生労働省 資料「普通養子縁組と特別養子縁組について」



まきをさん:
これだと結婚にあるような“同居義務(※2)”はないし、“貞操義務(※3)”もない。でも、血縁関係がなくたって家族になれるんです。実際、同性パートナー同士が家族になるため、制度が活用された前例もあります。

この制度を使えば、擬似的な一夫多妻制とか、「友人6人が家族になる」とか、いろんな家族のパターンを作れるんじゃないか、面白そうだなと思ったんです。

ルール内で予想外のことをする、まさにカードゲームのように


※2 夫婦が同居して生活する義務(基本的には別居すべきでないとされる)
※3 夫婦が互いに配偶者以外の者と性交渉を持たない義務

いぬい:
なるほど、「いろんな家族のパターンが作れる」からこの制度を選んだと…まきをさんのなかでは、一般的な“家族”のパターンではしっくり来なかったんですか?

まきをさん:
そうですね。世の中はまだまだ「結婚中心主義」だと思っていて。そこへのカウンター的な気持ちもあります。

日本では「結婚」が当たり前でも、少し違う社会に行けば多様な家族のかたちがある。社会の中で作られた価値観なら、自分たちにフィットするよう作り直すことだってできると思うんです。

「貞操義務」に依存しない関係を試すため、ほかの男の人と…

いぬい:
養子縁組」という関係は、いわゆる通常の夫婦とはどんなところが違うんでしょうか。

たとえば今お話に出た「貞操義務」は…?

まきをさん:
そこに関しては、「愛しているけど、他人でいる」という距離感を大切にしたいと思っているんです。

結婚のように「義務」を負いたくないというか。

めいさん:
私もそれに共感して、「束縛や嫉妬のない関係でいたい」と話してます。

恋人としても特殊だなと思うのが、私たち、ほぼ連絡を取りあわないんです。LINEも最近まで知らなかったし、電話番号は今も知らない。週に一度会って、デートをするだけ。

いぬい:
ええっ!? 確かにそれはあまり聞かない恋人関係かも…

とはいえ、いくらなんでも「嫉妬しない」というのは難しいのでは?



めいさん:
だから私、試してみたんです。

いぬい:
試す??

めいさん:
ほかの男の人とデートして、ホテルに行ってみたんです。

いぬい:
えっ。まきをさんにはそのことを言ったんですか?

めいさん:
私がそのことをツイッターに書いたので、彼はそれを見て知った感じです。

いぬい:
なかなか過激な実地訓練ですね…

まきをさんはどう思いましたか…?



まきをさん:
めちゃくちゃモヤモヤしました。

いぬい:
嫉妬してる

めいさん:
でもそのあと、会ったときの彼の一言に驚いたんです。

私が「どうでしたか?」って聞いたら、彼は「修行します」って答えたんですよ。

いぬい:
修行???

まきをさん:
最初こそモヤモヤした気持ちだったんですけど、「この気持ちは何だろう」って考えるうちに、「自分の自信のなさが、この気持ちの正体なんじゃないか」とか、少しずつ感情を分解できたんです。

世の中のことを全部わかるわけじゃないし、このぼんやりした感情と一緒に生きていこうと思って。



めいさん:
これってすごいことだと思うんです。今まで付き合った人からは「あなたにはこういう人でいてほしい」と要望を言われることが多かった。でも、彼は「僕はこう向き合います」と、自分の話をしてくれたんです。

恋人のことを、自分がどう捉えるか、どう折り合いをつけるか…それを話し合える2人になれるんじゃないかと思いました。

まきをさん:
「世の中の当たり前はこうでしょ」と言いたくないなと思っていて。ちゃんとゼロから、2人の間でどう考えるべきかを話していきたい。

人間関係をサボらない」ということを、大事にしたいんです。

めいさん:
もちろん、「こうしたら相手を傷つける」とわかったことに関しては、各々で改善していけばいいと思います。

いぬい:
なるほど…結婚していると、今の話も“貞操義務”に反しているという理由で一発アウト。「夫婦なんだから当たり前でしょ」と、議論にもならない気がします。

そのルールに縛られず、「2人だけのルール」を新しく考えようとしているんですね。

「自由でいいな」とも思えますが、そこにはたくさんの努力がありそうですね。



まきをさん:
たぶん、ルールを話し合うこと自体が好きなんですよね。

めいさん:
そこは2人に共通する性分かもしれませんね。

「誠実さとは何か」と考えて、サイン済みの「養子離縁届」をお互い持つように

いぬい:
縁起でもない質問なんですが…養子縁組って「別れる」こともできるんですか?



まきをさん:
「養子離縁届」という書類があって、養子縁組を解消することができるんです。

僕たちは、サイン済みの「養子離縁届」をお互いに持ってます

関係性が崩れたな、と思ったときに、どちらからでも勝手に離縁できるように。

めいさん:
それから、1年に1度の更新日を設けているんです。この関係性を、また1年続けますか?っていう確認のために

いぬい:
「一生を添い遂げる」という契約にしてないんですね。それも結婚と違うところだなあ…

まきをさん:
「一生愛します」と「離縁する可能性もあります」って、どっちが誠実なんだろうと思うんです。

関係を続けたければ、ちゃんと考えたうえで、毎年「続けましょう」を選んだらいいですよね。


ちょっとうれしそうな顔をするめいさん

めいさん:
私も同じ気持ちですね。“一生”のニュアンスを含むよりも、来年どうなっているかわからない人間関係のほうが自分に合ってる。

誠実さって「目の前に大事な人がいて、その人を傷つけることを避けるために、どれだけ今までの経験とか知識を使えるか?」ってことだと思うんです。

そういう意味では、私たちはお互いに誠実でいると思う

「本当は、普通の結婚にも憧れてるんです」

いぬい:
お話を聞けば聞くほど、お二人は互いによく話し合って、いい関係性を築いているなと感じます。

養子縁組という制度を使って、自分たちだけのルールを見つけようとするのも…世の中のいわゆる「普通」の規範に入らない、と感じる人たちにとって希望になると思います。


チラッ…とまきをさんを見るめいさん

いぬい:
? めいさん、どうされました?

めいさん:
…ただ私、もともとは「普通に結婚したい」って思ってたんですよ。

いぬい:
えっ、そうなんですか。その気持ちは今でも…?

めいさん:
どうなんだろう

私は大学でジェンダー論やフェミニズムについて学んでるんですけど、学べば学ぶほど、自分は「お嫁さんになって家事がしたかったんだな」と実感するんです。

今まで見てきた“幸せ像”のイメージなのかな。「型にハマった幸せ」が気持ちいいことも、感情としてすごくわかるんです。

いぬい:
それなのに、どうして養子縁組を受け入れたんでしょう?

めいさん:
名字を変えたかったんです。私の戸籍、ちょっと複雑で。親の離婚や結婚で、自分が知らないうちに名字が変わっていることがあった。なんとなく、自分の名前を自分のものだと思っていなかったんです。

でも、養子縁組になれば自分の選んだ名字を名乗ることができる。気に入った名前になるのはうれしかったです。

いぬい:
いろんな感情があったんですね…

めいさん:
最初は「ずっと一緒にいてくれるってこと?」「結婚みたいなこと?」って舞い上がってました。

養子縁組を組んだ人とは親子関係になるので、結婚できなくなるって知って、迷ったこともありましたけど…



めいさん:
でも、たくさん考えて、気づいたんです

法律の制度があるからって、人と人の関係は“何も変わらない”って。

結婚は、「契約しなきゃいけないこと」がとても多い制度なんです。でも、その契約があるからって来年どうなってるかはわからない。

結局、人と一緒にいるにはお互いの意思を日々尊重しつづけるしかないんですよね。



まきをさんが話してくれた「人間関係をサボらない」という言葉、めいさんの「日々、お互いの意思を尊重するしかない」という言葉には、恋愛や結婚のみならず「人間同士の関わり合い方」のヒントが込められていました。

世の中の「恋人なんだから…」「夫婦なんだから…」に縛られることなく、オリジナルな関係性を築こうとしているめいさんとまきをさん。

おふたりにマッチしたのは「養子縁組」という制度ですが、それにとどまらず、我々R25世代は本当に自分に合ったパートナーシップを模索してもいいのかもしれません…。

〈取材・文=いぬいはやと(@inuiiii_)/編集=天野俊吉(@amanop)/撮影=藤原慶(@ph_fujiwarakei)〉