イギリス空軍は2020年6月26日(現地時間)、王族や閣僚が利用するVIP仕様の空中給油・輸送機ボイジャー(エアバスA330MRTT)が、一新された塗装で初めての任務を実施したと発表しました。空中給油機がVIPを乗せる専用機を兼ねているのは、世界的に見ても非常に珍しいことです。

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 イギリス空軍の空中給油・輸送機ボイジャーは、エアバスA330-200をベースにした空中給油・輸送機仕様のA330MRTT(Multi-Role Tanker/Transport)。従来のロッキード・トライスター(L1011)やヴィッカースVC10の後継として14機が発注され、2011年から就役しています。

 ボイジャー(A330MRTT)の特徴は、空中給油装備を除けば通常のA330-200とほとんど変わらないこと。旅客機と同じように最大291名を乗せることができ、胴体下部の貨物室には旅客機用の貨物コンテナを搭載することができます。

 客室内を旅客機のように、用途に合わせて改装することができるため、イギリス空軍ではボイジャーを様々に活用しています。たとえば患者の搬送任務仕様では、最大で40のストレッチャーを搭載可能。王族や閣僚などVIP仕様もその一環ですが、この任務には「ベスピナ(Vespina)」という固有名がつけられた、ZZ336が専用機として指定されています。

 これまで「ベスピナ」は、ほかのボイジャーと同じ塗装が施されており、VIP輸送任務以外では通常の空中給油・輸送機として運用されてきました。しかしVIPを乗せて各国へ専用機として向かった際、軍用機丸出しの塗装はあまりにも地味。そこで改めて専用デザインの塗装を施すことになったのです。

 デザインは女王をはじめとする王族や、首相ら国を代表する人々を乗せて世界中に飛んでいくことを考慮し、イギリスらしく、そして良いイメージを伝えられるようなもの。基調の色は白とし、ゴールドで書かれた「UNITED KINDOM」の文字が印象的です。


 機体番号「ZZ336」が大きく書かれた胴体後部から垂直尾翼にかけては、流れるようなイギリス国旗(ユニオンジャック)が描かれます。これまでのグレーとは見違えるような仕上がりで、民間航空会社ブリティッシュ・エアウェイズの新塗装と言われても違和感のないものです。

 イギリス国旗は胴体前方にある4つの搭乗口扉にも。そして、エリザベス女王が使用する搭乗口の横には、エリザベス女王の紋章が描かれました。


 新デザインの塗装に包まれたZZ336「ベスピナ」は、拠点であるオックスフォードシャーのブライズノートン空軍基地へ戻り、6月26日に海軍との共同訓練「クリムゾン・オーシャン」に臨みました。


 訓練ではユーロファイター・タイフーンや、F-35Bに対して空中給油を実施。空中給油用のドローグホースがなければ、民間旅客機と飛行しているようにしか見えません。



 VIP用空中給油・輸送機ZZ336「ベスピナ」を運用する、イギリス空軍第10飛行隊長のアリステア・スコット中佐は「この新しい塗装はとても素晴らしいものですが、実際にはほかのボイジャーと全く変わりません。基本的には同じような防衛任務をこなすことができますし、特にユーロファイター・タイフーンやF-35Bライトニングを地球の隅々にまで展開させるため、空中給油を実施します。今回の『クリムゾン・オーシャン』訓練に参加し、ボイジャーの能力をお見せできたことは非常に光栄なことです」との談話を発表しています。



 今後ともZZ336「ベスピナ」は、通常はほかのボイジャーと同じく、空中給油・輸送機として運用されます。しかし、ひと目でそれと分かる塗装になったことで、これからはファンの注目をますます浴びることになりそうです。

<出典・引用>
イギリス空軍 ニュースリリース
Image:RAF, Crown Copyright 2020

(咲村珠樹)