科学に裏付けされた「脳の健康を保てる5つのちょっとした習慣」とは?
誰しもできるだけ脳を健康に保ち、年をとっても若い頃と同じ思考力や記憶力を保ちたいと願うものですが、実際に何らかの活動や対策を日常的に行っている人は多くないはず。そこで、科学系ニュースサイトのInverseが、科学的な研究や実験により判明した「脳の健康を維持する5つの何気ない習慣」をまとめました。
Scientists reveal 5 daily activities to boost brain health
◆1:歩く
適度な運動が体にいいことは周知の事実ですが、ドイツ神経変性疾患センターのKatharina Wittfeld氏らの研究により、「運動に伴う最大酸素摂取量の増加が、認知機能の保持や老化に関与する領域である灰白質と総脳容積の増加と強く関連している」ことが明らかになっています。
Wittfeld氏らが、合計2013人のドイツ人が参加した個別の研究2件を横断的に分析したところ、有酸素運動をしている人は高齢になっても脳の灰白質と呼ばれる部分の体積が多かったとのこと。
運動で脳を健康にするには、なにも激しいランニングやサイクリングをする必要はありません。ニューメキシコハイランズ大学のErnest Greene氏らは、ウォーキング中の足の筋肉の働きにより、脳の血流量が増加することを突き止めました。
また、運動とニューロンの発達に着目した別の研究でも、「脳には運動が必要」だという結果が示されています。
なぜ脳には運動が必要なのか? - GIGAZINE
◆2:お茶を飲む
シンガポール国立大学Yong Loo Lin医学校の主任研究員であるFeng Lei氏の研究によると、25年間にわたり緑茶、ウーロン茶、紅茶のいずれかを週に4回以上飲んでいた人は、そうでない人に比べて脳の各領域の相互接続が効率的だったとのこと。
このことについてFeng氏は「脳の相互接続を、建物を結ぶ道路だと考えてください。交通システムがきちんと整備されていれば、車や乗客の移動は効率的で、資源の消費も少なく抑えられます。同様に、脳の領域間の接続が高度に構造化されていると、情報処理も効率的になります」と話しています。
◆3:禁煙などにより心臓をいたわる
アメリカにあるエモリー大学医学部のViola Vaccarino教授らの研究チームは、明らかな心血管の疾患や認知症などをわずらっていない双子の被験者272組、合計544人の健康状態を調べる研究を行いました。その結果、心血管疾患の危険因子である喫煙歴、肥満度指数、血圧などのスコアが良好な人ほど、認知テストの結果も良好な傾向があることが判明しました。
Vaccarino教授は心臓と脳の関係について「双子の研究により、循環器の健康状態が認知能力と関係が深いことが確認されました。また、研究結果の分析により、双子に共通する家族性因子が心血管と脳の健康の関連性の大部分を説明することも判明しています」と述べました。
◆4:不要な情報を忘れる
カナダ・モントリオール神経研究所の神経学者で、マギル大学コンピュータサイエンス学部のAI研究者でもあるブレイク・リチャーズ氏は、「人間の記憶の本質的な目的は、正確な情報を長期間保有することではなく、貴重な情報だけを保管することでより知的な意志決定が行えるよう最適化することです」と話しています。
人間の脳内で記憶をつかさどっているとされる海馬では、新しいニューロン接続を生成する際に、古い記憶が格納されている領域を上書きしてしまうということが行われているそうです。
リチャーズ氏は、「人が生きていく過程で、脳が常に別々の記憶をいくつも思い起こしていると、人は記憶に基づいた意志決定を行うことが難しくなります。大切なのは、1972年に優勝したアイスホッケーチームがどこかを覚えていることではなく、状況に応じた意志決定ができる知的な人間になることです。そして、そのためには不要な情報を忘れることが重要なポイントになります」と話しました。
◆5:適量の飲酒
過去の研究により、飲酒は脳を老化させることや、適度な飲酒であっても脳卒中のリスクは高まることが判明しているため、アルコールが脳の健康にいいというのは意外に思えます。
しかし、ロチェスター大学医療センターの神経科学者であるMaiken Nedergaard氏が行った、「マウスに低容量・中容量・高用量のアルコールを長期間投与する」という実験では、「低容量のアルコールを摂取したマウスは脳の炎症が少なく、老廃物を除去するリンパ系の働きも効率的だった」という結果が得られたとのこと。
このことからNedergaard氏は「低レベルのアルコールを摂取すると炎症が抑制され、アルツハイマー病に関連するとされる毒素の除去が促進されると考えられます。これまでの研究でも、高用量のアルコールが認知機能低下リスクを増大させる一方で、低〜中程度のアルコール摂取は認知症リスクの低下と関係があるという現象が指摘されていますが、今回の研究結果がメカニズムを説明するのに役立つ可能性があります」と述べています。
なお、この実験でマウスに与えられた低容量のアルコールは、人間に換算すると1日当たり2.5ドリンク(基準飲酒量)になるとのこと。1ドリンク当たりのアルコール量は国によってまちまちですが、標準的に使用されている「1ドリンク=10g」という基準量に当てはめると25gとなります。これは、ビールに換算すると500ml缶1本、日本酒なら1合前後で摂取されるアルコールの量に相当します。
◆脳トレーニングは役に立たない可能性大
脳の体操として、クロスワードパズルが雑誌や新聞に載っているのを見たら挑戦するようにしているという人も多いはず。しかし、フロリダ州立大学の心理学教授でInstitute for Successful Longevity(成功長寿研究所)の所長でもあるNeil Charness氏の研究の結果からは、クロスワードパズルは脳の健康にはそれほど貢献しない可能性が示されています。
Charness氏は、アメリカで10億ドル(約1090億円)規模の市場を形成しているとされる脳トレーニングが実際に認知機能の維持に役立つかを調べるため、「65歳以上の高齢者60人に対し1カ月間にわたり毎日45分の脳トレーニングをやってもらう」という実験を行いました。実験には、特別に用意された脳トレーニング用のゲームのほか、クロスワードパズルや数字パズルが使用されました。
しかし、実験後の被験者は脳トレーニング用のゲームやパズルが上手になった一方で、情報を一時的に保存するワーキングメモリの増加は見られなかったとのこと。
この結果からCharness氏は「確かに、訓練すればワーキングメモリを使用するタスクが非常に得意になります。しかし、こうしたスキルは非常に限定的なものになりがちです。クロスワードパズルの達人になったからといって、鍵がどこにあるか覚えていられるかというと、答えはおそらく『ノー』でしょう」と話しました。